天龍源一郎がちゃぶ台をひっくり返した32年前の夜 SWS移籍を後押しした記者の一言

翌日、天龍から自宅に届いた胡蝶蘭

 天龍の“雷鳴”を呼び込んだ張本人は全く無傷だったが、カメラマンが転がり、服が台無しになった記者もいた。とばっちりそのものだ。今でも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 雷の直撃を受けても、事態を飲みこめなかった。らちが明かないと天龍は、いつもの様に会計をすませ、一足早く引き揚げた。

「君が悪い」との声にやっと我に返った。急いで宿舎に戻り、天龍の部屋をノック。「すみませんでした」「オオ、大丈夫か。また明日な」と、いつもの声で応えてくれたが……。

 実はこのころ、SWSからスカウトの手が伸びていたのだ。新たな闘いのステージに心が揺らいでいたはず。プロなのだから、SWSから提示された契約金、年俸に魅力を感じていたこともあるだろう。

 海外出張で離れていた天龍の闘い。久しぶりに目の当たりにした激闘ファイトのどこかに、ほんの少しの迷いを感じた。今思えば、久々だったからこそ、何となく違和感を覚えたのかも知れない。どうしたのだろう。何かあったのかな。体調は良さそうなのに……。

 ズバリ聞いても天龍は答えてくれないだろう。自分もまだ青かった。モヤモヤした感覚にお酒が入り「つまんない」という言葉につながってしまったのだと自戒をこめて思う。

 結果として、選択を迫られていた天龍の背中を押してしまった。後々、天龍本人からそう聞かされたのだから紛れもない事実である。

 翌日、自宅に立派な胡蝶蘭が届けられた。「天龍さんからだけど、何かあったの?」と女房が戸惑っていた。

 夜中に鳴り響く雷鳴に、あの夜を思い出し、ほろ苦い記憶がよみがえった。(文中敬称略)

次のページへ (3/3) 【写真】いつも迫力満点だったリング上の天龍源一郎
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