「こんなにキラキラした暴力があるんだ」 喧嘩未経験だった中島安里紗が“デンジャラスクイーン”へ覚醒するまで

初夏の女子プロレス界に花開いた「Sareee-ISM」(5月16日、新宿FACE)においてSareee以上に存在感を示したのが、SEAdLINNNGシングル王者の中島安里紗だった。中島のスタイルは、まさに令和版“デンジャラスクイーン”とでも言いたくなるほどのエゲツなさ。事実、中島は「日本の女子プロレスは私」と豪語する。そこで今回は中島を直撃し、独特の“凄み”に迫った。

「日本の女子プロレスは私」と豪語する中島安里紗
「日本の女子プロレスは私」と豪語する中島安里紗

やられる覚悟があるから私もやるだけ

 初夏の女子プロレス界に花開いた「Sareee-ISM」(5月16日、新宿FACE)においてSareee以上に存在感を示したのが、SEAdLINNNGシングル王者の中島安里紗だった。中島のスタイルは、まさに令和版“デンジャラスクイーン”とでも言いたくなるほどのエゲツなさ。事実、中島は「日本の女子プロレスは私」と豪語する。そこで今回は中島を直撃し、独特の“凄み”に迫った。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 今思うと、「Sareee-ISM」の誕生は、日本の女子プロレス界にとってひとつの分岐点だったように思う。あの大会以降、女子プロレス界の流れが、多少なりとも変わってきた気がするからだ。それは同大会のメインで行われたSareee VS 橋本千紘が専門誌の表紙を飾ったことはもちろん、大会前にSareeeが発した言動が、日本の女子プロレス界にこれ以上ない問題提起を巻き起こしていたことも大きかった。

「プロレスなので、私は“闘い”だと思うんですね。なので、キレイとかわいいとか、いいですよ。もちろんそれもいいんですけど、その前にしっかりと“闘い”をやった上で、そういうことをやっていかないと。ウソはあとからバレてしまうので。しっかり私が“闘い”っていうものを日本の女子プロレス界に。(日本に)帰ってきて、しっかり見せていきたいと思っています」(3月13日に実施された「Sareee-ISM」開催決定会見でのSareeeの言葉より)

 実を言うと、今年に入ってからというもの、私が女子プロレスの記事を書く場合には、かなりの確率でこれについて触れてきた。それだけSareeeの発言がプロとしての根幹に関わるものだったからだが、実際、「Sareee-ISM」を観察していくと、メインを飾ったSareee以上に、Sareeeの言葉を実証する女子プロレスラーが独自の存在感を放っていた。

 SEAdLINNNG(シードリング) BEYOND THE SEAシングル王者の中島安里紗である。中島は第2試合のタッグマッチに登場したが、彼女のエグさは群を抜いていた。エルボーの角度から蹴りの一発一発、ロープやコーナーを使った攻撃にしても、なかなかの際どさ。いわゆる「殺し」に該当する“凄み”の持ち主である。

 実際、中島を直撃すると、「あの日は会場の雰囲気も良かった。リアクションしてくれるから。シードリングの時だとあれが普通だから驚かれないけど、『Sareee-ISM』の時はそれを知らない方が多かったから新鮮でした。こんなに引かれちゃうんだと思って」と苦笑した。

 本音を言うと、中島の対戦相手を務めるのは、いつも以上に覚悟がいるだろうな、と思う。

「でしょうね。でもやられる覚悟があるから私もやるだけであって。逆に、それだけやって来ないヤツは、コイツ覚悟がないんだなって思うし。たしかに相手は嫌だと思いますけど、だからこそ、中島とやりたいって言ってくる人が輝くと思う。すごいコイツやる気だなって思う。勇者だなと」(中島)

「Sareee-ISM ~Chapter II~」(8月4日、新宿FACE)ではタッグながら両者の対戦が実現する
「Sareee-ISM ~Chapter II~」(8月4日、新宿FACE)ではタッグながら両者の対戦が実現する

「日本の女子プロレスは私」の真意とは

 そんな中島が「Sareee-ISM~Chapter II~」(8月4日、新宿FACE)では、タッグながらSareeeと対決することが決まった。中島が彩羽匠(マーベラス)と組み、Sareeeは“世界を旅する海賊王女”KAIRIとのWWEスーパースターズを結成するドリームタッグマッチになる。

 これに関して中島は、「プロレスを17年やっているので新しいことってなくなってくるんですよ、だんだん。でも今回はKAIRI選手とも初めて当たるし、新しいことが巡ってきたのでワクワクしてますね」と期待を膨らませる。

