17歳愛犬が海へ転落→見知らぬ男性が飛び込む…命は救えずも“恩人捜し”「悲しみの中にも人の温かさ」

「プクー! プクー!」──。大分・豊後高田市の貴船漁港に、愛犬の名前を呼ぶ義母の声が響いた。海へ転落していたのは、17歳の愛犬。居合わせた見知らぬ男性は服を脱ぐと、とっさに海へ飛び込んだ。愛犬は海から救い上げられたが、命を救うことはできなかった。突然の出来事に動揺した義母は、男性の名前を聞くこともできず、家族は翌日、SNSで情報提供を呼びかけた。投稿は瞬く間に拡散され、目撃者からも連絡が寄せられた。家族は名前も分からない男性を捜し続けている。当時の状況や、どうしても伝えたい思いについて投稿者に詳しく聞いた。

17年間、投稿者一家とともに過ごしたトイプードルのプクーちゃん【写真:本人提供】
17年間、投稿者一家とともに過ごしたトイプードルのプクーちゃん【写真:本人提供】

「ぬいぐるみのようでした」3人の子どもと育った17歳の愛犬

「プクー! プクー!」──。大分・豊後高田市の貴船漁港に、愛犬の名前を呼ぶ義母の声が響いた。海へ転落していたのは、17歳の愛犬。居合わせた見知らぬ男性は服を脱ぐと、とっさに海へ飛び込んだ。愛犬は海から救い上げられたが、命を救うことはできなかった。突然の出来事に動揺した義母は、男性の名前を聞くこともできず、家族は翌日、SNSで情報提供を呼びかけた。投稿は瞬く間に拡散され、目撃者からも連絡が寄せられた。家族は名前も分からない男性を捜し続けている。当時の状況や、どうしても伝えたい思いについて投稿者に詳しく聞いた。

「小さい頃はいたずら好きの甘えん坊でした。本当に顔がかわいくて、ぬいぐるみのようでした」

 愛犬の名前はプクーちゃん。2009年8月15日生まれのトイプードルで、同年10月、投稿者一家のもとへやって来た。

 当時9歳、7歳、5歳だった3人の子どもたちは、以前から犬を飼いたがっていた。一家では、長男がスイミングスクールのテストに合格したら犬を迎えるという約束をしていたという。

 ペットショップにはプクーちゃんのきょうだいが何匹もいたが、長女が一目ぼれ。そのまま家族に迎え入れた。

 2011年、自宅のリフォーム工事中に、向かいに暮らす義父母の家で約3か月間を過ごした。そこで2人にすっかり懐き、工事が終わった後もすぐに義父母のもとへ行くようになったという。

 投稿者一家が出かける際に預けることも多く、いつしか「母屋の住人」に。義父に散歩へ連れて行ってもらい、時には義父母とドライブへ出かけるなど、穏やかな日々を過ごした。

 中でも、義母にはべったりだった。

「トイレまでついていってました」

 3年前に義父が脳梗塞で倒れ、施設へ入所してからは、さらに義母と過ごす時間が増えた。

 一方、プクーちゃんにも老いが表れていた。目が見えにくくなって家の壁にぶつかったり、耳が聞こえにくくなったり、食欲が落ちたりすることもあったという。

 義母も運転免許を返納していたため、以前のように車で海岸まで散歩へ行くことは難しくなっていた。8月22日は、シニアカーでも行ける大分・豊後高田市の貴船漁港へ、プクーちゃんをかごに乗せて向かった。

 そこで、思いもよらない事故が起きた。

プクーちゃんは年齢を重ね、目が見えにくくなるなど老いも表れていたという【写真:本人提供】
プクーちゃんは年齢を重ね、目が見えにくくなるなど老いも表れていたという【写真:本人提供】

「プクー! プクー!」港に響いた叫び 見知らぬ男性が海へ

「通りすがりの方が上の服を脱いで、海へ飛び込み救い上げてくださいました」

 事故が起きたのは午後4時頃。投稿者はその場におらず、当時の状況は義母から聞いたものだ。

 港でかごから降ろした際、目が見えにくくなっていたプクーちゃんが段差を認識できず、海へ転落した可能性があるという。

「プクー! プクー!」

 義母が愛犬の名前を呼びながら助けを求めていると、居合わせた男性が上の服を脱ぎ、そのまま海へ飛び込んだ。そして、プクーちゃんを海から救い上げた。

 その後、SNSで情報提供を呼びかけた投稿者のもとには、現場に居合わせた人物からも連絡が寄せられた。

 目撃者が現場に到着した時には、すでにプクーちゃんは海へ落ち、義母が助けを求めていた。救助に使える網を探しに向かったものの、その間に男性が飛び込み、プクーちゃんを救い上げていたという。

