中島安里紗とSareeeが“全女イズム”を受け継ぐ理由 タイトル戦は“死闘宣言”「ファンを泣かせます」

この夏、かつての全日本女子プロレス(全女)の流れを強く受け継いだ激闘必至の一戦が実現する。SEAdLINNNG(シードリング)シングル王者の中島安里紗に、“太陽の戦士”と呼ばれ、米国のメジャー団体WWE帰りの女子プロレスラー・Sareeeが挑戦するタイトルマッチがそれである。そこで今回は、王者・中島を直撃。タイトル戦に向けた想いを聞いた。

令和版“デンジャラスクイーン”の中島安里紗(川崎にあるBACK PACKERにて)
令和版“デンジャラスクイーン”の中島安里紗(川崎にあるBACK PACKERにて)

放送コードの範囲内には絶対に収まらない光景

 この夏、かつての全日本女子プロレス(全女)の流れを強く受け継いだ激闘必至の一戦が実現する。SEAdLINNNG(シードリング)シングル王者の中島安里紗に、“太陽の戦士”と呼ばれ、米国のメジャー団体WWE帰りの女子プロレスラー・Sareeeが挑戦するタイトルマッチがそれである。そこで今回は、王者・中島を直撃。タイトル戦に向けた想いを聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 唐突だが、私にとって女子プロレスにおける最初の記憶は、池下ユミ&マミ熊野のブラック軍団である(1970年代後半)。ビューティーペア全盛の時代だったが、とくに強烈な印象を受けたのは、マミ熊野による“人間絞首刑”だった。これはエプロンに立った熊野が、相手を宙吊り状態にしてのスリーパーホールドをかける荒技だったが、宙に浮いた両足が左右にブラブラ動く光景は、幼少期の私の脳裏に深く刻まれた。

 それは1990年代に実現した北斗晶VS神取忍の壮絶さ同様、現在の地上波の放送コードの範囲内には絶対に収まらない光景のひとつだったに違いない。

 そして実はこの夏、その流れに沿った激闘必至の一戦が実現する。

 SEAdLINNNG(シードリング) BEYOND THE SEAシングル王者の中島安里紗に、Sareeeが挑戦するタイトルマッチがそれだ。同一戦は、8月25日に後楽園ホールで開催の同団体8周年記念大会のメインで実施される。

 王者・中島は堀田祐美子、下田美馬に薫陶(くんとう)を受けた令和版“デンジャラスクイーン”。その攻撃のエグさには定評がある。

 一方のSareeeは井上京子や伊藤薫の弟子筋に当たり、今年3月に、WWE帰りながら「女子プロレスに“闘い”を」をテーマに掲げて日本復帰を果たしたばかり。

 いわば両者の激突は、令和の現在には存在しない全女(全日本女子プロレス)の大いなる遺産が、この時代に改めて交わることになる。

「私はいい試合をしようとも思わない。だって(私のプロレスは)いかにして相手を叩きのめすか、みたいなことしかないので」

 王者・中島はそう発言したかと思うと、「Sareeeファンを泣かしますよ」と言って笑った。

 一方、挑戦者のSareeeが中島の試合を見届けるため、シードリングの大会(6月28日、新宿FACE)に出向いた直後、急遽決まったタイトル戦に向けてこんな言葉を残している。

「メチャクチャ強いと思うけど、すべてを兼ね備えているのは私のほうだと自信を持っていえるので、何も怖くないですね。シードリングのベルトを私が巻いて、もっともっと輝かせなければいけないなと、今日改めて思いましたね。メチャクチャ楽しみです」

取材にはSEAdLINNNGの南月たいよう代表(左)も同席
取材にはSEAdLINNNGの南月たいよう代表(左)も同席

昔ながらの女子プロレスを残していきたい

 これに対し中島は「私は(総合力ではなく)強さの一点突破で勝ちたいと思います」と返答しつつ、「正直、2年前に(WWEに)Sareeeを送り出した時は、2度とSareeeと闘うことはないだろうなと思っていたんですよ。でも、また改めてリングで交わって、シードリングの8周年大会でベルトを賭けて闘えるっていうのはすごい感慨深いですし、プロレスって面白いなあと思いますね。だからそういう思いも込めて、ボッコボコにしてやろうと思います」と宣言した。

 両者の舌戦だけでもお互いの意地が伝わってくるが、残念なことに現在のマット界を見渡すと、“闘い”を体現するリングが、男女を問わず年々減少傾向にある気がしてならない。

