ベテラン女優・黒沢あすか、あえて自分の強みを封印 “何もしないこと”で新発見

塚本晋也監督の「六月の蛇」、園子温監督の「冷たい熱帯魚」などで強烈な印象を残してきた黒沢あすか(50)。芸歴39年を迎えたベテラン女優に、また代表作が生まれた。“息子”に似た他人と同居するシングルマザーを演じた「親密な他人」(3月5日公開、中村真夕監督)だ。黒沢は、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙-サイレンス-」以来の充実感を味わった、と語った。

日本ではは数少ない50歳の女優の映画主演作でシングルマザーを演じた黒沢あすか【写真:ENCOUNT編集部】
日本ではは数少ない50歳の女優の映画主演作でシングルマザーを演じた黒沢あすか【写真:ENCOUNT編集部】

黒沢あすかインタビュー、主演映画「親密な他人」でシングルマザー役

 塚本晋也監督の「六月の蛇」、園子温監督の「冷たい熱帯魚」などで強烈な印象を残してきた黒沢あすか(50)。芸歴39年を迎えたベテラン女優に、また代表作が生まれた。“息子”に似た他人と同居するシングルマザーを演じた「親密な他人」(3月5日公開、中村真夕監督)だ。黒沢は、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙-サイレンス-」以来の充実感を味わった、と語った。(取材・文=平辻哲也)

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「六月の蛇」(2003年)では性の欲求を解放するカウンセラーのリン子、「冷たい熱帯魚」(11年)では、熱帯魚店を仕切る妖艶な妻役と、己の肉体で数々のエロスを体現してきた黒沢。「肉体を惜しげなく披露してきたことで、今の私があると思っていましたし、それが糧にもなっていました」と話す。

「親密な他人」は、行方不明になった息子、心平(上村侑)の帰りを待つシングルマザー、恵(黒沢)の物語。ある時、息子の消息を知るという20歳の青年、雄二(神尾楓珠)が現れる。恵は、心平と容姿も似ているワケありの青年を自宅に招き入れ、母子とも恋人とも思える同棲を続けていくが、2人にはそれぞれの秘密があった……というストーリー。

 約3年前、高良健吾のデビュー作「ハリヨの夏」やドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」の中村監督から「『サンクチュアリ』『六月の蛇』『冷たい熱帯魚』の演技が大好きで、黒沢の演技は仏名女優イザベル・ユペール(『エル ELLE』)に似たものを感じる」との熱烈オファーを受けた。

 ハリウッドでは珍しくはないが、日本では50歳の女優の映画主演作は数少ない。「こんなにも必要とされたのは久しぶりでした。真夕監督は同年代で意気投合しました。男性プロデューサーから『中年の女性を主人公にした映画が難しいと言われて、奮起した』とおっしゃっていました。『これを撮りたい』というバイタリティーがすごく、私も乗せてもらいたい、と思いました。女性としてのキラキラした部分が枯れてきていると思っていたので、この映画は救世主のようでした」と振り返る。

 本作は、文化庁の文化芸術振興費助成金を受けられることになり、20年12月、10日間で撮影した。青年役・神尾楓珠は自分の長男と同い年。今までにはない若い共演者との演技にも、私でうまくできるのか、との不安もあった。という。劇中では、バスルームで、“息子”と肌を密着させ、ヒゲを剃るという過剰な母性愛とも、エロスとも映る場面も登場。全裸はないが、黒沢はなまめかしく、あやしい。

「1番助かったのは、監督に、“エロスは裸になることではない”との信念があったことでした。私は若い頃から肉体を使って表現し、私自身も、それを楽しんできましたが、50になると、さすがに自分の肉体を見せるのは精神的にも肉体的にもしんどくなっていましたから」

次のページへ (2/3) 11歳のときにデビュー、来年は女優生活40年「一人では生きていけないんだ」
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