「盗んだ者勝ちに」能登半島地震、復興の影で横行する卑劣な窃盗の現実「許せません」

2024年1月1日に発生した能登半島地震は、まもなく2年半を迎える今でも、地域で暮らす人々の生活に暗い影を落としている。震災によって実家を失い、残された納屋のリフォームを考えていた一家が、もう1つの被害に見舞われた。震災後に購入し、再建のための重要な設備として使おうとしていた発電機が盗まれたのだ。被災地を狙った心ない窃盗犯罪。被害に遭った女性に、今も続く被災地の現実を聞いた。

輪島市中心部へ向かう道路【写真:提供写真】
輪島市中心部へ向かう道路【写真:提供写真】

能登半島地震および奥能登豪雨による応急仮設住宅の入居者数は1万6141人

 2024年1月1日に発生した能登半島地震は、まもなく2年半を迎える今でも、地域で暮らす人々の生活に暗い影を落としている。震災によって実家を失い、残された納屋のリフォームを考えていた一家が、もう1つの被害に見舞われた。震災後に購入し、再建のための重要な設備として使おうとしていた発電機が盗まれたのだ。被災地を狙った心ない窃盗犯罪。被害に遭った女性に、今も続く被災地の現実を聞いた。(取材・文=幸田彩華)

 石川・輪島市中心部から車で約15分。日本海の沿岸部に位置する南志見(なじみ)地区では、今もなお震災の傷跡が残っている。かつて約700人が暮らした11の集落では、発生から2年以上がたった現在も、一部の住民が仮設住宅での生活を余儀なくされている。石川県の公式ホームページによると、能登半島地震および奥能登豪雨による応急仮設住宅などの入居者数は、5月1日時点で1万6141人に上る。

 南志見地区に実家を持つ東海地方在住の50代女性は今年4月、SNSを通して悲痛な窃盗被害を書き込んだ。

「私の実家は能登半島地震で公費解体されました。大好きだった実家はもうありません。納屋はかろうじて残りました。その納屋をリフォームして住めたらいいとまだ電気も水も来ていないので発電機を置いていました。なんとそれが盗まれてしまいました」

 続く投稿では「日常を奪われてそれでも一生懸命生きているのに、そんな人達からものを盗るなんてとても腹立たしいです。防犯カメラもないし、被害届を出すくらいしかないのか、泣き寝入りしかないのか、とてもモヤモヤしています」と、つらい心境がつづられている。

 女性の実家は能登半島地震で半壊判定を受け、公費解体。長年暮らした家は姿を消したが、かろうじて納屋だけは残った。電気も水道も復旧していない中、78歳の父は「この納屋をリフォームして、ここに住みたい」と希望を抱いていたという。

 作業のために、父が昨年9月に購入し、頼りにしていたのが発電機。しかし、その大切な発電機が、今年春に盗まれる被害に遭った。

「3月末に訪れた時、あるはずの発電機がないことに気が付きました。ゴールデンウイークには、納屋の中に侵入しないと取れない場所にあった卓上コンロまでなくなっていて……。売ったとしても二束三文。使われていない家ではないと分かるはずなのに、本当にひどい。犯人が捕まってほしいというのもありますが、それよりも盗んだものを返してほしい。自分が同じ立場だったらどう感じるのかと」。

 納屋は普段は無人で、日中だけ作業に訪れるという。窃盗被害が連続して起きている実情を明かした。

 南志見地区は、外から人が来ればすぐに分かるほど、住民同士が顔見知りの地域。多くの住民は約2キロ離れた仮設住宅で暮らしている。

「土地勘がある人じゃないと行けないような場所です。土地勘のない人がわざわざ来る場所でもない。日中に(見に来るなどして)目ぼしいものを見つけておいて、夜間に盗んでいったのではないかと。昼間は様子を見に戻る人がいるかもしれませんが、夜は誰もいません。静かな場所なので、車が通るとすぐに分かる。だから泥棒にとっても、人が来たことが分かりやすい環境なんだと思います」

南志見地区は70~80代と高齢者が多い地域

 地震発生当時、女性は実家のある南志見地区に帰省中だった。父、夫、娘は輪島の市街地へ出かけており、自宅には女性と母親、息子2人が残っていたという。「2回目の大きな揺れで『家にいたら危ない』と思って飛び出しました。その直後から、夫たちと連絡が取れなくなったんです」。

 市街地と南志見地区を結ぶ道路は寸断されていた。翌日の午後、夫と父、娘は、崩れた土砂を乗り越えながら約15キロを歩いて帰宅した。そこから約1週間、集落は孤立状態に。女性と夫は住民名簿を作り、一軒一軒を回って安否確認をしたという。

 南志見地区は70~80代と高齢者が多い地域だが、家を再建するハードルは極めて高いという。「今は小さな平屋でも2500万円かかると言われています。資材も高いし、職人さんも足りない」と女性。「住まいがあるだけありがたい」と話す人も多い一方で、環境の激変によるストレスは深刻だ。

「みんな地域に思い入れがあるから、引っ越そうと思っても離れたくないということもあると思います。皆さん本当に仲がいい。誰かと会ったら何かしゃべることができる。でも、引っ越して別の地域に行ってしまうと、知り合いがいなくて、しゃべる人がいなくなってしまう。だったらまだここにいたいという思いが強いのだと思います」

 女性は「輪島の人は人が良すぎる」とこぼす。

「父も本当は(発電機が盗まれて)腹が立っているはずなんです。でも『しょうがないな』って笑うんですよ。私は『絶対に被害届を出して』って言うんですけど、『もう返ってこんわ。そんな被害いっぱいある』って……。みんな顔見知りだから、誰々の家でもあった、あそこでも盗まれた、って話が入ってくるんです。このままだと“盗んだ者勝ち”になってしまう。許せません」

 過酷な状況の中、何とか這い上がろうとする人たちを狙った卑劣な犯行。被災地の思いを踏みにじる行為に、女性は強い憤りの思いを抱いている。

次のページへ (2/2) 【写真】能登半島地震で被害を受けた南志見地区へ続く道路
1 2
あなたの“気になる”を教えてください