「今はそのやり方は通じない」 給食で、理科の授業で…7年頑張った教師を辞めた30代女性 叱り方に迷い続けた日々

全国で教員不足が深刻化する中、若手教師の離職が社会的な課題となっている。背景には何があるのか。約7年間、公立小学校に勤務し、今年33歳で教職を離れた女性は「時代の変化をアップデートできなかった」と複雑な心境を口にする。なぜやりがいを感じていた仕事を辞める決断に至ったのか。外からは見えづらい学校現場の問題と、教員の実情に迫った。

学校現場について語る元教師の女性【写真:ENCOUNT編集部】
学校現場について語る元教師の女性【写真:ENCOUNT編集部】

当たり前だと思っていた指導が…度重なる苦悩も

 全国で教員不足が深刻化する中、若手教師の離職が社会的な課題となっている。背景には何があるのか。約7年間、公立小学校に勤務し、今年33歳で教職を離れた女性は「時代の変化をアップデートできなかった」と複雑な心境を口にする。なぜやりがいを感じていた仕事を辞める決断に至ったのか。外からは見えづらい学校現場の問題と、教員の実情に迫った。

「子どもと接するのは楽しかったですし、子どもたちの成長過程をそばで見られることは本当に幸せでした。ただ、今の時代の子どもたちの変化に私自身がうまくアップデートしきれなかった――」

 女性は子どもが好きだったことに加え、教師という仕事のやりがいにひかれ、教員の道を選択。特に魅力を感じていたのは、自らの学びが子どもたちの反応として返ってくることだったという。

「授業研究をすればするほど、子どもたちの反応として返ってくるんです。自分の努力が子どもたちの学びにつながることに、大きなやりがいを感じていました」

 子どもの成長を間近で見られることにも幸せを感じていた。低学年なら、入学当初はできなかった掃除や給食の準備が、自分たちだけでできるようになる。高学年なら、行事に向けてクラス全体で一つになっていく姿に心を動かされる。学年ごとに異なる成長を見守れることが教師を続ける大きな原動力になっていた。

 だが、7年以上教師として働く中で、子どもや保護者との向き合い方に徐々に変化を感じるようになったと話す。

「自分の中で『どうやったら子どもたちにきちんと伝わるんだろう』と考えると分からなくなってしまって、一度教室にいれなくなったこともあります」

 例えば、給食で苦手なものが出ても「一口は食べてみよう」と声をかけることがあった。しかし、保護者から「食べさせないでください」と伝えられることも増えたという。食育に対する考え方も年々変化しており、何が正しいのか、教師としてどう接すればいいのか、思い悩む出来事が続いた。

「それぞれの家庭の考え方があるのでそれが悪いということではないのですが、自分が当たり前だと思っていた指導が通じなくなっている感覚はありました」

 中には、いわゆるモンスターペアレント対応や、理不尽とも思えるクレームも……。子どもへの叱り方にも迷いが生まれた。強く注意した際、同僚から「今はそのやり方は通じない」と言われたこともあった。

「今は強く叱るというより、褒めながら伸ばしていくのが当然という空気があります。少し言い方を間違えるだけでも問題になりかねないので、腫れ物に触るような感覚で接することもありました」。気苦労の連続で、息が詰まるような日々だった。

 指導の難しさから、突然涙が出たこともあった。小学5年生を担当していたときのこと。理科の授業で、実験の説明を最後まで聞かずに途中で作業を始めたり、その後「分からない」と訴えたりする子が何人もいた。

「最初はもう一度説明しながら『一緒にやろう』とやっていたのですが、途中で投げ出し、『できない』『わからない』と授業が進まず、埒(らち)が明かなくなりました」

愛車を手放したお金でエンタメ系専門学校へ

 近年はショート動画などの流行により、短時間で多くの情報に触れる機会も増加。そうした生活環境の変化により、子どもたちの集中力が低下しているとする指摘もある。加えて、労働環境への疑問もあった。「どれだけ朝早く学校に行って準備しても、遅くまで残っても残業代は変わらない。それ以上に、みんながそこにあまり疑問を持っていないことのほうが問題なんじゃないかと」。当然、有給休暇もあるが、授業のある平日には取得しづらく、夏休みにまとめて取るということが多かった。

 それでも、「このままなんとなく教師を続けるんだろう」と思っていた。だが、勤務校の異動が大きな転機になったという。

「学校が違うだけで、子どもたちも雰囲気も全然違いました。教師の世界の中だけでもこんなに違うなら、自分は本当に狭い世界しか知らないんだなと思ったんです。もっと自分の知らないことを知ってみたいと思いました」

 以前から違う仕事への興味はあったものの、教師を辞めてまで挑戦したいと思えるものには出会えずにいた。そんな中、ようやく見つけたのがエンタメの世界。愛車を手放したお金でエンタメ系専門学校の入学資金を工面、地元・九州から上京し、新たな道に飛び込むことを決めた。

「教師を続けていたらできなかったことをたくさん経験しています。今は安定した職に就いていないので日雇いのアルバイトの毎日。『教師のほうが100倍楽しかったな』と思うこともありますが、それでも辞めずにそのまま教師をしていたらきっと後悔していたと思います」

 教職を離れたからこそ、あらためて気付いた魅力もあった。一方で、やはり教育現場には変わってほしいと願う課題もある。女性が特に必要だと訴えるのが、残業に見合った賃金などの待遇面と、教員が授業準備や自身の学びに使える「時間」の確保だ。

「先生たちは、子どもたちが登校してから下校するまでほぼ付きっきりで、その後の短い時間に授業準備や事務作業をこなしています。子育て中なら、自分の子どもの入学式や卒業式が勤務先と重なり、我が子の晴れ舞台を見られないこともある。子どもの成長を支えることには大きなやりがいがありますが、その上で確かな労働環境の改善が必要だと思います」

 教師という仕事に誇りややりがいを感じる人が、無理なく働き続けられるためには、何が必要なのか。深刻化する教員不足解決のため、即効性のある対応が求められている。

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