俳優・細田善彦が大林宣彦監督から学んだのは「生きるとは何か」 巨匠が映画を通して教えたもの
大林宣彦監督の「海辺の映画館-キネマの玉手箱」(近日公開)で主要キャストを演じた俳優の細田善彦(32)。高校生の時に俳優デビューし、芸歴15年以上の中堅俳優へと成長を遂げたが、大林監督との初仕事は、「初めての経験だらけだった」と語る。業界では「映画の学校」とも言われる大林組で、大林“校長”から教えられたこととは何か?
【単独インタビュー後編】大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館-キネマの玉手箱」で主要キャスト演じる
大林宣彦監督の「海辺の映画館-キネマの玉手箱」(近日公開)で主要キャストを演じた俳優の細田善彦(32)。高校生の時に俳優デビューし、芸歴15年以上の中堅俳優へと成長を遂げたが、大林監督との初仕事は、「初めての経験だらけだった」と語る。業界では「映画の学校」とも言われる大林組で、大林“校長”から教えられたこととは何か?
〈同作は惜しまれながらも4月10日に肺がんのため死去した大林監督の遺作で、20年ぶりに故郷、広島・尾道でロケが実施された。今回のインタビューは今年3月下旬に行われた〉
――撮影はほとんど尾道ですか?
「冒頭とラストのミュージカルシーンは角川大映スタジオで撮影しましたが、あとは基本的に尾道です。ただ、尾道で撮っていると言っても、(特殊効果撮影が多く)ほとんどがグリーンバックだったりします。尾道にある、通称ミカン倉庫といわれる場所にグリーンバックを入れて撮ったりしています。1番尾道らしいのは最初、自転車の少女が出てくるところですかね」
――向島からの渡船シーンは、尾道を象徴するような光景ですね。本作には、大林映画の常連の出演者も多いですが、その中に新たに入っていくのはいかがでしたか?
「もしかしたら、そういったチーム感はあったかもしれないですが、(常連俳優も)『大林監督の場合、答えは監督の頭の中にしかないから』って言うんですよ。それこそ細山田(隆人)さんと厚木(拓郎)さんは何度も、大林さんの作品に出られていますが、お二人に相談しても、『いやぁ、毎回違うんだよね』っておっしゃっていました」
――常連だろうが、新入りだろうが、あまり関係ない?
「と、思いますけどね。監督自身が今もなお、進化されてるので、細山田さんも厚木さんも、毎回新鮮な気持ちなんだと思います」
――撮影期間は長かったですよね?
「僕は約2か月でした。それから、アフレコが冬から夏にかけて、飛び飛びで10日間ぐらいでした」
――今どきの映画で、60日間かける作品はほとんどないです。アフレコに10日間かけるのも異例ですね。
「大林監督の現場でないと、できない経験でした」
――完成作はどんなふうに観ましたか?
「まず、『すごいな』って思いました。ほかに形容する言葉が自分の語彙力にはないですね。なんという映画なんだろうと思いました。『HOUSE ハウス』のような不思議な感じもありつつ、メッセージ性も強い。僕は台本を読んでいたはずなのに、これは一体、何を観ているのだろうか、という戸惑いを最初感じました。オープニングから世界観が壮大でこの映画どう進むのか分からないぞ!?なんて思っていたのが、徐々に体が慣れてきたのか、考えることをやめたのか、どんどん情報が入るようになってくる。セリフがもうスペースがないぐらい放たれる。どんどん頭の中に降ってきて、上映時間の3時間はあっという間。なんかすごいものを観たな、と。常盤貴子さんは、『この映画は、大林監督の走馬灯です』と形容されていましたが、さすが常盤さんと思いましたね」
――出演していても、「戸惑う」ってすごいですね(笑)。
「というのも、全然、違うものになっていたので(笑)。例えば、昼に撮ったシーンが大林監督の手が加えられ、夜のシーンになっていたりするわけです。撮影中も、全然モニターを観ていなかったので、どんなものを撮っていたのかを把握していなかったんですよ。だから、何もかもが新鮮に見えたんです」
――それはアフレコの時に気付いたんですか?
「そうです。アフレコも、トライの連続でした。実は、完成品の何倍の声を吹き込んでいるんですよ。意味が通じるレベルで、言葉をかぶせるという演出もありましたし、心の声を吹き込んでくれ、ということもありました。ちょっとした隙間があったら、いろんなセリフを盛り込んでいくんです。完成した作品からは抜かれていましたけれどもね。とにかく、いろんなトライをしてから、引くことを繰り返すわけです」