YOASOBI、米津玄師…日本のアーティストは世界でメガヒットを生めるか チャート開発者が語る音楽の未来像

米国の音楽チャート『ビルボード』日本版のビルボードジャパンが9月14日、『日本の楽曲が世界でどんな風に聴かれているか』を可視化する2つのチャート(「Global Japan Songs Excl. Japan」「Japan Songs」)を新たに公開した。YOASOBIの『アイドル』をはじめ、国内のヒット曲は海外でも多くの人々に聴かれていることが分かり、国ごとに“好み”が分かれることも判明した。そこから見えてくる音楽の面白さとは。両チャートを開発した株式会社阪神コンテンツリンクの礒崎誠二氏に話を聞いた。

ヒットチャートから見る日本の音楽の未来とは?【写真:(C)Billboard JAPAN】
ヒットチャートから見る日本の音楽の未来とは?【写真:(C)Billboard JAPAN】

ビルボードジャパン、世界で聴かれている日本の音楽を可視化

 米国の音楽チャート『ビルボード』日本版のビルボードジャパンが9月14日、『日本の楽曲が世界でどんな風に聴かれているか』を可視化する2つのチャート(「Global Japan Songs Excl. Japan」「Japan Songs」)を新たに公開した。YOASOBIの『アイドル』をはじめ、国内のヒット曲は海外でも多くの人々に聴かれていることが分かり、国ごとに“好み”が分かれることも判明した。そこから見えてくる音楽の面白さとは。両チャートを開発した株式会社阪神コンテンツリンクの礒崎誠二氏に話を聞いた。(取材・文=福嶋剛)

「世界の人たちが日本の楽曲をどのように聴いているのか」。礒崎氏の個人的興味からグローバルチャート作りが始まった。

「国内でサブスクリプション型音楽配信サービス(=サブスク)が本格的に始まったのが2015年くらい。さらにYouTubeやTikTokも盛り上がり、ストリーミングから世界的ヒットが次々と生まれていきました。そのタイミングで本国のビルボードが世界中でどんな曲がヒットしているのかを表す『グローバルチャート』を作ろうという流れになりました。アメリカの楽曲は世界中で聴かれているなか、グローバルチャートと言っても自国の楽曲がいくつランクインしているかという興味に留まってしまうので、『じゃあ、僕たちは国内を除いた世界の市場でどれくらい日本の音楽が聴かれているのかをランキング化してみよう』と考え、新たなチャート作りに着手しました」

 複雑な作業の道のりで、グローバルチャートの構想から完成まで約5年の歳月を要したという。

「本国の了承を得て、交渉がまとまると約25万曲の国別とグローバルのデータがそれぞれアメリカからドーンと送られてきました。そこで最初に取り掛かった作業が、『何をもって日本の曲と見なすのか』という定義付けです。例えば『日本人アーティストが海外でリリースした作品は日本の曲と見なすのか』とか、そんなさまざまな線引きをしていきながら日本の曲を抽出していきました。これらのルールで本国ビルボードに許可をもらい、ようやくリリースの運びとなりました」

「Global Japan Songs Excl. Japan」は全世界で聴かれている日本の楽曲の総合ランキングであり、それを国別にまとめたランキングが「Japan Songs」だ。ランキングを見ると、YOASOBI、King Gnu、藤井 風、米津玄師など日本のメガヒットアーティストの曲が世界でも聴かれていることが一目で分かる。一方で世界の総合チャートを見ると、日本の楽曲の大半がトップ100にも入っていないという現実もある。礒崎氏は「だからこそ、グローバルチャートが必要でした」と答えた。

「日本のチャートの最終確認者として私たちが絶対に忘れてはいけないのが、1位、2位とランキングを付けていくことへの責任です。ランキング上位だから良くて、下位だと劣っているなんてことはもちろん1度も考えたことはありません。あくまで『今聴かれている順番』であり、むしろ『ランキングされている=聴いている人がいる』ということで、実はそこが大切なポイントなんです。国別のチャート作りを進めていくとランキング結果が国によって違うことに驚きました。初めは『間違えたのかな?』と思って何度もやり直してみたのですが、結果は同じでした。韓国ではあいみょんの曲が上位にランキングされ、フランスやインドのチャートには松原みきの『真夜中のドア』(1979年)がチャートインするなど、国によって聴かれ方が異なることが初めて分かりました」

ビルボードジャパンのチャート開発者・礒﨑誠二氏【写真:(C)Billboard JAPAN】
ビルボードジャパンのチャート開発者・礒﨑誠二氏【写真:(C)Billboard JAPAN】