 救助後、義母は友人に頼み、プクーちゃんを動物病院へ連れて行った。しかし、命を救うことはできなかった。

「ばーちゃんは悪くない」離れて暮らす子どもたちがかけた言葉

「一刻も早く家に帰りたかったのに、家が近づくと怖くて怖くて。会うまでプクーちゃんが死んだなんて信じられませんでした」

 その頃、投稿者夫婦は用事のため福岡に到着したばかりだった。知らせを受けると、用事を済ませてすぐに帰路についた。

「その時の状況を想像すると胸がはち切れそうで。主人と道中、ほぼ無言で帰りました」

 午後9時頃に自宅へ到着すると、義母がプクーちゃんをお腹の上に乗せ、抱きかかえていた。

「海に落ちたのに毛はふわふわで、眠っているだけのようでした」

 義母は泣きながら、「自分が悪い」と繰り返していた。投稿者にも「なぜ海なんかに連れて行ったのか」と、義母を責めたい気持ちがあったという。

 その夜、東京や大阪で暮らす3人の子どもたちとグループ通話をつないだ。そこで返ってきたのは、義母を責める言葉ではなかった。

「ばーちゃんは悪くない。ばーちゃんがいちばんつらいんやから。今までプクーちゃんのお世話をしてくれてありがとう」

 その言葉に、投稿者夫婦はハッとした。

「その通りだなと。そして、こんな優しい子どもたちに育ってくれたのはプクーちゃんのおかげだねって、主人が号泣しました」

「ありがとうでは伝えきれない」名前も聞けなかった恩人をSNSで捜索

 男性の行動は、プクーちゃんの命を救うことにはつながらなかった。それでも、家族が愛犬と対面し、別れを告げることができたのは、男性が海から救い上げてくれたからだった。「その方が救ってくれなければ海に沈んでしまっていて、こんなふうにお別れもできなくて、もっと悲しみは深かったと思います」。

 見ず知らずの犬のため、とっさに海へ飛び込んだ男性。投稿者はその勇気への感謝と同時に、男性自身が無事だったことにも思いを巡らせた。

「他人のために、とっさに飛び込むことができるでしょうか。また、その方が無事だったからよかったものの、もし何かあったらどんなことになっていただろうと想像すると、いてもたってもいられませんでした」

 しかし、突然の出来事に義母は動揺し、男性の名前すら聞くことができなかった。

 どうにかして感謝を伝えたい。投稿者はSNSで人を捜すことに抵抗を感じながらも、事故翌日の8月23日、情報提供を呼びかけた。

 SNSを通じて人が見つかった例を何度も目にしていたことから、「今回はこれしかない」と考えたという。

 投稿は瞬く間に拡散され、救助にあたった男性には「素晴らしく正義感溢れる方」「尊敬します」など称賛の声が寄せられた。一方で、愛犬を連れて行った状況などを巡り、家族に対する厳しい声も寄せられた。

 それでも、投稿をきっかけに状況は動いた。現場に居合わせた目撃者から詳しい様子を聞くことができ、漁業組合の事務所を訪ねると、事務員もSNSの投稿を目にしていた。

 男性が再び釣りなどで現場を訪れる可能性もあるとして、張り紙の掲示を了承してもらった。現在は漁港に張り紙を出し、男性につながる情報を待っている。

 もし、男性と再会できたら――。

「ありがとうなんて言葉では伝えきれません。とにかく感謝の気持ちを伝えたいです。悲しみの中にも人の温かさを感じ、私たち家族がどれほど救われたか、お礼を言いたいです」

 一方で、投稿者は、家族にも反省すべき点があったと受け止めている。

「私たちにも反省するべきことがたくさんあります。ペットは家族です。命を守る責任があります。失った家族は戻りませんし、プクーちゃんにとって苦しい最後にさせてしまったことを、本当に申し訳なく思います」

 投稿を拡散し、男性捜しに協力してくれた人たちへの感謝も忘れない。

「悲しみの中にも人の温かさを感じられたのは、プクーちゃんのおかげでした」

 17年間、家族とともに歩んできたプクーちゃん。その最後に差し伸べられた見知らぬ男性の手に、家族は今も感謝を伝えたいと願っている。

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