【週末は女子プロレス♯111】安納サオリ、「女優になりたい」からレスラーとして覚醒 きっかけは尾崎魔弓との出会い

フリーの女子レスラー・安納サオリは高校卒業後、滋賀から上京し俳優養成所に通っていた。「女優になりたい」「有名になりたい」「お金を稼いで親孝行したい」との思いとともに夢を追いかけていたのだが、舞台に出演していたとはいえ、現実はアルバイト中心の生活だった。「家賃も払えないような生活でしたね」と当時を振り返った安納。まさか自分がプロレスラーになるなんて、あのときは考えもしなかった。そもそもプロレス、格闘技とはまったく無縁の生活を送っていたのだから無理もない。ところが……。

安納サオリが自身のこれまでを振り返る【写真:新井宏】
安納サオリが自身のこれまでを振り返る【写真:新井宏】

心に残ったKAIRIの姿「ビックリしたんです」

 フリーの女子レスラー・安納サオリは高校卒業後、滋賀から上京し俳優養成所に通っていた。「女優になりたい」「有名になりたい」「お金を稼いで親孝行したい」との思いとともに夢を追いかけていたのだが、舞台に出演していたとはいえ、現実はアルバイト中心の生活だった。「家賃も払えないような生活でしたね」と当時を振り返った安納。まさか自分がプロレスラーになるなんて、あのときは考えもしなかった。そもそもプロレス、格闘技とはまったく無縁の生活を送っていたのだから無理もない。ところが……。

「友だちとご飯食べてたら『知り合いの人、呼んでいい?』と言われて、そこで来たのがアクトレスガールズ代表の坂口(敬二)さん。会った早々『プロレスやれ』『絶対にスターになるから』と言われて、なんやこのおっさんと思ってるうちに練習の日まで決められたんですよ。行ってみたら前転とかいろいろやらされて気持ち悪くなって、すぐやめたろうと思いました。ただ、どうやってやめようかなと考えてるうちに(本間)多恵とか、なつみ(万喜なつみ、現なつぽい)とか、声優になった相羽あいな(当時・播磨佑紀)とか入ってきてちょっとうれしかったというか、頑張ってみようかなと思いましたね」

 デビューを目指す中、安納は初めてプロレスをライブで見た。それがスターダムの後楽園ホールで、彼女の心に残ったのが、試合で顔面を蹴られまくっていた宝城カイリ(現KAIRI)だったという。

「売店でカイリさんを見たんですよ。こんなに小っちゃくてかわいい人がリングで闘ってるんだと思ってビックリしたんですね。大会のエンディングでは全員で『ウィーアースターダム!』と叫んで締めてたんですけど、そのとき自分も後楽園のリングに立つ姿がイメージできたんです。周りを見渡して、この光景を(リング上から自分も)見そうやわあと思いました」

 そして2015年5月31日、ビギニング新木場大会で安納らアクトレスガールズの初期メンバーがデビュー。とはいえ、試合はまったく満足できるものではなく、安納にはフラストレーションが募っていた。

「私、プロレスに向いてないわと思って。こんなん続けてても意味ないし、練習にも行かなくなったり。坂口さんから連絡きても無視したりしてましたね(苦笑)」

 そんな中、坂口代表を通じてスターダムGMの風香から連絡が来た。「よかったら練習に来てみない?」という誘いだった。参加してみると、今までとは異なる厳しさに衝撃を受けた。と同時に、これまで以上に「頑張ってみよう」との思いにもなれた。そして10・11後楽園でスターダム初参戦。彼女にとって初めての後楽園でのリングだった。

 翌16年3月には安納のチャレンジマッチがスターダムでスタート。初戦から宝城と対戦し、5選手とシングルで向き合った。シンデレラ・トーナメントやタッグリーグ戦にもエントリーされ、ホームリングとともにスターダムで経験を積んでいく。

アクトレスガールズ初のベルト獲得は「さらに強くなりたいと感じた日」【写真:スターダム提供】
アクトレスガールズ初のベルト獲得は「さらに強くなりたいと感じた日」【写真:スターダム提供】

正危軍・尾崎魔弓との出会い アクトレスガールズの顔に

 しかしながら、スターダム参戦が事実上初めてプロレスラーたちに囲まれる時間でもあった。「いま思い返せば恥ずかしいくらい何も知りませんでした。最初は『これがプロレスとは認めない』とか批判ばかりでしたし……」。試合では頑張れた。その一方で精神的につらかった時期でもあると、安納は言う。

「舞台もやってて、それがけっこう精神的にしんどくなっちゃって。プロレスやめたい“第2弾”の時期でしたね」

 そんな頃、アクトレスガールズのプレイングマネジャーに就任した堀田祐美子から連絡が来た。「『アンタは一番なんだから絶対にやめちゃダメだよ』って」(週末は女子プロレス♯107参照)。アクトレスガールズ1周年の9・19新木場で、その堀田と初の一騎打ち。ボコボコにされた安納だが、彼女が覚醒した試合でもあった。堀田の一番弟子的な存在となり、じきに万喜との「ツートップ」とよばれるようになっていく。それでいて事実上のエースは安納とのイメージ、「絶対不屈彼女」というキャッチフレーズが定着していったのだ。17年7月には若手のためのタイトル、POP王座を奪取し初戴冠。アクトレスガールズの選手が初めてベルトを巻いたことになる。