グローバルチャートは世界を目指すアーティストたちの戦略ツールに

 そして、礒崎氏は「グローバルチャートは、アーティストにとってもリスナーにとっても大きな発見になります」と言った。

「アーティスト側にとっては、海外に出て行かなくても動画やオーディオのストリーミング数を増やしていくことができるようになりました。グローバルチャートがその武器になれば、日本にいながら世界でチャートインするための戦略も立てやすくなると考えています。例えば藤井風の『死ぬのがいいわ』がインドでヒットしているという情報です。今まで現地まで足を運ぶかニュースで知るしかなかったのですが、『Japan Songs』のインドのチャートを見ると、『死ぬのがいいわ』が4週連続で日本の曲の中で1位、『まつり』もトップ20にチャートイン。『インドで藤井風が受けているのであれば、こっちのアーティストもインドで聴かれるんじゃないか』という参考になれば、私たちも作った甲斐があります。そこにはメジャーもインディーズも関係ありません。限られた国内シェアのいす取り合戦から世界に目を向けることで、選択肢の幅が広がることを示していると思います」

 グローバルチャートには、ボカロ出身アーティストやアニメタイアップ曲も上位にランクインしている。

「確かにアニメや動画の世界配信でヒットが生まれやすくなったと思いますが、私はYOASOBIや米津玄師をはじめ、コラボレーションに長けたボカロ出身のアーティストたちの功績が大きいのではないかと思っています。グローバルチャートを作るタイミングでボカロチャートやTikTokチャートも作ったことで、ビッグヒットではなく、メガヒットが生まれやすい土壌が日本国内にもちゃんと存在していることが可視化できました。今後は日本語、英語という歌詞の線引きすら意味を成さなくなる時代がやってくると思いますし、世界でメガヒットを生む日本のアーティストは必ず出てくると思います。そして、もっと先の未来には世界の中でJ-POP、K-POP、C-POPという垣根もなくなるんじゃないか。私はそんな想像をしています」

 礒崎氏のキャリアはレコード会社から始まった。その後、バンドブームが去った直後に川崎のライブホール「クラブチッタ」でライブ制作や海外渉外などを担当した。阪神コンテンツリンクに移ると、ビルボードの国内チャートを立ち上げた後、約7年にわたり、ライブレストラン「ビルボードライブ」のマーケティングも担当するなど、色々な音楽の楽しみ方を提供してきている。

「ビルボードライブでの思い出はたくさんあって、日本人アーティストは桑田佳祐さんや小泉今日子さんのライブを見れたことが大きかったです。海外勢では、ボビー・ウーマックや亡くなったドクター・ジョンのライブが個人的に印象的でした。300人キャパのライブハウスですが、そこに来るお客様一人一人がどんな風に音楽を楽しんでいるのか、ビルボードライブを通して聴く側の人たちを見てきたことが、その後のチャート作りにも生かされています。グローバルチャートしかり、これまで手掛けてきたものは、周りから公私混同と言われても『心から面白いと思えるものを作るんだ』という気概がなければ生まれなかったものばかりです」

 チャート作りを通して、アーティストたちからも声を掛けられることが多くなったという。

「『Heatseekers Song』(ヒートシーカーズ)という新人チャートがあるのですが、レコード会社の方やアーティストたちに『ヒートシーカーズにチャートインすることが目標でした』と言われることが多いです。今度はグローバルチャートを目標にするアーティストがたくさん出てくるとうれしいですね。リスナーやファンにとってもグローバルチャートは順位だけじゃなく、チャート全体を見ることでいろんな楽しみ方を発見することができると思いますし、今後、国別チャートの国数も増やしていきますので、もっと面白くなると思います。私もさまざまなチャートを毎週見ながら、数字の裏に隠された真実を読み解くことが楽しみです。これは仕事を超えた趣味にもなっています」

□礒崎誠二(いそざき・せいじ)1968年5月22日東京都出身。東京外国語大スペイン語学科卒。92年、キティ・エンタープライズ入社、同年クラブチッタ川崎に出向、ライブ制作、招へい業務などを行う。96年に退社後、原盤制作、著作権管理、商品流通管理など多岐の業務に携わる。06年に阪神コンテンツリンク入社後、ビルボードの日本国内ブランディングを担当、ビルボードライブ東京・大阪のマーケティングに従事する傍ら、ジャパンチャートの設計当初から関わり、現在もデータの選定や算出メソッドのブラッシュアップなど、ディレクション業務を続ける。役職はビルボード事業本部 研究・開発部の上席部長。

※礒崎誠二氏の「崎」の正式表記はたつさき

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