朝倉海の発した「1日に2試合は絶対やっちゃダメ」は是か非か 歴史的背景から考える

大みそかの激闘を終え、現在は「少し格闘技から離れたい」と漏らしている朝倉海
大みそかの激闘を終え、現在は「少し格闘技から離れたい」と漏らしている朝倉海

桜庭和志と武蔵の果たした“偉業”

 さらに、こちらもUFC同様、無差別級の世界の強豪8人によるワンデートーナメント戦を行った結果、決勝戦でアーネスト・ホーストを破ったブランコ・シカティックが優勝。以来、K-1は世界の精鋭によるワンデートーナメントを行うことが恒例化し、2002年からは魔裟斗をエースにした「K-1ワールドMAX」も開催されるに至った。

 これは「人類最激戦区」をうたい文句に、契約体重70キロの精鋭ファイター8人によるワンデートーナメント戦で「世界最強」を争う形式が取られてきた。つまり1993年からスタートした現在の格闘技界の主流となっている、キックボクシング(K-1)とMMAは、1日にワンデートーナメントを行うこと。

 この方式をとり続けてきた結果、現在までにこれ以上ないほどの多種多様な人間ドラマを呼び込むことに成功し、類まれなる存在価値を見出してきた「歴史」が存在する。確かに現在のUFCでは一切、ワンデートーナメントは行われていないが、だからこそ、日本特有の方式として、世界との差別化を図る手段とも言える。

 ちなみに個人的な記憶として、ここで書き記したいワンデートーナメントにまつわる人間ドラマを2つ紹介したい。1つ目は、PRIDEグランプリ2000(2000年5月1日、東京ドーム)での桜庭和志。2つ目は、K-1ワールドグランプリ2004(04年12月4日、東京ドーム)での武蔵になる。

 前者は15分×6ラウンドという「伝説の90分」を闘い抜いた結果、ホイス・グレイシーを下した桜庭が、完全にPRIDEのエースに成り上がった大会だった。それだけでもすごい話なのに、さらに桜庭がすごいのは、ホイス戦後、イゴール・ボブチャンチンと闘うために準決勝戦のリングに上がり、15分×1ラウンドを闘ったこと。当然のことながら1回戦を10分程度でTKO勝ちしたイゴールと相対するには、桜庭には絶対的不利な局面になる。

 実際、桜庭は1ラウンド終了後、セコンドの高田延彦に対して「もう無理です」と告げたことでタオルが投入され、泣く泣くTKO負けとなるものの、誰も敗れた桜庭を責める者はいなかった。なにせ、トータル105分(!)を闘ったなんて、前人未到かつ前代未聞の領域である。

 また、後者は1試合が3分×3ラウンド制での試合だったが、武蔵は1回戦と続く準決勝戦の2試合を、ともに延長戦にまでもつれ込む展開に。要するに決勝までの段階で、すでに3分×8ラウンドを消化していたことになる。一方、決勝戦で闘うレミー・ボンヤスキーは、ここまで3分×7ラウンドと、武蔵よりも1ラウンド少ない回数で決勝戦を迎えている。

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