「優勝レベルの芸人はもう出てこない」 ハリウッドザコシショウ、SMA後輩芸人への苦言の真相

M-1グランプリ王者のウエストランドがネタの中で披露した「R-1には夢がない」発言に始まり、オリエンタルラジオ・中田敦彦の松本人志批判、英国オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』でのとにかく明るい安村の快進撃など、昨年末からさまざまなニュースが巡ったお笑い業界。そんなホットな話題の数々について、『R-1グランプリ2023』で3年連続の審査員が決まり“芸人の中の芸人”との呼び声も高いハリウッドザコシショウが、ざっくばらんに本音を語った。

お笑い界のさまざまなニュースにざっくばらんな本音を語ったハリウッドザコシショウ【写真:荒川祐史】
お笑い界のさまざまなニュースにざっくばらんな本音を語ったハリウッドザコシショウ【写真:荒川祐史】

「R-1には夢がない」、とにかく明るい安村の快進撃など、お笑い界のニュースをぶった切り

 M-1グランプリ王者のウエストランドがネタの中で披露した「R-1には夢がない」発言に始まり、オリエンタルラジオ・中田敦彦の松本人志批判、英国オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』でのとにかく明るい安村の快進撃など、昨年末からさまざまなニュースが巡ったお笑い業界。そんなホットな話題の数々について、『R-1グランプリ2023』で3年連続の審査員が決まり“芸人の中の芸人”との呼び声も高いハリウッドザコシショウが、ざっくばらんに本音を語った。(取材・文=佐藤佑輔)

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――R-1審査員として、ウエストランドの「R-1には夢がない」発言に思うところは。

「夢がないと言われれば、夢はないのかもしれないですけど(笑)。なんていうのかな、R-1で優勝して、話題になっているうちに結果を出せばちゃんと売れるんです。R-1に夢がないというより、R-1優勝はスタート地点に過ぎないということ。そこに立つ機会を与えるという意味では、夢はあると思います。問題は決勝に行ってから、あるいは優勝してからどう仕事をつかんでいくか。僕だってR-1で優勝してすぐの頃は、番組側もどう使っていいか分からないというのが実際にありました。

 ピン芸人って、本当にワンアイデアで売れるんです。去年まで全然ダメだったやつが、何かひとつの思いつきで劇的に面白くなって決勝まで行ったりする。コンビやトリオではこうはいかない。今まで全然売れなかった芸人がワンチャンスでテレビに出る機会を得られるんだから、そういう意味ではむしろドリームはあります。それをつかみ切れていないだけで」

――ピン芸人と言えば、とにかく明るい安村の快進撃も記憶に新しいが、裸芸再評価の機運は。

「安村くんはすごいなと思います。裸芸とは言いますけど、あれはただの裸芸じゃない。エゴサしたら『ザコシの誇張モノマネもウケるんじゃないか』ってコメントもあったけど、英語ができないなりにネタを丸暗記したからといって、それだけでうまくいくワケがない。安村くんは抽象的なフレーズで審査員相手にもうまくアドリブで返していたけど、僕にはとてもあんなことはできません。

 日常会話ができて、向こうの笑いのニュアンスや感覚が分かってからでもない限り、絶対に海外ではやりたくない。僕が普段言ってる『ええやんええやん』のノリだって、『ナイスナイス』じゃ絶対にニュアンスが違いますよね。『は?』とか言った日には普通にキレられそうでしょ(笑)。何で僕が今の芸風でやれているのかというと、何を言われたりツッコまれたりしても対応ができるという動じない心があるからなんです。ただ、何を言われているのか分からないともうたじろぐしかない。お笑いのスタート地点にも立ってないですよ」

――錦鯉のM-1優勝で、事務所(ソニー・ミュージックアーティスツ/SMA)としてもいい流れが来ている。

「僕の口からこんなこというのもおかしいかもしれないですけど、バイきんぐ、僕、錦鯉ときて、優勝レベルの芸人はこの先もう出てこないんじゃないかなと思うんです。お笑いに対する気持ちというか、情熱が全然違う。共通しているのは元吉本ということ。吉本で基本を知っていないと変化球も投げられないです。僕は吉本のときにケンコバとか中川家とか同期が天才ばかりで、自分もその一員だと思ってた。でもそんなことはなくて、ケンコバみたいに大喜利も強くない、中川家みたいなネタもできない。中で一緒にいるときにはなかなか分からなかったけど、吉本を出て自分を客観視したことで、あいつらすごいな、あいつらと戦うにはどうしたらいいのかと考えるようになった。あいつらが裏でどのくらい努力してるのかは知らないですよ? ただ結果として、あいつらを凌駕(りょうが)するくらいのことをしないと超えられないという思いになったんです。

