26歳でアマ戦績4勝5敗…就職した仲間からは「それでいいの?」 佐々木琢磨が見せた執念の1R・KO勝利

ケージの中に響き渡ったのは、決して威勢の良いビッグマウスではなかった。もしかすると、格闘技を引退するのかもしれない。そう思うほどのマイクには、崖っぷちでもがき続ける男のリアルな葛藤と、生き残った安どが入り混じっていた。

背水の陣でリングに上がった佐々木琢磨【写真:ENCOUNT編集部】
背水の陣でリングに上がった佐々木琢磨【写真:ENCOUNT編集部】

「DEEP FIGHT CHALLENGE 2026 2nd ROUND」で劇的KO勝利

 ケージの中に響き渡ったのは、決して威勢の良いビッグマウスではなかった。もしかすると、格闘技を引退するのかもしれない。そう思うほどのマイクには、崖っぷちでもがき続ける男のリアルな葛藤と、生き残った安どが入り混じっていた。(取材・文=島田将斗)


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 アマチュア戦績は4勝5敗、年齢は今年で27歳。安定した職に就く同世代からは心配の目を向けられ、いつ辞めてもおかしくはない状況だった。若手発掘を目的として開催された格闘技イベント「DEEP FIGHT CHALLENGE 2026 2nd ROUND」(7月24日、東京・恵比寿ガーデンルーム)。血気盛んな10代や20代前半のファイターたちがひしめくなか、背水の陣でリングに上がった佐々木琢磨の纏う(まとう)空気は、明らかに異質だった。

 並々ならぬ覚悟は、極限まで仕上げられた肉体にもはっきりと表れていた。180センチの長身に、まるで彫刻のように鍛え抜かれた筋肉が鎧のようにまといついている。とてもフェザー級の枠に収まるものとは思えない規格外の体格だった。

 ゴングが鳴ると、その肉体に宿るバネが弾けた。相手の大越充悟も将来を嘱望される若手だったが、この日の佐々木の気迫はそれを完全に凌駕(りょうが)していた。長いリーチから繰り出される鋭い打撃でプレッシャーをかけ、しなやかなステップでケージを支配する。最後は相手の隙を逃さず、強烈なパンチが的確に打ち抜いた。1R・1分56秒、文句なしの衝撃的なKO劇にケージサイドで試合を見守っていた椿飛鳥も圧倒されていた。

 試合後、ケージの中で語ったのは、自身より若く才能あるファイターがどんどん出てくることへの焦りや葛藤だった。ギラギラした野心や家族への感謝を叫ぶエモーショナルなマイクが目立つなか、佐々木のマイクはただひとり冷静で、実直。KO勝利したものの悲壮感すら感じるものだった。

 勝利の歓喜よりも耳に残る葛藤。その根底には別競技で味わった強烈な挫折体験にある。佐々木は大学4年まで野球に打ち込んできた。青森・八戸西高でピッチャーをしていたが、チームの意向でサイドスローに転向したことをきっかけに、歯車が狂い始めた。

「球速が落ちて、フォームも崩れてしまったんです。ある日の試合中にどうやって投げたらいいか分からなくなってしまって……」

 イップスだった。高校で思うような結果が出せず、諦めきれない思いを抱えて関東の強豪・桜美林大へと進学した。しかし、そこでも症状と向き合う日々を送った。

「外野を守っていたのですが、直接送球しようとしてもワンバウンドを投げてしまったり、体が固まったり。レギュラーメンバーにも入れず、最後は指名打者(DH)でした」

 佐々木の代のチームはリーグ戦で優勝。歓喜の輪の中にいても、心は晴れなかった。「強い代にいさせてもらった」と謙遜しつつも、本音をこう漏らした。

「やっぱりずっと、自分も主役になりたいなっていう気持ちで人生をやってきたんです」

大越充悟のタックルを切る佐々木琢磨(左)【写真:(C)DEEP事務局】
大越充悟のタックルを切る佐々木琢磨(左)【写真:(C)DEEP事務局】

今回の一戦のため仕事をセーブ「地元の青森に戻って、親に頭を下げました」

 大学4年で野球部を引退した後、くすぶっていた心に火をつけたのが格闘技だった。高校時代の親友から「お前、手足が長いから格闘技をやったら才能が開花するんじゃないか」という冗談交じりの勧めを真に受けた。当時活躍していた朝倉未来らの姿に「男としての強さ」を感じ、22歳で本格的に格闘技の世界へ飛び込んだ。

 現実は甘くなかった。年齢的な部分もあり、より実践的なDEEPのアマチュアSルールから出場するも、負け越し。試合経験を積むために適正階級以上のウェルター級で出場して判定負けを喫したり、試合中に腕を脱臼してレフェリーストップで敗れたりとここまで思うような結果が残せなかった。

 同世代が社会人として安定した生活を送っていくなか、定職に就かずアルバイトをしながら格闘技を続ける生活。「それでいいの?」という仲間の声も耳に届くようになってきた。

「格闘技は中間層がいないというか、本当に稼げないか、めちゃくちゃ稼げるかの世界だと思うんです。周りに心配をかけているし、自分でも『26でプロになれなかったら辞めよう』という気持ちでやっているんです。だからこそ、今年は本当に勝負の年なんです」

 今年4月のDEEP フューチャーキングトーナメントでは1回戦で敗退。タイムリミットが迫るなかで、今回の試合が決まると、大きな決断を下した。アルバイトを一旦セーブし、格闘技一本に集中する環境を作ったのだ。

「一度地元の青森に戻って、親に頭を下げました。『ちょっと2か月だけ全ベットさせてくれ。終わったらお金を稼いで返すから。もしきつかったら助けてほしい。でも最後、悔いを残したくないから、すべてを懸けさせてくれ』って」

 7月24日で格闘技を辞めるかもしれない。その覚悟で臨んだ自分にとっての大一番。6月中旬に80キロあった体重から約15キロもの過酷な減量を乗り越え、試合当日は74キロまでリカバリー。「今までで一番緊張した」と苦笑いする。

 会場には青森から駆けつけた地元の友人や、ジムの仲間など約30人もの応援団が詰めかけていた。「最後になるかもしれないから見に来てくれ」と自ら声をかけたからだ。そんな重圧の中、佐々木は劇的な勝利で自らの首の皮一枚をつなぎとめた。

「うれしいっすね。本当に格闘技が好きだし、練習仲間との時間も好き。応援してくれる人たちがたくさん来るのもうれしい。まだまだ続けたいっていう気持ちが、何が何でも勝ちたいという執念に変わりました」

 ボールを上手く投げられずマウンドを降りた青年は今、ケージの中で「主役」になろうともがいている。この日の劇的なKO勝利は、佐々木に確かな“何か”を掴ませたはず。だが、現実は甘くない。26歳のアマチュアファイターに許された時間は少なく、プロへの道が拓ける確証もない。後がない恐怖と闘いながら、拳を振るう生き様は、人の心を強く揺さぶるに違いない。

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