【週末は女子プロレス♯131】腎不全の姉助けるためドナーに 手術中止の危機乗り越えた春日萌花の今「早くリングに」

腎不全を患う3歳上の姉を救いたいと自らがドナーとなり、生体腎提供手術を決断、ガンバレ☆プロレスの6・3高島平を最後にプロレス活動を休止している春日萌花。いまでは手術も無事に終え、姉妹とも経過は良好、春日はリング復帰を目指して動き始めている。

手術を終えリング復帰に向けて動き始めている春日萌花【写真:本人提供】
手術を終えリング復帰に向けて動き始めている春日萌花【写真:本人提供】

姉のドナーとなり移植手術を受ける決断も…思わぬハプニング

 腎不全を患う3歳上の姉を救いたいと自らがドナーとなり、生体腎提供手術を決断、ガンバレ☆プロレスの6・3高島平を最後にプロレス活動を休止している春日萌花。いまでは手術も無事に終え、姉妹とも経過は良好、春日はリング復帰を目指して動き始めている。

 とはいえ、すべてがスムーズに運んだわけではない。思わぬハプニングにも見舞われた。一時は手術自体が中止というピンチに陥ったのである。

「手術の予定日が6月20日で、ドナーの私は予定通り前日に病院に入りました。そこで採血や検尿などの検査をおこなったのですが、腎機能の数値が通常の半分以下になっているとのことで、手術自体が中止になってしまったんです」

 延期ではなく、手術の中止だった。健康なはずの春日に問題が発覚。しかも、提供する腎臓そのものに異常が見つかったのだ。春日がドナーになれたのも健康だったから。しかし、問題があれば、健康ではない臓器を移植するわけにはいかないのである。

「こういう検査には一度も引っかかったこともなかったので、もう目の前が真っ暗になってしまいましたね。お医者さんもビックリしたと思います。手術当日、姉と2人で個室に呼ばれまして、あらためてお医者さんから説明を受けました。お医者さんが書面を読むんですよ。中止はおろか、もしかしたらドナーにもなれないかもしれないと……」

 ドナーになれなければ、すべてが白紙となる。姉に腎臓提供できる人をもう一度探し直さなければならない。

「もう、いろんな人に申し訳なくて……」と春日。ならば、腎機能が低下してしまった原因はなんなのか。原因が分かり改善できれば手術ができるかもしれない。医師とともに、原因を探っていく作業が始まった。

「そこからいろいろ検査が始まりました。結論が出たのは手術予定日の2か月くらい先です。その結果、風邪による脱水か、薬の飲みすぎではないかということを聞きました」

 確かに、思い当たる節はあった。5月下旬から6月なかばにかけて、春日は風邪をひいていたという。新型コロナウイルスやインフルエンザならプロレスやラジオの仕事を休まなければならない。検査したところ、どちらも陰性で一安心。しかし、風邪の症状が長引き、手術予定日も咳が出る状態だったという。

「手術でお休みをいただく前の仕事をなんとか頑張ろうと思って、痛み止めや風邪薬を多く服用してしまったんだと思います。それに、風邪をひくと脱水にもなってしまうそうなんですよ」

インタビューに応じた春日萌花【写真:新井宏】
インタビューに応じた春日萌花【写真:新井宏】

全身麻酔の効果に「ビックリしました」

 結果的には一時的な数値のダウンとの判断がくだり、再び移植手術への準備が始まった。腎臓内科、泌尿器科の医師が会議をし、10月の手術が目標となった。その後しばらくして、9月に可能との連絡が入り、9月18日に手術がおこなわれる運びとなったのだ。

「前日の検査がドキドキでした。またダメだったらどうしようって。でも幸い問題なくて、予定通りできるとなりました。当日は、朝8時半に病室を出て、看護師さんに連れられて手術室まで歩いていくんです。そのとき、別の部屋にいたお姉ちゃんと旦那さんが『行ってらっしゃい』と見送ってくれて。お姉ちゃんは(腎臓を)もらう方なので、あとから手術室に入るんですね」

 手術室では、“別世界”が広がっていた。「自分のためだけにすごくたくさんの方が準備して待っていてくれるんですよ。そこに感動しちゃって。プロレスラーだったら絶対寝てる時間じゃないですか(笑)」と春日。個人データや手術箇所を再確認し、点滴と麻酔が打たれた。

