学生時代は無名だった陸上選手が50代で日本記録を作れたとっておきの“継続の秘訣”とは

東京五輪埼玉県聖火ランナーを務めた【写真提供:後口洋史さん】
東京五輪埼玉県聖火ランナーを務めた【写真提供:後口洋史さん】

楽しみを犠牲にせず、休むべき時は休む

 追い込んで走ることは苦しいので、楽しみも大事にしています。あくまで運動は余暇活動ですから、楽しみを犠牲にしないことが、続ける秘訣ではないでしょうか。勝負をかけている試合の前は別ですが、自分の場合はお酒が好きで、毎晩、缶ビール500ミリリットル1本の晩酌を楽しんでいます。新型コロナウイルス禍以前は楽しそうな飲み会に誘われれば、「走る練習があるから」と断ったりせず、飲み会を優先していました。睡眠時間を削ったりもしません。

 けがをしないことも重要です。自分も28歳のとき、ランニング過多による座骨神経痛で、走ると腿の後ろが突っ張って痛くなり、ほぼ2年間走れなくなってしまいました。選手としてはもう終わりかな、とも思いました。27歳のとき、フルマラソンで2時間25分11秒という市民ランナーとしてはトップレベルのタイムで走れて東京国際マラソンに出場できたし、もういいか、と。

いいシューズやサポーターの使用も続ける秘訣

 でも、休んだら治ってまた走れるようになり、「またあの大舞台を走れる感動を味わいたい」と思いました。体の調子に注意を払いながら休養を入れたり、スピードを抑えたりしながら続けていたら、またフルマラソンが走れて、記録が作れるまでになりました。その経験を踏まえて言うと、けがや痛みがあるときは、痛み止めを打って続けるのではなくて休む。そして、やめてしまうのではなく、また始めてみる。経験を重ねれば、けがをするかしないかの見極めもできるようになると思います。

 もう一つ、続ける秘訣として、専門のシューズやウエア、サポーターなどを使用することをお勧めします。たとえばシューズでいうと、続けられないかもしれないと思って、安くて重くて走りにくいシューズで始める人がいますが、それでは走っても疲れるし楽しくありません(笑)。楽しくないからやりたくなくなり、やめてしまう。初心者が陥りがちな悪循環です。多少お金はかかっても、いいシューズを選べばより安全に軽快に走れて、軽快に走れたら気持ちよくてもっと走りたい、また走りたい、あれ、気付いたらこんなに走ってる……となると思います。

□後口洋史(うしろぐち・ひろし)1968年10月4日、埼玉県鶴ヶ島市生まれ。立教高校(現・立教新座高校)1年のときに陸上部に入り3000メートル障害で埼玉県大会出場。立教大学社会学部進学後も体育会陸上競技部で活動。大学卒業後もサラリーマンをしながら陸上を続け、マスターズの大会に出場。40歳から中長距離各種で埼玉県記録を出すようになり、51歳で3000メートル障害日本記録(50~54歳)を達成した(10分22秒81)。また、2020年1月、2時間34分28でフルマラソンを走り、福岡国際マラソンの出場資格取得。21年7月、東京2020五輪埼玉県聖火ランナーを務めた。公立中学校の社会科教師。家族は数学教師の夫人と高校3年の息子1人。

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