「全部断られました」車検先探しで10か所全滅…トラブル続きの国産名スポーツカーに還暦オーナーが惚れ込むワケ

「10か所ぐらい連絡して、全部断られました」。1965年式のホンダS600を所有する自営業の男性オーナーは、昨年の車検先探しをそう振り返る。オーナーは、この1台と同じ65年生まれの60歳。もともとは英国車を探していたが、偶然出会った赤いS600に心を奪われた。購入後、部品の少なさに加え、納車翌日にはエンジンがかからないトラブルにも直面した。それでも、この1台への思いは揺るがない。なぜ男性は、手をかけてまで半世紀以上前に生まれた愛車に乗り続けようとするのか。

オーナーと同じ1965年に生まれたホンダS600【写真:平木昌宏】
オーナーと同じ1965年に生まれたホンダS600【写真:平木昌宏】

【愛車拝見#370】60歳の男性が一目惚れした“同い年”のホンダS600

「10か所ぐらい連絡して、全部断られました」。1965年式のホンダS600を所有する自営業の男性オーナーは、昨年の車検先探しをそう振り返る。オーナーは、この1台と同じ65年生まれの60歳。もともとは英国車を探していたが、偶然出会った赤いS600に心を奪われた。購入後、部品の少なさに加え、納車翌日にはエンジンがかからないトラブルにも直面した。それでも、この1台への思いは揺るがない。なぜ男性は、手をかけてまで半世紀以上前に生まれた愛車に乗り続けようとするのか。(取材・文=平木昌宏)

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 赤い小さなオープンカーが、境内でひときわ目を引いていた。4月26日、東京・葛飾区の葛西神社で行われた「第3回 葛飾クラシック&スポーツカーフェスティバル in 葛西神社」。ホンダS600のそばで、オーナーの男性は穏やかに笑っていた。

 この車を手に入れたのは約2年前。最初からS600を探していたわけではなかった。

「本当は全く興味がなかったんです。オープンカーはもともと好きで、オースチン・ヒーレーという車を探している時に、たまたまこれが出てきちゃって」

 偶然見つけたはずのS600が、次第に頭から離れなくなった。中古車情報に出ていた候補は3台。男性は実車を確認するため、各地へ足を運んだ。そのうち1台は、東京から新幹線で岡山まで見に行った。だが、実際に見ると状態は思っていたほどではなく、購入には至らなかった。

 その後、ダメ元で見に行った別の個体が、現在の愛車になった。購入したのは名古屋。前オーナーは約20年所有していたといい、ガレージで大切に保管されていた。出所もはっきりしており、状態の良さが決め手になった。

 もう一つ、男性の背中を押した理由がある。S600は1965年式。男性自身も65年生まれだった。「同じ年式の車が欲しかったんです」とオーナーは語る。もともとは英国車を探していたはずが、気づけば国産オープンカーに心をつかまれていた。

「乗った感じは、すごいバイクみたいな感じでいいんです。排気音もいいですし」とオーナーは声を弾ませる。男性にとってS600は、単に古い車ではなく、乗るたびに気持ちを動かしてくれる存在になった。

道行く人が思わず振り返る、赤いホンダ初期の名オープンスポーツ【写真:平木昌宏】
道行く人が思わず振り返る、赤いホンダ初期の名オープンスポーツ【写真:平木昌宏】

納車翌日にエンジン故障、車検先は約10か所全滅…それでも手放さないワケ

 ただ、旧車生活は楽しいことばかりではない。納車の翌日、いきなりエンジンがかからなくなった。最初はバッテリーを疑いながら原因を探ったが、自分だけでは特定しきれない部分もあった。

 大きな故障が頻発しているわけではない。それでも、半世紀以上前の車だけに、部品は簡単には手に入らない。整備や車検を頼める先も限られる。特に苦労したのが、昨年の車検だった。

「10か所ぐらい連絡して、全部断られました。しかも“旧車専門”とうたっている業者にも」

 旧車を扱っている業者でも、65年式のS600を受け入れられるとは限らない。ホンダのディーラーにも相談し、実際に車を持ち込んだこともあった。しかし、古いS600の車検を任せることは簡単ではなかったという。だからこそ、今のホンダに対しても思うことがある。「本当は、古い車にも部品を供給するとか、やってもらえたらいいと思います。本田宗一郎さんの精神で、こういう遊び心のある車を出してほしいですね」と願う。

 それでも、男性の表情は暗くない。街を走れば、道行く人が振り返ることもある。イベントでは声をかけられることも少なくない。「目立ちたがり屋という面もあると思うんですけど。みんな振り返ると、楽しくなっちゃいます」と男性は笑った。

「正直、年も年なんで、手放さなきゃいけない時はあるかなと思っているんです。でも、こういうイベントに来ちゃうと、皆さんの努力を見ちゃう。そうすると、俺だって、と思っちゃうんです」

 周囲の旧車オーナーたちが、それぞれ工夫しながら愛車を維持している。その姿を見ると、自分もまだ頑張ろうと思える。そうした仲間たちの存在が、今でもS600に乗り続ける理由になっているという。

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