「ノルマなし」で月120時間未満労働、賞与364万円ママさん社員も…風雲児社長の仰天経営
「数字目標なし、ノルマなし、労働時間は月120時間未満」。一瞬目を疑うような働き方で実績を上げている会社がある。人材紹介・転職エージェント「株式会社ディーセントワーク」(東京)だ。「そんなことできるの? をやるのがライフテーマ」という高橋秀成社長(42)が2015年に立ち上げた新進気鋭の企業。高橋社長以外の9人の社員は全員女性で、そのうち6人は子育てと仕事を両立している。月約100時間の労働時間で今夏のボーナス「364万円」を実現させた2児のママさん社員も。アッと驚く経営哲学に迫った。
「終わらない仕事は渡しません」 賞与は利益30%の「明朗会計」
「数字目標なし、ノルマなし、労働時間は月120時間未満」。一瞬目を疑うような働き方で実績を上げている会社がある。人材紹介・転職エージェント「株式会社ディーセントワーク」(東京)だ。「そんなことできるの? をやるのがライフテーマ」という高橋秀成社長(42)が2015年に立ち上げた新進気鋭の企業。高橋社長以外の9人の社員は全員女性で、そのうち6人は子育てと仕事を両立している。月約100時間の労働時間で今夏のボーナス「364万円」を実現させた2児のママさん社員も。アッと驚く経営哲学に迫った。(取材・文=吉原知也)
国際労働機関(ILO)が発信しているスローガン「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現を目指し、高橋社長が起業した。仕事の内容や待遇に悩んでいたり、転職を考えている人の相談を受け、相談者にマッチする企業を紹介するエージェント業務。フレキシブルに無理なく働けるよう労働時間は「月120時間未満」、総務などのバックオフィスは「月60時間未満」に設定。休日や時間の使い方は完全に個人に委ねている。月額の給与に加えて、実績に応じた年2回の賞与を支給。リモートワークや時短勤務は当初から導入しており、社員を縛らない“完全自由”な働き方が特徴だ。
「月120時間未満で、その中でしっかりと働いてくれれば、何時間でもいいです。どう割り振るか、その裁量は本人次第。今週は木曜日の1時間だけ働きました、でも構いません。転職エージェントとしてやらなければいけない仕事は決まっていますが、ノルマと言われるようなもの、数字目標はないです。ミーティングで達成率の話をしますみたいなこともないです。数字に関しては全部僕が見ているので、個人個人の状況を考慮して、終わらない仕事は渡しません」と高橋社長。人材・転職エージェントの業界では、ほとんどが従業員個人に数字目標を設定しているといい、異例中の異例と言っていい。
ただ、高橋社長が「これだけは」と社員に求めていることがある。それは、転職エージェントの肝になるポイントだ。「相手の心境や方向性、人となりを絶対に理解しておいてね、と伝えています。その人はどんなことを考えてきて、何を目的に転職をしようとしているのか。それについて『分かりません』では困ってしまいます。ここが仕事の一番大事なところで、要はそれがちゃんとできてれば、おのずから数字は上がります。顧客に対して、聞くべきところを聞き、伝えるべきところを伝える。当たり前のことをひたすらやる、ということです。もちろん、『この案件がまとまれば何%の手数料がいくら入る』ということは全く考えなくていいんです。それは僕の仕事ですので」。
評価制度は高橋社長の言葉を借りると、「明朗会計」だ。「感覚的な評価はほとんど入れていません。やったらやっただけ上がっていくような数の世界なので、利益を出せたら賞与として還元しますよ、というスタイルです。広告費や経費を引く必要があるので、利益の30%を渡すという計算です」と説明する。
高橋社長以外は全員が女性ということは「たまたまで、意図的なところはないです」とのことだ。子育てをしながら、完全に自分の裁量で働くことができるため、ママさん社員は6人。また、副業もOKで、アパレル勤務、絵描き、ソムリエとしてそれぞれの分野で才能を発揮しながら複数の仕事をかけ持ちしている社員もいる。「副業のお客さんがうちの会社のネットワークで出会った人であっても、何割かよこせ、なんてことは全く言いません。持ちつ持たれつの部分もあるので、構わないです」と太っ腹だ。
「働くお母さんたちは戦力なんです」 ママさん社員は6人
そもそも、高橋社長がこれだけ思い切った働き方を実現しているきっかけとは。高校卒業後にフリーターを経て20歳で広告代理店の営業マンに。転職を経験して人材業界に入り、エージェント業務に従事し、30歳で独立。7年前、35歳の時にディーセントワークを設立した。そこには、自身の“苦い反省”があった。「自分自身が元々はノルマを抱えたサラリーマンでした。例えば、11月入社の数字が欲しい場合、転職希望者が『12月でもいいですよ』と話しているのに、『いや、11月に入った方がゆくゆくのキャリアがいい方向になりますよ』と言いくるめて、11月入社の話を進めてしまう。これはプレゼンテーションの域を越えてしまっています。不誠実極まりないやり方で稼ぐのは嫌だ、そう思ったんです」と明かした。
これに呼応するのは、2児を育てながら効率的で効果的な働き方を実現し、今夏のボーナス「364万円」を達成した同社の転職エージェント・鈴木美貴子さんだ。同社が4社目の勤め先である鈴木さんはそれまでは数字目標がある会社で勤めてきただけに、「高橋社長の言うように、このままだと自分の成績が出せないからあの人をあの会社に行かせようとなった時に、『でも、本当はあの人はあの会社に行かせるべきじゃないのになんでこんな仕事をやんなきゃいけないんだろう』と悩むことがストレスにつながります。でも、うちの会社はノルマが一切ないので、そういったストレスを感じません」と話す。鈴木さんは10年以上前から高橋社長のことを知っており、同社立ち上げ時からのメンバーだ。「私自身、以前は業績評価の管理がガチガチの会社で働いていたのですが、高橋社長は10年以上前から、ノルマなしで結果が出せる、と言っていました。本当にそんなんで仕事できるの? と疑問に思っていましたが、いざやってみると、こうして実現できているんです」と実感を込める。
高橋社長のモットーは「半径2メートルの範囲は絶対ちゃんとしようね。自分たちが関わった人たちにはハッピーなってもらおう」という心を通わせた働き方。それに、数字目標、働く場所、働く時間からの「解放」だ。
そんな高橋社長は、自身の理念をまた1つ行動に移す。来月から北海道に移住するというのだ。「東京生まれ、横浜育ちなのですが、自分の“田舎”というものが欲しいという思いがずっとありました。それに、妻の実家が北海道にあります。義理のお父さんお母さんがお元気なうちに、うちの子ども、孫と思う存分遊んでもらいたいなという思いもあります。うちの子どもにも思い出をたくさん作ってほしいです。ノリと勢いで言ったら、そのまま決まっちゃった感じです(笑)」。
2015年の創業当時を振り返り、「働き方改革がそこまで言われていない時代に、ママさんを採用してリモートワークでやりますと始めたところ、『高橋はおかしくなった』と言われて(笑)。働くお母さんたちは戦力なんです。今は、『うちみたいな中小零細の10人の会社ができて、なんで御社はできないんですか?』と言っているぐらいですよ。『ディーセント・ワーク』という理念や働き方が当たり前になればいいなと思っています」と強調する。思い描く、経営者としての今後。「昔から、何かこうあるべきだというルールをぶち壊すことが好きなんです。こんな転職できないでしょう、こんな人材はとれないでしょう、そこを覆す。『こんなことできないでしょう』を実現させていきたいですね」と目を輝かせた。