スピッツ・草野マサムネ、10年前の初武道館はTOKIOが手本「長瀬くんになったつもりで」

今年で結成37年目の 4人組ロックバンド・スピッツが12日、6年5か月ぶりの日本武道館公演を開催した。最新アルバム『ひみつスタジオ』の楽曲を中心にアンコールを含め、23曲を披露。満員の観衆を楽しませ、自分たちも楽しみ続けた。

久しぶりの日本武道館で歌うスピッツ草野マサムネ【写真:西槇太一】
久しぶりの日本武道館で歌うスピッツ草野マサムネ【写真:西槇太一】

結成37年目 6年5か月ぶりの日本武道館公演を開催

 今年で結成37年目の 4人組ロックバンド・スピッツが12日、6年5か月ぶりの日本武道館公演を開催した。最新アルバム『ひみつスタジオ』の楽曲を中心にアンコールを含め、23曲を披露。満員の観衆を楽しませ、自分たちも楽しみ続けた。

 スピッツが日本武道館に戻ってきた。2017年のデビュー30周年ツアー以来だ。今回は2年ぶりの全国ツアー『SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”』を開催中で、昨年5月に発表した通算17作目オリジナルアルバムを引っ提げてのステージになった。そして、コロナ禍以降、スピッツのライブでは初の声出しOK。場内は外の寒さを吹き飛ばす熱気に包まれた。

 定刻の午後7時。場内が暗転すると、満員の観客が声を上げて立ち上がった。最初に三輪テツヤ(ギター)が登場。だが、他のメンバーがなかなかステージに現れない。暗転のままの約3分間、観客は息をのむようにステージ上の動きを見守り、次第に手拍子を始めた。そして、ようやく草野マサムネ(ボーカル&ギター)、崎山龍男(ドラムス、※崎はたつさき)、田村明浩(ベース)が登場。観客は安堵の拍手を送り、カウントから1曲目の『めぐりめぐって』の演奏が始まった。

 待たされた分、観客のボルテージはいきなり上がった。その勢いのまま、4人は最新アルバムの楽曲を中心に5曲連続で演奏。草野は丁寧に感謝の言葉を述べた。

「寒い中、しかも平日のお忙しい中をスピッツのために時間を割いてくださり、本当にありがとうございます」

 そして、「のっけから『何が起こったの?』って(思ったでしょ)」とオープニングのアクシデントに触れた。三輪からも「ホントだよ」と突っ込まれ、草野は出番直前に田村と崎山のイヤーモニターが逆だったため、交換する時間だったことを説明した。

 草野「テツヤに『待って』と言ったんだけど先に上がっちゃった」

 三輪「俺はせっかちだから、スピッツの中でも最初に行っちゃうんだよね(笑)」

 話はエスカレートし、草野が「もしかしたら、(お客さんが)『マサムネさんが今日は歌いたくないと言って帰っちゃったのかな』って思われたら嫌だなって。そんな伝説の日になったかもしれない」と話すと観客は大爆笑。続けて「デビュー直後だった30年くらい前に緊張がピークで本番直前に『帰ろうかな』って思ったことがありました。でも、今日は大丈夫です。楽しい夜にしますので、最後までよろしくお願いします」と話し、再び演奏に入った。

 最新アルバムからミドルテンポのロックナンバー『大好物』、大ヒット曲の『チェリー』を歌い、観客は心地よく体を揺らした。続けて三輪のハードなギターリフから始まるロックナンバー『青春生き残りゲーム』を披露。崎山と田村は温かみのあるリズムを刻み、三輪のギターがそれらを彩った。そこに草野による唯一無二の歌声が混ざり合い、独特の世界観ができあがる。そんなスピッツでしか味わうことができないバンドサウンドが、日本武道館に鳴り響いた。

 今回は、「少年だった草野の夢」を具現化したステージセットにも注目が集まった。ロボット工場のようなセットに巨大なイチゴやスケートボードのオブジェ、「HIMITSU STUDIO」と書かれたネオン看板、ドラムセットの横にはCDジャケットのモデルとなっているロボットが置かれ、昔のテレビを思い起こさせる大小10個のスクリーンには、メンバーの表情がリアルタイムで映し出された。

 その空間に立った草野は、日本武道館公演の思い出についてユーモアを交えて語った。

「日本武道館でライブをやらせてもらってからまだ10年くらいしか経っていないんです。最初の武道館の時、『誰かお手本になる人はいないかな?』と思ったら、たまたま側にあったTOKIOの(日本武道館の)DVDを見たんです。長瀬(智也)くんになったつもりでやったんですけどね(笑)。それで今回、久しぶりの武道館だから『何か見よう』と思ったら、WOWOWで矢沢永吉さんの(通算150回目の日本武道館公演の)生配信があって、見たらすごいんですよ。うちらの親世代に近い方なのに声も出ているし、体のキレもあるし。参考にはできませんが、勉強になりました」