 ならばと中島にKAIRIの印象を聞くと、「試合も見たことないですし、わかんない。ビジュアルがすてきだな、くらい。でも楽しみです」と答えつつ、次のように話した。

「日本の女子プロレスってホントに私だと思うので、そこを見せつければという感じですかね」(中島)

 この言葉には、WWEがなんぼのもんじゃい! という中島の意地とプライドを感ぜずにはいられなかったが、改めて中島にSareeeの発した問題提起について水を向けると、興味深い返答があった。

「お前がそれを言うんだ、と思って。あれだけかわいいビジュアルの子がそれを言っちゃうんだ、と思って。だからこそ意味があるのかもしれないけど、私にとっては別にどうでもいいっていうか。私は私でやりたいプロレスをやっているし、みんなそうだと思う。誰を応援するのかを選ぶのはお客さんだと思うから、ビジュアルで入ろうが、プロレスで入ろうが……、そんな感じですかね」

 そう言って、中島はそこまで問題視すべき発言ではないという見解を示す。

「周りは周りだと思うし、自分自身は“闘い”を売りにして、強さが欲しいし、強さでやっているけど、じゃあ私が何を見るってなったら、結構、ビジュアルで入りますもん。自分が見る分にはかわいい選手が好きだし、って感じですね。だってかわいい子がいなかったらつまんないですよね、って思います」と笑った。

 ちなみに「Sareee-ISM」でのSareee VS 橋本千紘に関しては、「Sareeeは日本に戻ってきて、コンディションが戻ってないのかなっていう感じが少しありましたね。向こうで得たものはあるんだろうけど、まだ100に持って来れていないんじゃないかな、とは思いました。だから、自分が思っているSareeeには達していなかったというか」と厳しい見方を示した。

「“ここ”で闘うんだよ!」…中島が影響を受けた先輩レスラーとは

 先にも書いたが、中島はあきらかに「殺し」を継承し、プロとしての“凄み”を身につけていると思う。

 だが、驚いたことに「女子プロレスに入る前はいじめられっ子で、学校も雨が降ったら行かなくていいや、くらいの根暗でした。人見知りで、人ともそんなにしゃべれないし、友だちもいないし……」と、地元にいた頃の話を振り返りながら、「だから青春がなかった分、今プロレスで青春してる、みたいな感じですね」と続けた。

 ではなぜそんな根暗な少女が女子プロレスに目覚めたのかと言えば、これには中島の生まれ育った境遇が関係してくる。

「ウチの親が酒乱で暴力的だったので、初めてプロレスを見た時に、こんなにキラキラした暴力があるんだ、みたいな。普通は暴力沙汰を起こせば捕まるのに、プロレスではワーッてお客さんが盛り上がって、それでお金がもらえて…。人を殴って喜ばれるってすごくないですか? 私はただの根暗女だったけど、そこに憧れましたね。キラキラした闘いに憧れた、みたいな感じですかね」

 そして、さらに驚いたのは「(女子プロレスに入る前は)ケンカなんてしたことない。お姉ちゃんに勝ったことが1回もない」と無敗ならぬ“無勝”の戦績を引っ提げてのプロ入りを果たしていることも明かした。

 まさか将来、自分がプロレスラーになるとはとても思えない人生を歩んできた中島がプロレス界に入って一番影響を受けたのは誰だったのか?

 おそらくそこに中島の“凄み”の謎を解くヒントがあるに違いないと、改めてそれを問うと、「(誰かに絞るのは)難しいですね……。でも一番最初に教わっているのは堀田祐美子、下田美馬っていう全女勢(全日本女子プロレス出身者)なので、“ここ”で闘うんだよ! みたいなものは絶対にあるかな」と言いながら、握った左の拳を心臓に当てる。

 つまり、“ここ”とは「ハート」や「気持ち」「心意気」を指していることになるが、その考え方には非常に昔ながらのプロ魂を感じ取ることができた。

「好きなのはバイオレンスな感じかな。例えば、先輩ですけど、下田美馬って女の嫌な部分が出ている感じがするじゃないですか。あの意地悪そうな部分がたまらなく好きですね」

 事実、中島のエゲつないファイトスタイルを見ていくと、下田美馬の師匠に当たる、“デンジャラスクイーン”北斗晶が思い浮かぶ。

 ならば中島には、あくまで個人的ながら令和版“デンジャラスクイーン”を名乗ってもらいたい。そう思わせるだけの実績は十二分にあると思うからだ。

 だが、そんなこちらの物言いに、「恐れ多いです。ありがたいですけど……」と謙虚な姿勢を見せた中島。それでも「殺し」の継承者は最後にこう口にした。

「“闘い”を楽しみたい。いつもそう思っています」

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