「10年後はなりたかった自分に」 苦悩した過去乗り越えたトランスジェンダーレスラーが目指す究極の姿

エチカ・ミヤビは、トランスジェンダープロレスラーとしてPPP TOKYOでデビューした。今は長与千種率いるマーベラスにも定期的に参戦し、活躍の場をどんどん広げている。そのミヤビへのインタビュー後編では、目指している女子プロレスラー像について聞いた。

 充実度と恐怖の両方を語ったエチカ・ミヤビ【写真:橋場了吾】
充実度と恐怖の両方を語ったエチカ・ミヤビ【写真:橋場了吾】

いつ試合ができなくなるか、どの試合もミスができないというプレッシャーと戦っている

 エチカ・ミヤビは、トランスジェンダープロレスラーとしてPPP TOKYOでデビューした。今は長与千種率いるマーベラスにも定期的に参戦し、活躍の場をどんどん広げている。そのミヤビへのインタビュー後編では、目指している女子プロレスラー像について聞いた。(取材・文=橋場了吾)

 2022年9月、エチカ・ミヤビはPPP TOKYOのリングでデビューした。

「大人になってから、こんなにきついことをやるとは思っていなかったですね……回転受け身は綺麗にできましたけど、プロレスの後ろ受け身は怖かったです。『動けるね』と言われても、プロレスに順応するのは難しかったですね。自分で『動けるようになったかな』と思えるのは、去年の秋くらいですよ。デビューして3年経って、マーベラスに上がるようになってからですかね、ようやく人並みに動けるようになったかなと。

 ただ私の目線でいったら、綱渡りですね。いつ試合ができなくなるかも、ということばかり考えてしまいます。今はPPPのほか、マーベラスやアイスリボン系の試合に出ていますけど、いつFireされるかわからないですから……その不安はずっとあって、どの試合でもミスはできないというか、自分に対するプレッシャーになっていますね。自分の試合の映像を見返したときに、私はもっとできなきゃいけないし、上を目指さなきゃいけないというストレスとずっと戦っている感じです」

 筆者が印象に残っているシーンがある。2025年2月、マリーゴールドの新宿FACE大会にちゃんよたが参戦、そのセコンドとしてミヤビも帯同していた。セコンド業務が終わった後も、鋭い目つきでメインの試合を会場の隅で見ていたミヤビは、試合後にマリーゴールドの若手に改めて頭を下げてあいさつをしていた。

「(あの日は)悔しかったですね。当時、ちゃんよたはマリーゴールドにレギュラーで出るようになって、大きい団体で外部から参戦してレギュラーでやっている選手がいることが悔しかったんです。ちゃんよたはそのあともシングルのリーグ戦に出ていますし、ほかの選手も含めてどういう気持ちでこのリングで戦っているのかなって。そう思うと、自分が情けなくなると同時に悔しかったですね。私は、結構嫉妬するタイプなんです。ちゃんよたと一緒に出るオファーが来たら、全部奪ってやるくらいの気持ちです。ちゃんよたが嫌いなわけではなくて(笑)、自分が売れて上に行くことも重要だと思うので」

ちゃんよたとの王座戦には敗れたが…【写真:(C)PPPTOKYO】
ちゃんよたとの王座戦には敗れたが…【写真:(C)PPPTOKYO】

「10年経ってみたら、なりたかった自分になっているよ」

 5.26新宿FACE大会。PPP初の女子王座であるVENUS OF PARTY初代王座決定戦が、ミヤビとちゃんよたの間で争われた。結果、初代王者に輝いたのはちゃんよただった。

「この日も悔しかったですね。ちゃんよたの方が人生が詰まっていた試合だったというか、ちゃんよたが歩んできたそのものだったというか。いろいろな人生観がリングに出ていて、その経験が彼女のプロレスを助けているんだなと。その人生の厚みに負けたような気がします。(試合前の)会見でも言ったんですが、ただ純粋に強いか弱いかよりも、PPPという人生を吐露するようなリングでは、その人生の強さが出るんじゃないかなと。技術的には私の方がうまかったかもしれないけど(笑)、彼女がネームバリューだけでぽんとスターダムに出たころから見ているので。

 その反面、マットプロレスだったりお客さんが全然いない場所だったり、どんなプロレスでも経験してきた私もプロレスの技術は上がったと思うので、PPPのリングという人生の厚みがある選手が最後は勝つという磁場で、私は負けたのかなと思いましたね。PPPは“スピンオフ”みたいな感覚があって、エチカ・ミヤビだけでなく、素の私が出て試合をしているような感覚もあって。不思議なことに、PPPでは素の本当の私を出した方が戦えるんでしょうね」

 時間軸は前後するが、5.5横浜BUNTAI大会で行われたマリーゴールドのビッグマッチに参戦。ミヤビは永島千佳世&山下りな&VENYと組み、マーシャ・スラモビッチ&クイーン・アミナタ&ジェシー・ジャクソン&ジョニー・ロビー組という大型外国人カルテットとハードコアルールで対戦。金属バットを振り回し、説得力抜群のチョップで館内を大いに沸かせた。

「ハードコア、楽しかったですね。マーベラスに出るというのは、女子プロレスラーとしてデビューしたなという感覚になれるんですよね。もちろん、デビューさせてくれていろいろな経験を積ませてもらったのはPPPなんですけど、特殊な場所というかずっとパーティーなので(笑)。マーベラスのお客さんのプロレスに対するシビアな目だったり、ピリピリした控室の緊張感だったり……PPPでもバチバチの試合はありますけど、マーベラスは全部がプロレスというか。そして、大先輩と組んでドキドキしながら試合をするのも嬉しいですね、女子プロレスしているなあって。その中で目立つためには、金属バットでお客さんを引かせてやろうと(笑)。

 素振りしたときのお客さんの悲鳴で、やったなと思いました。あと137キロを出せる選手が振りかぶってチョップを打つって、説得力があるじゃないですか。野球少年時代は自分があまり好きではなかったんですけど、今の自分を作り上げた一部でありつながっているという部分で、思い入れのある技なんです。今は、かつての自分を昔ほど憎んでいないんですよ。『なんでこういう風に生まれちゃったんだろう』というクヨクヨしていた過去の自分に言いたいことは、『10年経ってみたら、なりたかった自分になっているよ』と。今はポジティブに、楽しくやっているってことですね」

 そのマーベラスのエース・彩羽匠が、ミヤビにとってのプロレスラーのモデルケースだという。

「匠さんにはずっと憧れていて、初めて匠さんの試合を見たときには震えましたね。いい意味で女子プロレスっぽくない部分もあるんですけど、やっぱり女子プロレスなんですよね。華やかさもあり、しなやかさもあり、そして強さもある。そしてイケメンなのにかわいい部分もある。全部ファン目線ですけど、こんなカッコいい選手がいるんだと。動きのロールモデルというか、姿勢のロールモデルとして彩羽匠がいるという感じですね」

 さらにミヤビが目標としている姿がある。

「もっと上に行きたい、海外に行きたい、という目標もありますけど、『この人なら何でもできる、どんな場面でも任せられる』という信頼感のある選手になりたいですね。オールマイティーなプロレス力というか、広告塔としての役割も、技術的な部分も、キャラクターも、グラフにしたら全部満点を取れる選手……プライベートはともかく(笑)、そういう選手がスターだと思うんですよね」

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