権力中枢の“闇”を描いた映画「新聞記者」が日本アカデミー賞3冠を獲得した意味

「新聞記者」の出演者ら(C)日本アカデミー賞協会
「新聞記者」の出演者ら(C)日本アカデミー賞協会

藤井監督は一度、オファーを断っていた…新聞を「ほとんど読んだことがない」

 藤井監督は日本大学芸術学部映画学科出身。短編映画での手腕が認められ、2014年、伊坂幸太郎氏原作、岡田将生主演の「オー!ファーザー」で長編映画デビュー。以来、「デイアンドナイト」など映画やドラマで活躍している。以前のインタビューではこんなことを話してくれた。

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「家では親が大手経済紙を定期購読しましたが、自分ではほとんど読んだことはありませんでした。スマートフォンのニュースアプリで読むのはエンタメ、スポーツ。あとはトップニュースの事件・事故くらい。政治のタブはほぼ見なかったです。正直に言うと、(映画のモチーフになった)森友学園・加計学園問題もよくは知りませんでした。河村プロデューサーは『デイアンドナイト』を観て、オファーしてくれたのですが、一度はお断わりしたんです。僕より、ふさわしい人がいるんじゃないか、と」

 しかし、河村プロデューサーから「そんな新聞を読まない世代からこそ、撮って欲しい」と説得され、承諾。政治家の実名が飛び出すセミドキュメンタリー風のドラマだった当初の脚本を大幅に変更。脚本を担当した詩森ろば氏とともに、新聞記者、新聞の営業担当者、官僚を取材して、実際の事件を連想させる社会派エンターテイメントに仕上げた。

 撮影は2018年12月から約3週間。藤井監督は「題材が題材だけに、時間はいくらあっても足りなかった」と振り返っていたが、主演の2人には大いに助けられたという。シム・ウンギョンは大ヒット映画「サニー 永遠の仲間たち」(2011年)や「怪しい彼女」(2014年)やなどで知られる韓国映画界を代表する若手。2017年に安藤サクラ、岸井ゆきの、門脇麦らが所属する俳優事務所「ユマニテ」と契約し、来日。たった1年半で日本語を習得。日本人の父と韓国人の母を持ち、アメリカで育ったという設定の新聞記者になりきった。

 授賞式では、シム・ウンギョンは「全然取ると思わなかったので、全然、準備をしていなかった。ごめんなさい。共演の松坂桃李さん、ありがとうございます」といい、号泣。一方の松坂は「この作品は僕の知る限り、いろんなことが二転三転、五転くらいあって、それでも、この作品をしっかり届けたいという方が集まって、撮り切ることができました。この10年で最もハードルの高い役でしたが、ウンギョンさんと一緒に駆け抜けることができました」と受賞を喜んだ。

 ところで、官邸の人々は、「新聞記者」の快挙をどう受け止めているだろうか。今回の受賞は、作品の出来もさることながら、以前にも増して、ブラックボックス化が進んでいる官邸への映画関係者の不満の表れではないかとも思えるのだが……。

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