「やるなら堂々とやればいい」創世記のMMA経験者がドーピング問題に持論「今勝ちたいで使うのはダサい」
プロレスラーの村上和成は現在、第18代レジェンド王者としてストロングスタイルプロレスのリング上で暴れまくっている。一見するとその風貌は、完全に裏社会の人物そのものながら、30年を誇るキャリアの中には、国内外で創世記のMMAを闘ってきた実績を持つ。しかも修羅場の経験値に基づく見識はキラリと光る。カオスな令和の格闘技界で注目されるドーピング(ステロイド)問題を“平成のテロリスト”が斬る。
大学生時代に「ステロイドをやりなよ」と言われた
プロレスラーの村上和成は現在、第18代レジェンド王者としてストロングスタイルプロレスのリング上で暴れまくっている。一見するとその風貌は、完全に裏社会の人物そのものながら、30年を誇るキャリアの中には、国内外で創世記のMMAを闘ってきた実績を持つ。しかも修羅場の経験値に基づく見識はキラリと光る。カオスな令和の格闘技界で注目されるドーピング(ステロイド)問題を“平成のテロリスト”が斬る。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
村上が初めてMMAの試合に出たのは、1995年10月だから今から29年前のこと。相手は郷野聡寛だったが、ここから数えて、2003年大みそかまでの8年間に、村上はMMAルールの試合を10試合(5勝5敗)、キックボクシングを1戦(1敗)実施した。当時はルールがあってなきが如しで、「平気で目の中に指を入れてきた」(村上)という。
そんな村上に対し、昨今の格闘技界で問題になっているドーピング(ステロイド)について訊(たず)ねると、意外な言葉が返ってきた。
「僕も以前はそういう闘いもしていましたけど、その時にはまず、相手に対してドーピングがどうっていう発想がないんです。『だからなんなの? 倒せばいいじゃん。ぶっ倒せばいいじゃん、そんなヤツ』って思うだけ。簡単な話ですよね。倒すか倒されるかなんだからっていう頭しかないんですよね」
この辺りの発想は、さすがは混沌の中で格闘技戦を闘ってきた気迫に満ちていて心地が良い。
「そこは獣の発想というか、僕がやっていることも『見せもの』というか。だけどそこから抜けてスポーツになって、みんな平等。スポーツマンシップに則って試合をする。その中でステロイドの知識も出てきた時に、僕個人の話をさせてもらうと、ああいうのって、僕は高校生の時に本を読んでいて、ステロイドをやったらどうなるかっていう知識は持っていましたね。ただ、カラダはすごいけど、こんな重さをあげられるんだ。すごいなって」
しかも大学生時代の村上は、「ステロイドをやりなよ」と言われたことがあると話した。
「その時はサイクルがどうって説明をされたんですけど、値段も言われて、めちゃくちゃ高かったですよ。大学生が払える額じゃなかった。だけど僕には『ステロイド=怖い、廃人』っていう頭があったから、お金も無理だし断ったんですよ。その頃の僕の知識だと、ステロイドの副作用で内臓疾患になっている人もいれば、これからって時に早死にしていくイメージがあって。でもそれでも医療用のステロイドもあるから、一概には言えないんですよね。それとステロイドとひと口に言っても、飲む・打つ・塗るっていろんなのがあって。飲んでもそれを消す薬もあるから、世の中的には完全にイタチごっこの状態なんですよね」
ここまで話した村上は、それまでとは真逆とも思える見解を示した。
「でも、僕はやりたければやればいいと思うんですよ。自己責任ですから。ただ、絶対に寿命は短くなりますから。それと死への近道になりますよ」
全ては自己責任の世界の話
村上がこの発想に至ったのには理由がある。今から30年ほど前のこと。プロ・ボディービル界の最高峰と呼ばれる「ミスターオリンピア」で優勝経験を持つドリアン・イエーツが来日を果たしたのだ。
「それまでの僕はボディービルには気持ち悪いイメージしかなかったんですけど、その時は気持ち悪いとかじゃなく、人間の筋肉ってこんなふうに動いて、こう付いているんだ、って思えたんです。彼は二つの背中を持つと言われているんですけど、彼のポージングや言動、考え方を知って、僕も見方が変わって。その人はステロイドをやってますって言い切ったんですよ。たとえ死への道であっても、そこまで覚悟して表現している。そこは僕らも同じです。覚悟を持ってリングに上がっているので。だから、やるのであれば、中途半端にしなければいいと思うんですよ」
要は、全て自己責任の中であれば、他人がとやかく言うことではない、という見解に変わったのだ。
「ただ、ステロイドの使用を認められていない大会に出るのであれば、もしそこで使っている場合には検査がある。でも、結局はそれ、数字上のことになるから、バレなければ大会には出られますよね。さっきも言ったように今はイタチごっこなので、検査結果が陰性であれば、使っていないのと同じことになる」
ここまで一気に話した村上だったが、この言葉は「バレなければ何をしてもいい」といった安易な話ではなかった。
「仮の話、数字上はそうだったとしても、自分自身に嘘をつけないと思うんです。みんなには嘘をつけても、自分には嘘をつけない。それは本人が一番分かっていますよ。その罪悪感とどう向き合うのか。その時は、うまく検査をすり抜けられてよかったと思うかもしれないけど、いずれ、どこかのタイミングで、自分の力で闘っていないと思う時が来るかもしれない。僕は使ったことがないから、そういう人の気持ちはわからないけど、いつかは心やカラダに(罪悪感や副作用が)出てくることがある。そうなった時を含めて、全ては自己責任です」
諸々の事象を踏まえて、村上は言う。
「今勝ちたいからっていう程度の理由で使うのはダサいと思います。やるならしっかりやれよと。そして胸を張って、『俺は使っている』と公言して、それが認められている大会に出ていけばいいと思いますね。逆に、使ったことで花が咲く場合もあるだろうから、それが快感で、やっぱり使ってよかったと思うのか。そこは各々の考え方だと思うんですよ」
そして、それでも出たい大会があった場合にはどういった選択をすべきか。その基準を村上はこう考えていた。
「もし、どうしても出たい大会があって、ステロイドの使用を認められていないのであれば、使わなきゃいいし。だから、僕は否定も肯定もしません。ただ、俺は使わないよっていう選択をしたっていうだけですね。中途半端にやったら、結局は人としても中途半端なままですよ。ただ、何事もやってみないと分からないこともあるから、やるならやるで堂々とガッツリやればいい。何度も言うように、全ては自己責任の世界の話なんですから」