大林宣彦監督の最後の映画撮影、俳優・細田善彦が振り返る 「ずっと不思議な高揚感に包まれて」

大林宣彦監督が「君の目がすごくいい」とほれ込んだ細田善彦の目【写真:山口比佐夫】
大林宣彦監督が「君の目がすごくいい」とほれ込んだ細田善彦の目【写真:山口比佐夫】

「人生は一度だけだから本番も1回」 細田善彦が心に残った大林宣彦監督の言葉

――出演者が多い芝居場でしたよね。そんな重要なシーンで何の動きも決めずに……。緊張しましたか?

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「めちゃくちゃ緊張しましたね。監督のそういう仕掛けはたくさんありました。よくおっしゃっていたのは、『人生は一度だけなんだから本番も何も1回しかないんだよ。だから、テストなんて本来やらないんだ』」

――演出が人生哲学みたいですね。

「それこそ、NHKで放送されたものをまとめた『最後の講義 映画とは“フィロソフィー”』(主婦の友社)を最近、読みました。映画を後世に遺すことの意味が書かれているのですが、それを撮影現場で映画を通してすごく学ばせていただいたなと感じました」

――台本読んだ時の感想はいかがでしたか?

「最初の台本の印象って、正直もう覚えてないんですよ。お会いする直前に準備稿を頂き、その後、撮影稿をいただいて、少しずつブラッシュアップされたものを読んでいましたが、どんどん変わっていくので。撮影現場でも変わりますし。劇中にはナレーションや、中原中也の詩も出てきますが、台本には一切書かれてないんです」

――映画は中原中也の詩に基づいて描かれている、といった説明がなされますよね。

「そうなんです。台本には、そんなこと一言も書かれていなかったので、いつから中原さんの詩に沿いながらきているんだろうと思っていましたね(笑)。確かに、僕がハーモニカを日本兵から受け取るシーンで、中原中也のエッセイ集が出てくる場面はありました。現場では、なんでこれが一緒に降ってくるんだろう!?わからないけど、僕はこれに関する知識が必要な役ではないので、別にいいやと思っていました(笑)。そんなことの連続でした」

――監督の演出はどんな感じでしたか?

「僕が思うにですが、監督はその俳優自身が持っている雰囲気、顔、声、その人のキャラクターを引き出そうとされていると思うんですよ。監督は、役の“茂”として、演出するけど、“茂”というフィルターをかけて細田自身を引き出そうとされていたと言いますか。
 例えば、あるシーンで、リハーサルをして本番というタイミングで、監督から『ちょっと待って、茂』と呼ばれて、追加のセリフを渡されるんですよ。それも、一言、二言じゃなくて、何行もあるセリフをです。『すぐ行くよー』なんて言ってる監督の横で必死に僕はセリフを覚えて、そのままカメラの前に立ち喋るので何も準備できず、“茂”としての緊張じゃなくて、細田として、『セリフ言えるかな』なんてドギマギしている状態になるわけです。そんな監督のやり方を細田として楽しんでいたり、結果、細田としてしゃべっていると言いますか。監督は、いろんな作品で、あまり経験のない方を主人公に置いたりすることもあるじゃないですか。そっちのほうが確かに良い意味でキャラクターがそこで生きてくるし、人間っぽいんだ、というフィロソフィーなのかもしれませんね。監督の横や、カメラ前でセリフを覚える作業は胃に負担がかかりますけどね(笑)」

「海辺の映画館-キネマの玉手箱」は当初、4月10日に公開を予定していたが、新型コロナウイルスの影響で公開が延期された。新たな公開日は、現在は調整中。

後編に続く

□細田善彦(ほそだ・よしひこ)1988年3月4日生まれ、東京都出身。NHK「きみの知らないところで世界は動く」(05)で主演に抜擢。TBS「逃げるは恥だか役に立つ」(16)、NHK大河ドラマ「真田丸」(16)、CX「民衆の敵~世の中、おかしくないですか?」(17)、 NTV「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(19)など数多くのドラマに出演。 映画では「終の信託」(12)、「羊の木」(18)などに出演。19年には「ピア~まちをつなぐもの~」「武蔵-むさし-」に主演した。

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