「点滴は問題なかったんですけど、背骨のところに打った麻酔がメチャクチャ痛くて、泣いてしまいました。そのとき、手術チームのお母さん的存在の看護師さんが優しく声をかけて背中をトントン叩いてくれて。そうこうしているうちにだんだん麻酔が効いてきて、身体がフワフワしてきました。でも私、アタマはクリアだったので、最後の最後までしゃべってたんですよ。ホントは『お姉ちゃんをよろしくお願いします』と言いたかったんだけど、そこまで言うといい人すぎじゃないかと思って、『よろしくお願いします』だけにしました(笑)。

 そのすぐあとで『終わりましたよ!』っていうハイテンションな声が聞こえてきたんです。いま何時ですかと聞いたら、2時半ですと。『よろしくお願いします』から5時間くらい経ってたんですよね。全身麻酔は意識なくなったのも分からないくらい急に終わるよって言われてて、そんなことないだろと思ってたんですけど、ホントにその話の通りでビックリしました」

「勇気を振り絞ってリングに立つことが目標」と胸中を明かした【写真:本人提供】
「勇気を振り絞ってリングに立つことが目標」と胸中を明かした【写真:本人提供】

復帰に不安も「勇気を振り絞ってリングに立つことが目標」

 そして、その後おこなわれた姉の手術も当日中に無事終了。その後、回数こそ異なるが双方とも定期検診に通っており、ともに経過は順調とのことだ。春日のプロレス復帰はもう少し先になりそうだが、パーソナリティーをつとめるラジオ番組は1週休んだだけで通常営業。FM NACK5の「FANTASY RADIO」は、2015年から春日が手掛けている土曜深夜の長寿番組だ(25時30分~28時45分)。

「手術の翌週から復帰したんですけど、しゃべるのって腹筋を使うので、さすがに傷のあとが痛くて影響がありましたね」

 彼女にとってこの番組はプロレスと並ぶライフワークと言っていいのだろう。4月の会見における腎移植発表以後、ラジオでも臓器移植の話題を取り上げるようになった。これにより、プロレス会場やイベントなどにリスナーが訪れ、情報交換ができる場にもなった。今回の手術でも、リスナーから得たアドバイスが大きな参考になった。さらに春日は、この期間中にヘアドネーションで自身の髪の毛を寄付に出したという。

「骨髄ドナーをはじめ、ドネーションにもいろんな形があるんですよね。私は6月に一度手術が中止になったときに、ヘアドネーションに協力しようと髪の毛を切って寄付しました。髪を寄付してカツラにしてもらうんです。もともと髪が長かったのは、プロレスラー春日萌花に必要だったから。キャラクターとしてのものだったのでプロレスを休んでいる間、誰かの役に立てるなら長くなくてもいいかなと思ったんです」

 長い髪はコスチュームの一部。ショートヘアで過ごしていた春日だが、徐々にプロレス復帰に向けて動き始めた。まだ傷口部分に痛みがあるものの、すでにランニングを始めているという。

「手術後2週間くらいして、運動はまだかなとお姉ちゃんに言ったら、『私、もうジムいってるよ』って。どんだけ元気なんだよって(笑)。負けてられないなって、感化されましたね」

 最近は欠場前に出ていた団体で売店に立ったりセコンドについたりしている春日。YMZでコスプレをプロデュースし、リングアナウンサーにもトライしている。早くリングに上がりたいと思うと同時に、この輪に入っていけるのかという不安もある。

「みんなの試合を見るうちに、戻れるかなっていう不安がどんどん大きくなりますね。見るたびに、あんな痛い技をよく受けるなと思っちゃって(笑)。プロレスラーとして勇気を振り絞ってリングに立つことが、いまの目標です!」

「あんな技をよく受けられるな」「もう私にはできない」というのは、引退したレスラーの“あるある”でもある。しかし、春日にはカムバックへの高いモチベーションがあり、「よく受けるな」とは思っても、「もうできない」とは考えていない。焦らず急がず、いまは春日がリングで再び闘う日を楽しみに待ちたい。「人に必要とされたくてプロレスラーになった」春日。プロレスやラジオを通じて臓器移植の経験を伝えていく役割が、彼女にはあるのだ。

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