 生前のアントニオ猪木は「プロレスは闘いである」と公言してはばからなかったが、もしかしたらその思想は、徐々に風前の灯に近づきつつあるのが現実なのだ。それだけに、中島やSareeeのような思考を持つプロレスラーは稀有な存在になっている。いわば“プロレス界の絶滅危惧種”が中島であり、Sareeeなのである。

 ではなぜ中島やSareeeは“闘い”にこだわるのか。それに関しては、シードリングの南月(なつき)たいよう代表(全日本女子プロレス最後の新弟子=全女イズム最後の継承者)が代弁する。

「これだけ痛い思いをしているのに、平気で『ショーでしょ? 八百長でしょ?』って言われるけど、そうじゃねえぞっていうのを見せたいっていうプライドじゃないのかなと思います。自分が憧れてきた女子プロレスに対する愛情でもあるし、そういうことがだんだん廃(すた)れて行っている中、(昔ながらの)日本の女子プロレスをウチらが残して行きたいっていう思いがあるんですよね」

 令和の今、カネさえあれば、なんでもすぐに手に入ると揶揄される。かつ飽食の時代で、長らく「うまい・安い・早い」が叫ばれてきたが、だからこそ、譲れないものは譲れないとばかりに、“強さ”や“闘い”に対する信念を全面に押し出すシードリングと中島、そしてSareee。その姿勢は、誰がなんと言おうと美しい。

「でも、そういう類は『友を呼ぶ』じゃないけど、だんだん固まってくるじゃないですか。だってここ(シードリング)で闘いたい、なんてその辺のアイドルレスラーは思わないですよ、絶対に。痛いし、危ないし。私だってただ弱いヤツとやったってしょうがないし。返してくると思うからこっちもやるしっていうのがないと楽しくないですよね」(中島)

 そういって“絶滅危惧種”らしい発言を残す中島に、冒頭に掲げた北斗VS神取戦は見たことがあるかと訊(たず)ねると、中島は「(映像だけは)見ました」と答えつつ、「やっぱすごいなと思います」と目を輝かせた。

対戦相手、大募集「私のベルトを取ろうなんて、もうすごい気合いじゃないですか」

 さらに中島は、東京ドーム大会にまでこぎつけた、当時の女子プロレスに関する見解を述べる。

「みんな捨て身じゃないですか。それがカッコいいなと思って。やっぱ誰でもできることをやっても意味がないと思うし、お客さんが、絶対にこんなのマネができないよっていうことをやらないと意味はないと思う。私は全然その域には達してないから、まだまだだと思います」

 この時の中島はそう謙遜したが、ならばと中島に今後の方向性を問うと、Sareee戦に勝利した後の青写真について話し出した。

「もちろんSareeeに勝っても、まだまだやる相手はいっぱいいると思います。今回、『Sareee-ISM~Chapter II~』(8月4日、新宿FACE)で初めて対戦するKAIRI選手、一緒に組む彩羽匠(マーベラス)とか、あとは橋本千紘(ゼンダイガールズ)選手とかも関わったことはほとんどないですし、そういう新しい対戦相手と闘っていきたいなっていうのはありますね。あとはシードリングの外に行きたいなっていう気持ちもありますね」

 意気軒昂にそう話す中島だが、客観的に中島の試合を見てみると、対戦相手から、できれば闘いたくないと思わせるだけのエグさを感じることはすべに述べた通り。

 すると中島は、かなり大胆な提案を口にした。

「対戦相手を募集してください。対戦相手、待ってます」

 正直な話、この言葉を聞くと、かつてアントニオ猪木が公言した「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」を思い出さずにはいられない。

「実際、私がベルトを取った時に、川畑梨湖、笹村あやめ、青木いつきが(挑戦したいと)言ってきて。だからその3人は特別なわけですよ。だって私と闘いたい。私のベルトを取ろうなんて、もうすごい気合いじゃないですか。もうそれだけで勇者だと思いますよ」(中島)

 ここまで、いかに中島VS Sareee戦が激闘必至な予感がするかを論じてきたが、それは=(イコール)どちらが真の勇者なのかを決める“闘い”になる。中島は言う。

「(Sareee戦は)一番面白い試合になるか分からないけど、一番エグい試合にはなると思う。間違いなく。だってそれだけお互いに絶対引かないし、Sareeeの強さも知っているからこそ、そういう試合になるだろうなっていうのは覚悟してリングに上がるつもりでいます」

 果たして、中島―Sareee戦の結果がどうなるのかは神のみぞ知る話だが、確実にいえることは、女子プロレスの歴史に深く刻まれる“闘い”になること。それだけは間違いがない。いったい何度、中島の鋭角的なエルボーが火を吹くのか、Sareeeの“ゴンッ”と鈍い音がする頭突きが何発炸裂するのか。真の勇者はどっちだ!?

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