【電波生活】放送65周年「きょうの料理」は時代のニーズ反映 梅干し企画の塩分は18%→5%に

注目番組や人気番組の舞台裏を探る企画。今回は1957年11月にスタートし、今年65周年を迎えるNHKの「きょうの料理」(Eテレ=月曜、火曜、午後9時、総合テレビ=金曜午後0時20分)。65年もの間、視聴者に支持されている要因は何か。久間真佐子チーフ・プロデューサー(取材時)に取材すると想像を超えた仕事の流れや陰の努力、時代を感じる物語があった。

NHK「きょうの料理」が視聴者に支持され続けている要因とは【写真:(C)NHK】
NHK「きょうの料理」が視聴者に支持され続けている要因とは【写真:(C)NHK】

もうすぐ放送65周年「きょうの料理」の決め事 使うのは全国どこででも手に入る食材

 注目番組や人気番組の舞台裏を探る企画。今回は1957年11月にスタートし、今年65周年を迎えるNHKの「きょうの料理」(Eテレ=月曜、火曜、午後9時、総合テレビ=金曜午後0時20分)。65年もの間、視聴者に支持されている要因は何か。久間真佐子チーフ・プロデューサー(取材時)に取材すると想像を超えた仕事の流れや陰の努力、時代を感じる物語があった。(取材・文=中野由喜)

「NHKがテレビの本放送を1953年2月1日に開始し、翌日2日には『ホーム・ライブラリー』という家庭婦人のための衣食住をテーマにした番組が始まりました。その番組の料理部門が『きょうの料理』として独立しました。当時、標準的な1世帯あたりの人数をもとに材料は5人分がモデルでした。次第に世帯あたりの人数が減り1965年に4人分に、2009年から今の2人分がモデルになっています」

 最近は1人分のニーズが高いと言う。歴史を感じる話がもう1つ。

「実は番組の初回は料理を一品も作っていません。栄養の話で。当時は国民の4人に1人が栄養不足で、栄養士が、家庭でバランスのいい食事をとることの重要性を話したそうです。その後も定期的に栄養士の話を放送したと聞いています」

「きょうの料理」のテキストの歴史も古く1958年から販売されている。このテキストが番組制作に大きな影響を与えている。

「番組企画は放送6か月前、番組制作スタッフとNHK出版編集者と、それぞれ提案し合って決めます。テキスト番組なので雑誌の撮影を考慮すると、かなり前倒してブレストを始めないと間に合いません。半年後の季節をイメージして旬の食材、注目されそうなテーマ、世間のニーズを予測しながら放送カレンダーを制作します。提案採択後、放送3か月前にテキストの撮影を行い、放送2週間前に番組を完成させる制作体制です」

 テキストの影響で放送半年前から準備。大変な中でこだわりもある。

「紹介する全料理を、テキストの責了前に、必ず『全品試作』します。料理研究家やシェフが出した材料と工程を、通称『試作さん』という、プロではない方に自宅で同じ手順で忠実に作ってもらいます。『しょっぱい』など不具合があれば講師を交えて相談し、場合によっては修正してレシピを完成させます。手間はかかりますが間違いのないレシピができます。丁寧に作っていることが我々の強み」

 番組作りにはまだ驚く行程があった。

「毎月12~15本の放送本数ですが、約半数がスタジオ尺録り方式(いわゆる生放送のような収録スタイル)、残る半数が後編集です。後編集には時間と制作費もかかります。低コストの制作費で作ることも求められ、年間約150本制作するためには効率よく収録しなければなりません。さながら生放送のように収録する合理的なスタジオ尺録り方式が今も半分続いています。スタジオ内には熱量の高い空気感が漂います。これまで尺録りで失敗したことはありません。時間ぴったりに収まるのはスタッフ全員の力技と念力、総合力のたまもの」

 季節や時代により料理に特徴があるのか尋ねると興味深い答えが返ってきた。

「減塩、低糖質を求めるムードが最近は顕著です。塩分を控えたいという視聴者ニーズは高く、たとえば毎年6月に必ず紹介する『梅干し』企画は、かつては塩分18%が主流でしたが、15、12、10、8%と年ごとに減り、来年はついに5%の梅干レシピを紹介する予定です。塩分に皆さんデリケート。また梅干しは、梅の出回る時期が限られているため、放送1年前に収録を終えておきます。テキストが間に合わないので」

 つまり今年6月に収穫した梅を使って撮影した「梅干し」企画は、来年6月に放送される。

「6月号のテキストに間に合わせるには3月にはテキスト撮影しないとなりませんが、3月に梅を探してもどこにもありません。栗や柿、実山椒なども。収穫したら1年後の放送のために収録します」

 他のタイムラグの苦労を聞いてみた。

「小麦粉が値上がりする昨今、代用として米粉を使ったレシピを紹介したいと思っても間に合いません。以前にも1月は、ほうれん草や小松菜など冬野菜をメインに特集を!』と立てた企画に、青菜が天候不良で高騰し、視聴者から『高くて買えない』という声が寄せられたことも。半年先のトレンドやニーズをつかむのは、かけみたいな部分があります」

 番組には大事な決め事もあるという。

「全国どこでも入手できる食材を使うことです。全国放送なので特定地域でしかとれない食材(郷土野菜など)、地方で入手しづらい食材(輸入食材、調味料など)はなるべく避けます。今はやっていませんが、かつては全国の県庁所在地のデパートの食品売り場に電話して食材を売っているか確認していました。なるべく全国の人が手に取れる物をというのは、昔も今も言われています。今は近所の一般的なスーパーで買える食材を意識しています」

 番組が65年もの間、愛されてきた要因をたずねてみた。

「いつの時代も『おいしいものが食べたい』という思いは変わらないと感じます。日本人の知的探求心、食への関心の高さを感じます。『毎日の食卓を豊かにしたい』という思いに応える企画を立てる。これが長く愛される要因の一つかと自負しています。『台所で作ってもらってなんぼ』という思いでやっています」

 他の料理番組との違いもあるようだ。

「『伝統食への回帰』『日本の古き良き食文化』への憧憬も放送していて強く感じます。梅干し、干し柿、みそ、漬物なども番組に期待される大切なテーマ。ほかの料理番組では取り上げないレア企画です」

 最後に視聴率のいい料理を尋ねると、6月の梅を使った料理、12月のおせちだという。久間さんは「日本人がはぐくんだ食文化を次につなげることも番組に求められる要素」。また、「日々の料理、トレンドに取り組みながらも、ちゃんと時代を映しているかを意識しています」とも。今、放送している料理がいつか日本の料理史をつづる記録になるよう「きょうの料理」が日本の食卓を見つめる定点観測者として存在することを願っていた。

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