司法試験一発合格の弁護士芸人・こたけ正義感、スタイル一新のワケ “補助輪”をはずし1万2000人ツアーに挑む…その先に描く夢

弁護士でお笑いタレントのこたけ正義感が、今年11月4日から総動員約1万2000人の全国4都市ツアー「弁論2026」を展開する。ENCOUNTはこの機にこたけをインタビュー。これまでの歩みとビジョンを聞いた。

全国4都市ツアー「弁論2026」を展開するこたけ正義感【写真:藤岡雅樹】
全国4都市ツアー「弁論2026」を展開するこたけ正義感【写真:藤岡雅樹】

11・4から全国4都市ツアー「弁論2026」

 弁護士でお笑いタレントのこたけ正義感が、今年11月4日から総動員約1万2000人の全国4都市ツアー「弁論2026」を展開する。ENCOUNTはこの機にこたけをインタビュー。これまでの歩みとビジョンを聞いた。(取材・文=薦田真実、構成=柳田通斉)


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 弁護士とお笑いタレント。こたけは、異例の二刀流を続けている。そのキャリアの始まりは、純粋な「憧れ」からだった。

「弁護士になろうと思ったのは、中学校3年生くらいの時。シンプルに『かっこいいな』と思ったんです。ドラマを見て、困っている人を正義のヒーロー的に助ける仕事というイメージだったので。正義感が強かったわけでもありません。納得いかんことがあったら、いつまでも何か言っているような子どもでした」

 お笑いにも憧れを抱いていたが、「自分がなっていい世界ではない」と感じていたという。

「もっと才能のある人が集まっているリスペクトが強い世界だったので、恐れ多い感じでした。学生の頃、一瞬『NSCに行こうか』とも思いましたけど、勇気がなかったですね」

 地元・京都の山城高を経て香川大法学部に進学。立命館大大学院法務研究科を修了し、司法試験には一発合格を果たした。

「運が良かったです。ただ、最後はご飯を食べている時とお風呂に入っている時以外は勉強していました。『虎にならないと受からない』と言われていて、『虎になるまで勉強する』という感じでした」

「ようやく形になってきた」と感慨深さを語った【写真:藤岡雅樹】
「ようやく形になってきた」と感慨深さを語った【写真:藤岡雅樹】

転機のきっかけは妻の「やってみれば」

 司法修習を終えた後、東京弁護士会に登録し、都内の法律事務所に所属した。「普通に一生懸命に弁護士をやっていました」。だが、3年後に司法修習時代の同期で弁護士の妻が発した「やってみれば」が、転機のきっかけになった。

「僕があまりにもお笑いを好きだったので、妻が『1回、やってみれば』と言ってくれたんです。それが結婚式を挙げる前で、その年の3月に式を挙げて、4月にワタナベコメディスクールへ入学しました。最初は『芸人を目指す』というより、習いごとを始めるくらいの軽い気持ちでした」

 平日は仕事をして、土曜日に一日中授業を受ける社会人コース。司法試験とは全く分野の違う“勉強”だが、努力の習慣は役立ったようだ。

「ストイックに努力をするという意味では同じでした。人のネタをずっと見て研究して、自分のネタもビデオで撮って研究して。同期には他の事務所にいた人や大学お笑い出身者などの経験者もいたので、彼らに質問するのが楽しくて仕方なくて。間の取り方やネタの作り方とか。『へ~』と思うことがいっぱいありましたね」

 2017年3月にスクールを卒業後、ワタナベエンターテインメントに所属。3年間はコンビで活動するも解散し、ピン芸人となった。当時はコロナ禍でライブのない苦しい時期。「法律の穴」「おかしな法律」などをフリップやボードを使って紹介して頭角を現したのは、芸歴5年目だった。かつて兵庫県警が警察官に対して発令した「パンチパーマ禁止令」を取り上げ、「じゃあアフロは?」「リーゼントは?」とち密にリーガルチェック。昔話「桃太郎」を題材にしたネタでは、桃太郎の一味(犬・キジ・サル)が鬼ヶ島で行った略奪行為を現代刑法にあてはめ、「完全に凶悪な強盗団」になり得る点や、「鬼側の正当防衛」の可能性をシュールに解説し、見る者を笑いにひきこんでいる。

 周囲の評価も高く、22年『ワタナベお笑いNo.1決定戦』準優勝。23年『R-1グランプリ』では敗者復活戦から決勝進出、『ABCお笑いグランプリ』決勝進出。勢いに乗る中で、こたけはあえて芸のスタイルを大きく変更した。