「最初はベルトがあるなんて知らないくらいの知識から始めたプロレス。もっと強くなりたいとの思いでベルトに届きました。みんなからも祝福されて、さらに強くなりたいと感じた日でしたね」

 安納はその後、OZアカデミーに参戦。参戦当初、正危軍・尾崎魔弓の入場にインスパイアされ、会場ですれ違った尾崎に「カッコよくて涙が出そうになりました!」と話しかけた。このときはただ率直な思いを告げただけだったが、尾崎の方がOZで闘う安納のポテンシャルに目を付けたのだろう。自身率いる正危軍に勧誘。最初ははぐらかしていた安納だが、「新たな自分に出会いたい」との思いから初めてのユニット加入を実現させ、ヒールスタイルにも開眼したのである。

「正危軍では伸び伸びできましたね。アクトレスガールズとはまた違った立ち位置で、それがすごく新鮮で幅も広がったし、いっぱい学ぶことがありました」

 正危軍効果はホームリングにも表れる。尾崎のもとで闘うようになってから2か月後の18年11月15日、アクトレスガールズの後楽園初進出で安納はトーナメントを勝ち抜き、初代AWG王者となった。同王座は翌年8月まで4度の防衛に成功。文字通り、アクトレスガールズの顔となったのである。

 しかし、19年12月をもってアクトレスガールズを退団。芸能活動との両立が基本のアクトレスガールズからプロレスへの本格転身ということか。「ここでの自分の役割は終わったのかな」との思いもあり、安納はフリーとして活動していくことを決めたのである。

 ところが翌年、新型コロナウイルスの感染拡大によりプロレス界も大打撃を受けた。安納もまた、活動計画の軌道修正を余儀なくされる。「自分が見ていない世界を自分の力で切り拓きたいと思って卒業の決断をしたのに、思い描いていたようなことがまったくできない時期でしたね」

 しかしながら、徐々にプロレス界も動き出し、安納はアイスリボンで王者になった。最初は「後輩中心のトーナメントに自分が出ていいものか迷った」と言うが、ベルトを巻いたことにより団体の救世主的存在となった。また、安納自身に大物感が付き出したのも、この頃だ。

2日に行われたなつぽいとのストラップマッチでは熱い闘いを見せた【写真:スターダム提供】
2日に行われたなつぽいとのストラップマッチでは熱い闘いを見せた【写真:スターダム提供】

スターダムのシングルナンバーワン決定リーグ戦に初エントリー

 そして今年4月、安納はスターダム4・2後楽園に姿を現し6年3か月ぶりの帰還。声をかけてくれたのが、初めて見たプロレスで衝撃を受けたKAIRIだったのも、何かの縁としか思えない。

「KAIRIさんには事あるごとにお世話になって、以前参戦していたときにも落ち込む私に声をかけてくださったり、私の理想とする女性でもあるんですよね。今回声をかけていただいたときはちょうどフリーとしての限界を感じていて、安納サオリをより輝かせるために新しいことをしなきゃいけないと悩んでいたんです。そんなときに声をかけていただいて。なつみには会いたくなかったんですけど(苦笑)」

 アクトレスガールズで「ツートップ」と称されたなつぽいもまた、本音では安納とは会いたくなかった。が、こちらも縁深いKAIRIの提案により、トリオを結成。4・23横浜アリーナでアーティスト・オブ・スターダム王座を獲得した。しかし一度も防衛することなくベルトを失うと、スターダムでのなつぽいの輝きにジェラシーを感じていた安納が一騎打ちを提案。なつぽいもまた、エースと呼ばれる安納に対し終始劣等感を抱いていた。そんな2人が皮ひもで結び付けられて闘うストラップマッチで対戦。試合は安納が勝利するも、勝敗以上に再び両者は結託の道を選んだのである。

 そして、7・23大田区でスターダムのシングルナンバーワン決定リーグ戦「5★STAR GP」がスタート。安納は初エントリーされ、開幕戦でのジュリア(前年度覇者)をはじめ、9選手とシングルで対戦する。安納は新人時代のジュリアと18年2・12大阪で初対戦。19年夏には安納が指名する形でAWG王座戦をおこない、安納がジュリアのタッグ王座にも挑んだ。4年ぶりのシングルとなるジュリアを筆頭に、どれもが注目度の高い闘いになることは間違いない。

「公式戦全部がホントに楽しみですね。なんなら別ブロックも意識してるくらい。私、ずっと見てて、スターダムのいろんな選手が心の安納ノートに刻まれてるんです。それを実際に体感できるんだと思うとすごく楽しみだし、どうやって倒してやろうとか、いまからすごく考えてますね」

 現在、スターダム、OZアカデミー、センダイガールズを主戦場とする安納。「安納サオリのブランド力を高める」のが今年の目標とのことで、5★STAR GP参戦は「ブランド力を高める」絶好の機会になるだろう。ターニングポイントは4・2後楽園。再びスターダムのリングに立ったとき、「歓声を聞いて、私がここ数年で歩んできた道は間違ってなかった」と確信できた。それは他団体で闘っていたため、「安納。誰?」というリアクションになってもおかしくないと思っていたからだ。が、実際は大物感を増しての待望の参戦。「これからの安納サオリを見ていてください!」。5★STAR GP優勝に勝算ありとみた。

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