料理研究家・土井善晴氏 食レポ番組氾濫にダメ出し 「食べるシーンいらない」ワケ

料理研究家の土井善晴氏が1日、自身が招聘(しょうへい)教授を務める十文字学園女子大学(埼玉・新座市)で同学園創立100周年記念講座「土井善晴のおいしいものセミナー 料理が暮らしをつくる」を開いた。

大学で料理を教える意義を語る土井善晴氏【撮影:ENCOUNT編集部】
大学で料理を教える意義を語る土井善晴氏【撮影:ENCOUNT編集部】

沢田研二主演映画「土を喰らう十二ヵ月」の料理を担当

 料理研究家の土井善晴氏が1日、自身が招聘(しょうへい)教授を務める十文字学園女子大学(埼玉・新座市)で同学園創立100周年記念講座「土井善晴のおいしいものセミナー 料理が暮らしをつくる」を開いた。

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 料理に対する自身の哲学を分かりやすく語る同セミナーは20年8月、21年7月に続く3回目で今回は初めての対面講義となった。広島や宇都宮など全国各地から集まった約120人の聴衆で教室の座席が埋まる中、土井氏は「料理を食べることで人間同士、家族の関係が生まれる。その土地の自然を背景に調理方法を決める、ご飯を食べる、これが自然と人間の出会い。料理の真善美とは“キレイ”だということ」と熱っぽく語った。

 土井氏は歌手の沢田研二が主演し女優の松たか子がヒロインを務める映画「土を喰らう十二ヵ月」(中江裕司監督、11月11日全国公開)に料理担当として参加。四季折々の食で綴る心豊かな人生ドラマで、「地球環境の変化で暮らしにくい今の時代にタイムリーな映画です」とPR。同作で初めて映画の料理に挑んだ土井氏は食材選びや扱い方、手さばきや器選びに至るまで深く作品に携わった。

 沢田については「ぬか床に手を入れるシーンを撮るときに沢田さんは『硬いね』ってすぐに分かりました。普段の暮らしの中で普通のものを食べているからそれが分かったんだと思います。役柄にピタッとはまっていました」と明かした。松についても「地元の食材を使った料理を食べて『おいしかったです』と(食材スタッフに)声をかけてくれる。すると山のおじいちゃんたちは直立不動でフリーズしてしまう。それほど大喜びしていました」とユーモラスに語った。

 また、映画に料理で初参加した感想を聞かれると「人の一生は2時間では語れないが、映画にすると語れてしまうところがすごい」と醍醐味を語った後、「撮影するとき鍋や鉢を浅めにして中の料理を見えやすくする、と思うでしょうが、実は中身がちゃんと見えたらダメ。見ている人の想像力を促してそれを補完することで見えてくる世界があります。チラッと見えた方がイメージが広がります」と中江監督の言葉を交えながら意外なエピソードを語った。

 一方、最近のテレビは食レポ番組の氾濫といっても過言ではない極端な状況。そんなことを念頭に置いてか土井氏は「テレビを見ているとゲスト(出演者)が食べてはコメントするなど、よくしゃべる。しゃべらない方がいい。世界中の料理番組を見ていますが、外国の料理番組はほとんど食べるシーンがない。食べなくてもいいし、余計なお決まり。食べるシーンはいらない」と“キレイ”な食レポを求めた。

 同大学では日本の食文化や和食などについて講義。学生らと一緒に料理を作り調理方法も指導している。若者の作法については「はしや包丁の持ち方が最初は正しくない学生もいますが、それは社会環境の変化によって起きている現象に過ぎません。大人たちがきちんと教えていくことで学生たちも学ぶことができます」と料理にかかわる大人の果たすべき責任を強調した。

 土井氏は1957年、料理研究家の土井勝氏の次男として大阪府に生まれた。大学卒業後にスイス・フランスでフランス料理、大阪の「味吉兆」で日本料理を修業。土井勝料理学校講師を経て92年に「おいしいもの研究所」を設立し独立。十文字学園女子大学特別招聘教授、東京大学先端科学研究センター客員研究員。著書に「一汁一菜でよいという提案」(新潮社)、「くらしのための料理学」(NHK出版)、「一汁一菜でよいと至るまで」(新潮社)、「料理と利他」(ミシマ社)、「ええかげん論」(同)など。

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