「フリップやモニターを使ったネタは、常に『物』がある状態が本質的ではないなと思い始めたんです。補助輪が付いて、自分の筋肉で立てていない感じがして。そして、2024年の『R-1』準決勝で敗退したことで『これからは漫談をやろう』と決意しました」

 始めたのが1時間、しゃべり続ける漫談の『弁論』だった。

「漫談をやっていることをまずは知ってもらうために、武者修行的に始めました。やってみたら、すごく達成感もあるし、お客さんの満足度も高かったんです。長いからこその面白さ、お客さんとの一体感があるんだと分かりました。最初はエピソードトークを数珠つなぎに話すような構成でしたけど、1時間話を聞くというのを面白がってくれました」

 24年の『弁論』では「袴田事件」、25年には「いのちのとりで裁判と生活保護」をテーマに掲げた。時事的な題材を扱いながらも、お笑いとして成立させる斬新な構成が注目された。東京・よみうりホールで開催された25年公演では、1000席に対して約8000枚の申し込みがあった。テレビプロデューサーの佐久間宣行氏が自身の『2025年 お笑いライブランキング年間1位』に選出。YouTubeで期間限定公開した公演の全編映像が166万回再生を突破した。

「想像以上の反響で法曹界にもガッと見てもらった感じがありました。弁護士の方、『検察官です』というコメントもついていたりしました」

 全国4都市で総動員約1万2000人となる今回の『弁論 2026』。千秋楽の東京ガーデンシアター公演には、約8000人を動員する。同会場での公演は、ピン芸人史上初。異例ともいえる規模拡大へのモチベーションは、ドラマに憧れて弁護士を目指した少年時代から変わらず、「かっこいい」と思えたことだった。

「去年の方がプレッシャーはすごかったです。『2回目こそ本当の実力が問われる』と思っていたので。それを乗り越えて、今は少し自信がついた感じです。海外のスタンダップコメディーを見るようになってから、『漫談って海外のスタンダップと同じフォーマットだ』と気付きました。アメリカのコメディアンがとんでもないキャパの会場でやっている映像をいくつも見て、『かっこいい!これをやりたい!』と思って続けてきたので、ようやく形になってきた感慨深さもあります」

「広げることは続けていきたい」と常に目標を掲げ続けている【写真:藤岡雅樹】
「広げることは続けていきたい」と常に目標を掲げ続けている【写真:藤岡雅樹】

法曹界では「僕にしかできない仕事を」

 一方で、こたけは「海外の規模には足元にも及ばない。Netflixで番組を持つとかも含め、追いつけていない部分を形にしていきたいです」と言った。

 リアルに追いつくには、海外進出も視野に入れる必要がある。「語学への苦手意識が強い」と言うが、妻は帰国子女で弁護士として米国で勤務した経験もある。そして、夫の「今」を喜び、新たな可能性に向けたサポートにも前向きだという。何よりこたけ自身が、これまでも努力で「憧れの姿」になってきた。次の目標へ踏み出す条件はそろっているように思える。

「今は日本武道館が目標です。そこから先は、さらにキャパを大きくするのか、英語で海外でやるのか。広げることは続けていきたいです」

 コンビ結成当時は本名の「小竹克明」で活動。解散にあたって文化人としての契約見直しを打診されたが、芸人として生き抜くために芸名を「小竹正義感」に改名した後、現在の「こたけ正義感」表記にあらためた。近年は芸人の仕事が忙しく、弁護士の実務にはほとんど携わっていないという。

「今は実務に戻ろうとは思っていませんし、僕にしかできない法曹界の仕事はあると思っています。弁護士の資格を生かしながらの、自分しかできない活動、今の活動の延長線上で力になれることをたくさんしたいです」

 テレビ番組もコメンテーターとしてではなく、お笑いタレントとしてのオファーを中心に受けることにしている。まだ40歳。こたけは、「お笑い」でさらなる飛躍を期す。

<『弁論2026』公演スケジュール>
11月4日(水) 東京エレクトロンホール宮城
11月11日(水) SAWARAPIA 福岡県立ももち文化センター大ホール
11月24日(火) ロームシアター京都 メインホール
12月4日(金) 東京ガーデンシアター

□こたけ正義感(こたけ・せいぎかん) 1986年5月12日、京都市生まれ。香川大法学部を卒業、立命館大大学院法務研究科を修了後、2012年に司法試験合格。都内の法律事務所で弁護士として活動する傍ら、17年にお笑いコンビでデビュー。19年に解散し、ピン芸人に。23年に『R-1グランプリ』決勝進出を果たし、実在する通達や法律を題材にした「リーガルチェック」ネタで脚光を浴びる。YouTube『ギルティーチャンネル』登録者は、50万人超。趣味は読書、ゲーム。177センチ。血液型AB。

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