「筋トレなんてもうしたくない」 アイドル志望だった渡辺未詩がムッキムキのプロレスラーになるまで

プロレスを詳しくない人でも知っている技といえばいくつかあるが、その中でもかなりの知名度がある技といえばジャイアントスイングだろう。仰向けの相手の両足を、両脇で抱えて振り回す……相当なパワーが必要なこの技は、場内を一気に盛り上げる。今、女子プロレスラーでこの大技の使い手ナンバーワンとの呼び声が高いのが、渡辺未詩だ。アップアップガールズ(プロレス)の一員として、アイドルとして、レスラーとして活動し”むきむきぴんく”の異名を取る彼女だが、実は筋肉がつき過ぎることへのコンプレックスを持っていた。

アイドルなのに凄まじいパワーの渡辺未詩【写真:東京女子プロレス提供】
アイドルなのに凄まじいパワーの渡辺未詩【写真:東京女子プロレス提供】

アイドルになりたい気持ちが先行、プロレスを全く知らずオーディションを受ける

 プロレスを詳しくない人でも知っている技といえばいくつかあるが、その中でもかなりの知名度がある技といえばジャイアントスイングだろう。仰向けの相手の両足を、両脇で抱えて振り回す……相当なパワーが必要なこの技は、場内を一気に盛り上げる。今、女子プロレスラーでこの大技の使い手ナンバーワンとの呼び声が高いのが、渡辺未詩だ。アップアップガールズ(プロレス)の一員として、アイドルとして、レスラーとして活動し”むきむきぴんく”の異名を取る彼女だが、実は筋肉がつき過ぎることへのコンプレックスを持っていた。(取材・文=橋場了吾)

 渡辺は物心がついたときからのアイドル好き。その渡辺がアップアップガールズ(プロレス)のオーディションに合格したのは2017年8月のこと。高校3年生の夏、進路を決めるタイミングのことだった。

「まずアップアップガールズ(仮)というグループがあって、アップアップガールズ(2)という王道アイドルのグループができたのですが、その半年後にプロレスもやるオーディションの募集があって。私はプロレスのことは全然わからなかったんですけど、(仮)姉さんよりもさらにアスリート系のアイドルくらいのイメージで受けてみたんです。(プロレス)の部分は見て見ぬふりでしたね(笑)。ずっとアイドルになりたいって思う気持ちはあって、いくつかオーディションを受けてみたんですがうまくいかなくて。候補生になったときも、コンプレックスがあったんです。それが肩幅の広さだったり、筋肉がつき過ぎていることだったり。もしかしたら、今自分がコンプレックスに感じている筋肉だったり骨太な体格だったりを克服できるかもという希望がありました」

 当時の渡辺はプロレスのプの字も知らない状態。有名選手も、東京女子も、何も知らなかった。

「ただアイドル好きだったので、ももクロさん(ももいろクローバーZ)がプロレスを取り入れた演出があるというのは知っていたので、そういう感じなのかなと思っていました。あと、唯一プロレス関係で知っていたのが、それこそあのめちゃいけ(フジテレビの番組『めちゃ×2イケてるッ!』)の加藤浩次さんのジャイアントスイングでした。今思い返してみれば、AKB48さんが回されていたあの技が今の自分の代名詞なんですよね」

 中学・高校とソフトボールをしていた渡辺。「一般的な部活みたいな感じ」と本人は言うが、周囲からはそのパワーは一目置かれていたのだろうか。

「ポジションは外野を守ることが多かったのですが、今のプロレスへの向き合い方ほど本当の意味でのめり込んではいなかったんですよね。周りからもパワーに気づかれることもなく(笑)。私がソフトボールを始めたのも、前田敦子さんが主演の映画『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の影響なので(笑)」

女子プロ屈指のパワーファイターに成長した【写真:橋場了吾】
女子プロ屈指のパワーファイターに成長した【写真:橋場了吾】

デビューが決まってからも悩み続けた「筋肉コンプレックス」

 渡辺がプロレスデビューを果たしたのは2018年1月4日、東京女子プロレスの後楽園ホール大会。プロレスの練習を始めて、わずか4か月でリングに立ったのだ。

「まずメンバーに本合格してから、すぐにアイドルデビューをしているんですよ。で、9月からは1月4日のデビュー戦に向けて、ほとんどプロレス漬けになりました。11月くらいにはまた筋肉がついてきてしまって、今辞めれば普通の女の子に戻れるかもしれないと思って(笑)、デビュー前は(続けるかどうか)ずっと悩んでいました」

 今でこそ「渡辺未詩=むきむきぴんく」のイメージだが、当時は筋肉がつき過ぎることに対し、コンプレックスしか持っていなかった。

「6年前はアイドルになりたいという一心でしたから、筋トレなんてもうしたくないわけですよ(笑)。でも、プロレスの練習では筋肉をつけるような内容の練習が多くて、本当に嫌で嫌でしょうがなかったですね。でもデビュー前に辞めたかった時期をクリアして、なんだかんだでデビューしちゃって……そこで逃げなかったことは大きかったと思います。ただ、アイドルとしてプロレスにのめりこめる環境があることにありがたいという気持ちがある一方、プロレスラーとして何を目指せばいいのかも分からなかったんです。思い描いていたアイドル像とも違うわけで」

 芸能人として有名になってからプロレスを始めるケースは少なくないが、アイドルとプロレスラーをデビューから同時進行するケースはほぼない。

「まだアイドルとしても未知数な状態で、プロレスラーとしても当然ながら未知数な状態で走り出しちゃったってことです。どうしたらいいのかわからない期間が長らく続いて……そんな中、デビューして半年後の6月にアップアップガールズと東京女子のコラボ興行があって、アップアップガールズ(仮)さんがライブするほか、(プロレス)のメンバー全員が先輩とのシングルマッチで戦うことになりました。その大会で、私は山下(実優)さんと戦ったんです」

 当時の山下は2度目のプリンセス・オブ・プリンセス王座を獲得して、絶対王者として着実に防衛戦を続けていたタイミングだ。

「山下さんと戦ってみて、絶対的な強さを感じました。試合前に会見があったんですが、そのときに今のパートナーのリカさん(辰巳リカ=渡辺とは『白昼夢』というタッグチームを組んでいる)が、『(プロレス)のメンバーは、アイドルもプロレスもできるありがたい環境なのに、現状それを生かしきれているとは思えない』というコメントをしていて、山下さんも『もっともっと来てほしい』というようなコメントをしていて……それがすごく悔しくて。それまで抱えていた悩みは、山下さんと戦って吹っ飛んでいきました」

(29日公開の後編へ続く)

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