ブル中野、ダンプ松本を「倒すべきだった」 今の“悪役”女子レスラーに本音吐露「うらやましい」

過日、女子プロレス界の“女帝”ブル中野に話を聞いた。現役時代はダンプ松本率いる「極悪同盟」で、文字通りブルファイトを展開し、ダンプ引退後は日本のみならず、世界の女子プロレス界をけん引し、2024年には世界最大のプロレス団体WWEの殿堂入りも果たした。

2024年にはWWEの殿堂入りを果たした“女帝”ブル中野
2024年にはWWEの殿堂入りを果たした“女帝”ブル中野

「怪我をしても病院には行けない」“全女”の恐るべき常識

 過日、女子プロレス界の“女帝”ブル中野に話を聞いた。現役時代はダンプ松本率いる「極悪同盟」で、文字通りブルファイトを展開し、ダンプ引退後は日本のみならず、世界の女子プロレス界をけん引し、2024年には世界最大のプロレス団体WWEの殿堂入りも果たした。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 まず、ブルが女子プロレスラーとして現役時代の大半を過ごした全日本女子プロレス(“全女”)時代の話を振り返ると、令和の時代では考えられない常識が存在した。

「怪我をしても病院には行けない」

 にわかに信じがたい話ながら、詳しく聞いていくと、ブルは以下のように答えた。

「(骨が)折れたら行けるって感じでしたね。だから折れたらラッキーで、ヒビが一番痛いんですけど、ヒビだと(病院に)行けないから、折れてくれちゃえばよかったのにって。でも、折れたって(試合を)やらされる時はやらされるし。今みたいにカッコいい、ウエットスーツみたいなの(素材)でつくっているサポーターみたいなのもなかったから、全身サラシなんですね。サラシで締め付けて、痛くないようにするだけなので、みんなサラシを持ってましたよね」

 しかしたとえ骨が折れたとしても、場合によっては試合に出される場合がある。

「これもよく言っているんですけど、新人の時に足の甲を骨折した時に病院に行って、ヒザから下に石膏を巻いて帰ってきた時に、会社の社長とかがみんなで『何やっているんだ? こんなことしたら動かなくなっちゃうじゃないか』って」

 結局、その時は「トンカチで石膏を割られて、『これだったら試合できるだろ』って試合をしました」とブルは笑いながら語ったかと思うと、「変なふうにくっ付きましたけど」と続けた。

“全女”の常識、恐るべし。ちなみに2024年に話題になったNetflixの『極悪女王』では、無類の悪者ぶりが際立っていたが、令和の今、ああいった強烈な個性を持った“悪役”を誕生させるのは難しいことなのか。もしくは時代が求めていないということなのか……。

「昔みたいなスパルタ的なことをしないと、ああいう風貌は出ないってことですよね。(極悪同盟は)化粧してこういうキャラにしなさいってできたキャラじゃないから。ホントに憎しみがあって、『この世界を変えてやる!』って思っているような。『私が正義なんだ!』って思わないと、あのキャラにはならないので。だから空き家なんです、ずっと」

 実は昨夏、“暴走女王”堀田祐美子の自叙伝『未完の大器』(ワニブックス刊)が出版されたが、そのなかにも“全女”に関する信じられない「伝説」が数多く散見されていた。

 そして、そこにあった、以下の文言が非常に気になった。

「本来であれば、プロレスラーとしてあの先輩を超えたい! 倒して私の時代を築きたい! と思うのだろうが、先輩の“圧”は半端ではなかったし、もしそんなところに踏み込めば、先輩たちの目の色が変わって、『お前ごときに負けないよ』というエネルギーを浴び続けることになったに違いない。しかし、たとえそれが厚過ぎる壁だったとしても、それをぶち破れないまでも、引き下がるか挑むかで、周囲の評価は180度違っていく。他人に何を言われようと、何をされようと屈しない“根性”がなければ……。しかしながら、それはその後、いろいろな経験をしてきたからこそわかること。その頃の自分は、それを許容する器がなかったのだと思う」

 これは要約すると、先輩であるクラッシュギャルズに立ち向かっていけなかった堀田の反省の弁なのだと思う。

 実際、クラッシュの引退以降、女子プロレス界は停滞というか凪の状態に入った。いや、それはそこまでの異常さに比べれば、という意味であって、決して停滞したわけではないが、クラッシュより下の世代がクラッシュに挑めなかったために起こった現象だったのだろう。

堀田祐美子の自叙伝『未完の大器』【写真:ワニブックス】
堀田祐美子の自叙伝『未完の大器』【写真:ワニブックス】

“打倒クラッシュギャルズ”は考えなかったのか

 そこでブルに問いたかった。ブルは“打倒クラッシュ”を考えなかったのか。この問いに、ブルは半ば“分かってねえな”とばかりにこう答えた。

「私がやるべきはダンプ松本さんを倒すことですよね。全く違いますよね、その部分では。クラッシュはベビーフェイスの敵だけであって、ダンプさんを超えられたらすごいチャンピオンになれたと思うんですけど、あの時の停滞した理由は、私が(ダンプを)超えずにチャンピオンになったことですよね」

 さらに、「なんの自信もないまま。ただ単に年齢が上に行って、上の方が辞めた後に上になったトップ、でしたね。だから停滞していた時の原因はすべて私でしたね。私が赤いベルト(“全女”の最高峰だったWWWA世界シングル王座のベルト)を持っているから」と続けた。

 だとするならば、ダンプを倒そうと思わなかったのか。

「(倒そうという気に)なっていましたよ、ずっと。でも全然届かなかったし、そこまでも行かれなかったですね。チャンスはあったと思います。でも、そこまでの実力がなかった。ただ、ダンプさんがいる時に私なりの闘い方をやっていたし、それをダンプさんが黙認してやらせてくれていたっていうこともすごくありましたね」

 一説によるとブルは、いつしかダンプの凶器攻撃に追随せず、凶器を使わずに極悪同盟での活動を続けていたという。

 続けてブルは「今の若い人たちがホントに悪い人のフリをして、悪いことを積み重ねていって、ホントにそのキャラクターになれた時に、昔とは違う“悪役”(になる)でしょうね。カッコよくて怖くて憎らしい、面白いキャラになるんじゃないですかね」と証言した。それがブルの考える、新時代の“極悪”になる。

 その上でブルは、自分の現役時代と今の女子プロレス界を見わたしながらこう語っている。

「(今の選手は)みんなキレイで若くてうらやましい。すごくプロレスを楽しんでいるなあっていうのがわかるから。私はプロレスは楽しむものだと思っていなかったので。ツラくて苦しくて……っていうものだと思っていたので。全く考え方は違うし、そのなかでもしプロレスができたら、もっと幸せだったかなあとか、いろいろ考えますね」

(一部敬称略)

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