行定勲監督が激白 猛反対だった映画「劇場」のネット同時配信に踏み切ったワケ

(c)2020「劇場」製作委員会
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世界中の映画人に「よかったら、俺の映画を観てくれ」と言える

――行定監督作で、いままで一番世界で上映された作品は、どれくらいの規模ですか。

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「どうだろう。そんなこと考えもしなかった。例えば、『GO』はベルリン国際映画祭を始め、いろんな映画祭でかかったから、多分60か国くらいでは観てもらえたんじゃないかな。でも、242はない。国連の加盟国(193か国)より多いじゃないの、という規模だから。配信される国には、確かコンゴとかもあった。コンゴの少年が『劇場』を観て、何を思うんだろうって。もしかすると記憶に残るかもしれない。これは、すごいことだと思う。

 同じような経験は自分自身にもあって、Netflixの『マリッジ・ストーリー』(主演アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソン)を観た時に、キャラクターのあり方はアメリカ人的だけども、なんかわかるんですよね。ならば、『劇場もアメリカ人は良さを分かって、受け入れてくれるんじゃないの?』っていう話もよくスタッフに言っていた。それから、海外にいる友達に『観てくれよ』と言えるのも初めての経験ですね。こういうことは映画祭でもないと、できない。今まで出会った世界中の映画人に『よかったら、俺の映画を観てくれ』と言えるわけで、これは感慨深いし、僕の映画にとっては、次の映画に繋がるきっかけにもなる」

――でも、ネット配信までは悩んだのでしょうか。

「相当悩みましたね。『劇場』はお客さんがすごく深いところに感情移入してくれる映画らしいっていう実感があったから、今のコロナ禍において、どうすれば、一番いい形でお客さんに届けられるかを、この2か月間も考え続けました。

 この映画は製作委員会方式で作られ、宣伝のお金のかけ方もそれなりに勝負をかけていた。公開延期になった作品を、もう一回、宣伝から立て直すとなると、莫大な追加予算も必要になるわけです。しかし、今はコロナ禍で、興行はまだ何も見えてない状況です。『劇場』の製作委員会でいうと、(幹事社の)吉本興業社を始め、名前を連ねる会社自体も大きな打撃を受けています。そんな中で公開に向け、リスタートするのはなかなか難しい状況だったということもあります」

――コロナ禍での映画館での公開とネット同時配信を支持します。コロナ禍の不安で、映画ファンの中には映画館に行きたくても行かれない人もたくさんいますから。ただ、業界の中には、「ネット配信作品を映画として認めない」といった意見の人もいますね。その点はどう思っていますか。

「その話を伺った時は正直、ショックでした。2か月間、ずっと考えてきたことの一番大きな部分です。僕は映画監督であるし、『劇場』は最初から最後まで映画という思いで作ってきましたが、それが否定されてしまった。一体、映画とは何なのだろうか。でも、考えた結果、思ったのは、僕は映画として作ったし、映画だと思っている。幻とはなってしまったけれど、『劇場』は4月17日劇場公開作品だったんだ、と。そう思えたことで振り切れた」

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