PRIDEも担当した「THE MATCH」実況アナの“仕事の流儀” 喋りやすい選手とは?

那須川天心VS武尊による「世紀の一戦」が行われた「THE MATCH 2022」(6月19日、東京ドーム)。この試合を実況したのが25年の実況キャリアを持つ、矢野武アナウンサーだ。元々は役者だったという矢野アナに、25年間にわたる実況人生で分岐点となった場面はいつか――。幅広い視点から話を聞いた。

25年の実況歴を持つ矢野武アナ。RIZIN、K-1のみならず、「炎の体育会TV」などのバラエティ番組から、ラグビー日本代表の実況も務めている【写真:ENCOUNT編集部】
25年の実況歴を持つ矢野武アナ。RIZIN、K-1のみならず、「炎の体育会TV」などのバラエティ番組から、ラグビー日本代表の実況も務めている【写真:ENCOUNT編集部】

矢野武アナのはじまりは「PRIDE3」

 那須川天心VS武尊による「世紀の一戦」が行われた「THE MATCH 2022」(6月19日、東京ドーム)。この試合を実況したのが25年の実況キャリアを持つ、矢野武アナウンサーだ。元々は役者だったという矢野アナに、25年間にわたる実況人生で分岐点となった場面はいつか――。幅広い視点から話を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕) 

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 そもそも矢野アナは、実況を担当する前は役者だった。

「はじめて実況をしたのが「PRIDE3」(1998年6月24日、日本武道館)だったんですよ。高田延彦VSカイル・ストュージョン、桜庭和志VSカーロス・ニュートン。そのビデオでした。それまで実況なんてやったことがなかった。元々は役者をしていて、スカパー! のサムライニュース(プロ野球ニュースの格闘技版)の仕事をしていたら、担当の方が、『今度は実況なんてやってみませんか?』って。え? 実況なんてとんでもない! っていうところからはじまったんですよ。だから一発目はヒドかったですよ。何を言っていいのかわからないから。そこから全部自己流でやってきました」

 手探りではじまった実況人生。そこから25年を経過し、世間が注目する「世紀の一戦」を実況するまでになった。

「よく言われるのが、古い映像を見ていて、なるほどなーって思っていたら、その実況が自分だったなんてこともありますよね(笑)。こんなのをやっていたんだなって。覚えていないですから」

 25年のキャリアのうち、印象深いのはやはりPRIDEだという。

「フジテレビがPRIDEを中継していて、(2006年6月に)放送を中止したことがあったんですよ。その後、スカパー! だけになって。その頃、自分はモータースポーツの実況でマレーシアにいたんですけど、マネジャーから電話がかかってきて、『来週ですけど、フジがPRIDEをやらなくなったので、実況やりますか?』みたいな。それはもう、『やりましょう!』って即答しましたね。だから無差別級グランプリの準々決勝戦から実況をさせてもらいました」

 思い返すと、ミルコ・クロコップVS吉田秀彦、藤田和之VSヴァンダレイ・シウバなどの試合があった。今考えても、世界に向けてこれ以上ない豪華なラインナップだった。当時は年に3、4回はさいたまスーパーアリーナのスタジアム仕様を使って大会を行っていたが、現在の格闘技界は、2009年の大みそかにあった魔裟斗の引退試合以来、同会場のスタジアム仕様を使えていない。いかに格闘技が盛り上がっていたのかという証明でも合った。

「あの大会で覚えているのは、『あの日、あの時、あの場所で、誰もが見られるPRIDEから、観たい者しか観られないPRIDEがはじまる…』みたいなナレーションからはじめたんです。そこから実況席に降りてきて、『ようこそ』みたいに実況席の画が映るみたいなのはありましたね」

RIZINの会場にて。矢野武アナ、先頃、引退した“世界のTK”高阪剛、市川勝也アナ【写真:ENCOUNT編集部】
RIZINの会場にて。矢野武アナ、先頃、引退した“世界のTK”高阪剛、市川勝也アナ【写真:ENCOUNT編集部】

過去に希望した試合は?

 元々役者だったのがどこかで影響しているのか、矢野アナは「なんでもやります、というスタンス」だと言い、仕事は選んでこなかったという。

 それでも25年の間、「これだけはどうしてもやりたい!」と思った試合はないものなのか。この問いに対して矢野アナは「それはありました」と答え、「近いところだと、去年あったRIZIN最初の沖縄大会でありましたね」と続けた。
 
 RIZIN初の沖縄大会は「RIZIN.32」(2021年11月20日、沖縄アリーナ)だったが、ここで砂辺光久VS前田吉朗の試合が行われた。

「砂辺選手の相手が欠場になって、急きょ、前田吉朗選手に変更になったんです。それを聞いた時はやりたいなあと思いました。過去パンクラスを長期間担当してきたので。たぶん二人のデビュー戦も自分がしゃべっているんじゃないかな。だからやりたいなと思っていたら、担当にそのカードが入っていたので、よし! と思ったし。会場に『(パンクラスのテーマ曲の)ハイブリッドコンシャス』が流れると興奮しましたね」

 他にもある。

「『平成最後のやれんのか!』(20年大みそか、さいたまスーパーアリーナ)であった北岡悟VS川尻達也もそうでしたね。お願いはしていないんですけど、たぶん、佐藤大輔ディレクターが『矢野にやらせたらいいんじゃないか』って思ってくれたのかなと」

 関係者からすれば、北岡や川尻のたどってきた流れを含め、矢野アナが知っていると分かっているからこそ、任せるに値すると判断したのだろう。

 そう考えていくと、実況しやすい場合とそうではない場合も想定されるが、矢野アナにとってその基準はどこにあるものか。

「例えば芦沢竜誠選手はしゃべりやすいですね。基準かどうかは分からないですけど、入場の実況を作りやすい人はしゃべりやすい気がします。その点では、最近だとYUSHI選手。いじりたくなるじゃないですか。本人からは『実況の人にちょっとからかわれながらですけど』みたいなことをSNSかなにかで書いていたみたいですけど、からかっているわけではないんですよ。面白がってはいますけど、そのほうが、その選手の持っている独自の個性は出せますよね」

 矢野アナは言う。

「はじまっちゃうと、どううまく終わらせるかっていう仕事ですもんね」

 さらに25年経っても、周囲に気を遣いながらかつ大胆に実況していることを明かす。

「これ、失礼じゃないか、これ、出すぎかなってビクビクしながらやってますよね。あの人、怒ってない?とか。そういう性格ではあると思います。真面目ではあると思いますね」

□矢野武(やの・たけし)プロフィール
1968年9月22日、愛知県出身。スポーツ実況アナウンサー。「K-1 WORLD GP」「RIZIN」「ラグビー中継」「炎の体育会TV」「魔改造の夜」などに出演中。矢野さんが代表を務める「ボイスオン」ではスポーツ実況アナウンサーを募集中。我こそはと思う方はお問い合わせを!www.voiceon.co.jp

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