【医療の現場から】PCR検査は増えるのか(前編) 希望者全員の検査ができない実情

ポスドクを採用することの問題

 ポスドクならPCR検査をすること自体は、訓練すれば臨床の場でもできるようになるでしょう。しかし、雑用ともいえる部分を担当する人的な応援体制も必要になります。今、現場ではそこもひっ迫しています。PCR検査はただやればいいというわけではなく、きっちりとした精度管理が必要です。つまり、全国どこがやっても同じ質で行われねばなりません。その調整も必要です。

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 そもそもポスドクに依頼するということは、彼らにとっては専門外のことで半年だか1年だかの時間を奪うことになります。自分の専門分野で成果を出すか出さないかは研究者生命をかけた問題で、彼らは自身の専門研究に必死で取り組んでいます。新型コロナウイルスが今、大流行してまったく収まる兆しが見えない時ならば、彼らは人命のために貴重な時間を捧げてくれるでしょう。でも、症状のない人が「念のために」「不安だから」という気持ちで受ける検査のためにとなると、どうでしょうか。簡単にお願いできることではありません。

検体だけが増えても検査が追いつかない

 試材の問題もあります。PCR検査(RT-PCR検査)はウイルスからRNA遺伝子を抽出するためのキット、RNA遺伝子をDNA遺伝子に変換する逆転写(RT)のための酵素、DNAを増幅させる反応のための酵素や基質等の入ったキットも必要です。専用の機器も必要です。たとえば、RNA抽出キットはほとんどがドイツなどからの輸入に頼っていて、日本ではなかなか入手できなくなっていました。今、日本のメーガーがずいぶん作り始めているので、いずれは入手の問題は解消するでしょう。だからといって、そのことだけで単純に問題が解決できるものでもない、現場の事情もあります。

 検査時間が短縮できる新しい試薬も発売されています。これは良いニュースで、今後、検査にかかる時間は短縮されていくでしょう。専用機器もたくさん作られています。ただ、それらもすぐに普及するわけではないし、無限にあるわけでもありません。

 一方で条件が整わなければ、逆に現場の負担増加になりかねません。1日2回やっていた検査を、時間が短縮されたのなら3回やれるだろう、ということになったとしたら、忙しいときには休む間もなく仕事をこなしている検査技師たちに、さらに労働を強いることになります。これが現実です。なので、このままの態勢ではたとえ「カシマスタジアム」でこれまでより多くの人が受けられるなど検体を採取する場所だけが増えても、検体がどんどん増えるだけで検査はいつまでも追いつかないでしょう。

(つづく)

□西村秀一 (にしむら・ひでかず)1955年9月8日、山形県新庄市生まれ。1984年、山形大学医学部医学科卒。米国疾病予防管理センター(CDC)客員研究員、国立感染症研究所主任研究官などを経て2000年、仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長就任。専門は呼吸器系ウイルス感染症。訳書に「史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック」(みすず書房)、「豚インフルエンザ事件と政策決断ー1976起きなかった大流行」(時事通信出版局)など。

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