 今の事務所の後輩は、一緒に飲みに行くと先輩のおごりだって飲みたいだけ飲むし、ベロベロで帰ってそのまま寝ちゃうようなのばっかり。僕はそこから動画を撮ります。夜中2時に帰って明け方5時までとか、1日1回は撮るというルールでずっと貫いている。面白いかどうかは別にして、そこでいろいろお笑いについても考えますから。酔うまで飲むときもありますけど、大体セーブしてるし、どうしてもできないときは朝現場に行く前にやるようにしている。お笑いがどれだけ好きか、やりたいことをやっているのか。結局そこだけなんです。頑張っている後輩もいるけど、僕やバイきんぐ、錦鯉くらいお笑いが好きかって言ったら、そこまでじゃないと思うんです」

オリエンタルラジオへの批判の声には「売れている人間には理由がある」と擁護

――それでもハリウッド軍団として後輩を引きつれて飲み会を行う理由は。

「一人で売れることって絶対にできないんです。仲間がいる方が絶対にいい。新ネタを見せて意見を求めたりとか、そこは後輩にも感謝してる。全部で30組、60人くらいかな。引き連れて飲みに行くって業界全体でも最近あんまり聞かないけど、僕はそういうのがある方が気が楽というか……老人になっても寂しくないじゃないですか(笑)。話す内容はお笑い論? まあほぼほぼそうです。女の話なんか全くしない。毎回お前のネタは何なんだとか、バカ寒いなお前とか。硬派と言われればそうかもしれないです」

――お笑い論と言えば、オリラジ中田の松本人志への権力批判も大いに話題となった。

「僕はむしろ、もっとレジェンドが賞レースの審査員をするべきだと思っている。僕もR-1で審査員をやらせてもらっていますけど、本来であれば松本さんとか内村さん、高田純次さんとか関根勤さんとか、レジェンドに見てもらった方が出る芸人もうれしいでしょ。僕と松本さんだったら、全員満場一致で松本さんに評価される方がうれしいに決まってる。ずっと目指していた人に認められた方が良くないですか? やっぱりたけしさんとか、できることなら超大御所に自分の芸を見てもらいたいです。

 レジェンドという超えられない壁があったほうがいいんだ、という意味じゃないですよ。どこかひとつの能力を取ればレジェンドより面白い芸人はいっぱいいると思いますけど、それを評価する以上は長年見てきて面白さを総合的に判断できる人じゃないといけない。松本さんは何でもできるんです。トークも大喜利もギャグもコントも、全部が一流。(中田)あっちゃんはああ言っているけど、一度でもレジェンドに認められたらあんなことは言えないと思います。

 ただ、オリエンタルラジオのことを『すぐ売れたから苦労をしていない』とか『たまたまリズムネタが若い子にウケただけ』とかいう芸人がいるけど、それは何も分かってない。お笑いを始める前から知識や社会を捉える目を養っていて、私生活ですごく勉強していたからすぐに売れたんです。僕、あっちゃんのYouTubeが好きでよく見ているんですけど、学生のときからすごい量のネタを書いてますよ。勉強していて頭もよくて、お笑い業界に入る前からすでに洗練されていた。事務所に入ってすぐ売れたように見えるけど、売れている人間には売れているなりの理由があるんです。

 僕はあっちゃん好きですよ。武勇伝にしろパーフェクトヒューマンにしろYouTube大学にしろ、絶対に当ててやるという気持ちがあって、人がやっていないことをやる。結局年を取ると若い子たちからの人気ってなくなっちゃうのに、そこでもう1回、さらにもう1回と当てている。いろいろ考えて努力していないとあんなことできないです。松本さんにかみつくっていうのはけしからんけど、あの高飛車天才キャラだって自分でプロモーションしているとしたらすごいこと。プライベートでは会ったことがないから、話してみたいなとは思います。すごい化学反応が起きそう? ええやんええやん、向こうは嫌がりそうやけど(笑)」

□ハリウッドザコシショウ/本名:中澤滋紀(なかざわ・しげき)1974年2月13日、静岡県出身。92年、高校の同級生とともに大阪NSCに11期生として入学。翌93年、お笑いコンビ「G★MENS(ジーメンス)」としてデビュー。2002年からピン芸人として活動を始め、16年の「R-1ぐらんぷり2016」で優勝。21年から3年連続で「R-1グランプリ」審査員を務める。大阪NSC時代の同期に陣内智則、中川家、ケンドーコバヤシ、たむらけんじら。

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