朝倉海の発した「1日に2試合は絶対やっちゃダメ」は是か非か 歴史的背景から考える

2021年のRIZINのMVPは朝倉海意外にあり得ない

 結局、武蔵VSレミーの決勝戦は再延長までもつれ込んだため、武蔵にとっては合計で3分×13ラウンドという、プロボクシングの世界戦でもそこまではやらないよ、というまさかの回数を体験することに。

 しかも武蔵は前年のK-1グランプリでは佐竹雅昭以来、日本人ファイターとして10年ぶりに決勝戦にまで進んだにもかかわらず、レミーに敗れ、悲願の優勝を果たすことができなかった。

 つまり2年連続で武蔵VSレミーの決勝戦が実現したとあって、当然、武蔵のリベンジを期待する声が多かったように思うが、結果は武蔵の判定負け。惜しくも武蔵は頂点に到達できなかった。

 要は桜庭にしろ、武蔵にしろ、激闘を繰り広げ、人々に尋常ならざる“何か”を与えながらも、それでもなお最終的に輝ける栄光が手に入らないもどかしさや切なさ。そして、トーナメントが進んでいくことで、お互いの山組みにある対戦相手が違うことから、どうしても生まれる「不平等」感。そこから導かれる「未完成」な部分こそが、実は極上の美しさや尊さを醸し出してくると思うのは記者だけだろうか。

 もちろん、人によって見方は千差万別であり、こちらの見方を強要する気は毛頭ないし、そんな見方をするこ自体が時代錯誤なのかもしれない。それでも桜庭や武蔵の果たした“偉業”を、今後も誰かが語り継いでいってほしいと切に願うばかり。

 そんなところで話を最初に戻して朝倉海だが、改めて21年のRIZINを振り返ると、MVPは朝倉海以外に存在しなかったことが分かる。

 それは、今や全世界に猛威をふるう、コロナ禍であるにもかかわらず、半年がかりでグランプリを開催することができたのは朝倉海のおかげだからだ。21年に限っていえば、もしRIZINに朝倉海がいなければ、そんな発想すら浮かばなかっただろう。

 誤解を恐れずにいえば、たとえ決勝戦で敗れようと、そんなことは大きな問題ではない。確かに朝倉海自身が掲げた「最低でも優勝」こそ逃したものの、それはそれ。とにかくRIZIN関係者はもちろん、RIZINを見続けている全ファンが感謝して余りある存在が、21年の朝倉海だったと断言する。

 最後に、朝倉海が動画で口にした、「1日に2試合はやっちゃダメ。限界を超えてる」発言だが、活字ではなく動画を確認する限り、そこまでのシリアスさはまったく感じなかった。つまり、朝倉海が発した言葉を活字で読むか、動画で見るかによって、ガラリとその印象が変わってしまったのはそれが理由になる。言い換えれば、それなりの舞台がそろえば、朝倉海はまた限界を越える挑戦に打って出る覚悟はあるとみた。

 それは朝倉海が「世界最強」を目指すと同時に、いや、それ以上に価値のある、「超人追求」という側面がきちんと視界に入っているからだと推測する。そう考えると、朝倉海が今後果たすだろう“偉業”を楽しみに待ちたいと思うばかりである。

 なお、もし今後、UFCにならって「1日に2試合」が日本の格闘技界から消えていくことになったとしたら、それは時代の流れ以外の何者でもない。果たして、日本の格闘技界がどちらに進んでいくのか。その行く末を見守っていくのもまた、この世界を見続けていく醍醐味の1つに違いない。

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