 草野の話はさらに脱線し、「矢沢さんはご自身を『矢沢はね』って言うじゃないですか。でも、『草野はさ』『三輪はさ』『田村はさ』とかハマらないんだけど、『崎山はさ』ってちょっとハマりそうじゃない?  『これが崎山のやり方なんだよね』とか言って欲しい(笑)」。それでも、「(俺たちも)矢沢さんの年齢までみんなで頑張れるように『スピッツならでは』でやっていこうと思います」と軌道修正し、話をまとめた。

 会場の規模に関係なく、メンバーのゆるいトークと演奏のギャップもスピッツのライブの面白さだ。そして、コロナ禍で我慢してきた観客の笑い声が戻ってきたことで、ライブハウスで楽しんでいるかのようなステージと客席の近さも感じさせた。

「一人ひとりに感謝したい」と草野は口にした【写真:西槇太一】
「一人ひとりに感謝したい」と草野は口にした【写真:西槇太一】

 中盤には、草野が藤井風の『きらり』をカバーした。即興での弾き語りだったが、他の3人も演奏に加わって楽しんだ。

 草野「人の曲を歌っている時は全然違う楽しさがありますね。みなさんも楽しそうです」

 続けて前日の楽屋で“試し斬り”をしたという新しい学校のリーダーズの『オトナブルー』も披露。歌い終わりに「ハッ!」と和田アキ子風の発声で締めると、三輪が「めったに見られない(草野の)ものまねだよ」と観客をあおった。

 終盤には、ニューアルバムから4人の歌唱パートがある『オバケのロックバンド』で盛り上がり、本編最後は『涙がキラリ☆』を歌った。

 アンコールの大きな手拍子の中、再登場した4人はカントリー調の『僕の天使マリ』を披露。その後、メンバー紹介コーナーが始まった。

 田村は観客として日本武道館に来た思い出について振り返り、「武道館はあんまり(自分たちが)やる会場だと思ってなかったんだけど、10年前に怒髪天のライブを見て『いいな』って思った」と明かした。

 サポートミュージシャンのクジヒロコ(キーボード)も「私も見にいったんだけど、周りのミュージシャン、みんな泣いてたよ」と振り返った。

 田村は「怒髪天の後、フラワーカンパニーズ、ザ・コレクターズ、ニューロティカ、The ピーズとかが(武道館公演を)やっているのを見て、『特別な場所なんだな』って思った。でも、実際に立ってみると聖地なんだけど(どこでやっても)ライブはライブだね。今日もめちゃくちゃ楽しくて、特別な夜になりました」と実感を込めた。

「崎山的にはね」。崎山は草野のMCをネタにボケを入れつつ言った。

「武道館でBOOWYを見たんですよ。あと、スティングを見てものすごく音が良くて印象的でした。俺たちも印象に残るステージになってくれたら良いですね」

 三輪はオープニングのハプニングを振り返った。

「俺には(最初の3分が)2時間くらいに感じた。俺の背中が『早く(みんなステージに)来て』って物語っていたでしょ? もう、クタクタです」

 草野は「今日は『楽しい夜にしますから』と言いましたが、みなさんに楽しい夜にしていただきました。一人ひとりに感謝したいです。これからも長く続けていくので、また会いに来てくれたらうれしいです」とあいさつ。最後に『醒めない』を歌ってステージの幕を閉じた。

 全国ツアーのアリーナ公演は昨日の大阪城ホールで全日程終了して、残すは来月、ホール公演の振替4公演のみ。2月16日までの残り1か月、メンバーはその時々で観客と楽しみ、独特の音と空気を作り上げていく。

「SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”」
2024年1月12日 日本武道館公演セットリスト

01. めぐりめぐって
02. ときめきpart1
03. けもの道
04. 跳べ
05. 紫の夜を越えて
06. 大好物
07. チェリー
08. 青春生き残りゲーム
09. 手鞠
10. i-O(修理のうた)
11. みなと
12. 楓
13. サンシャイン
14. 未来未来
15. 夜を駆ける
16. 俺のすべて
17. 美しい鰭
18. オバケのロックバンド
19. 甘ったれクリーチャー
20. 8823
21. 涙がキラリ☆
EN1. 僕の天使マリ
EN2. 醒めない

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