3000万枚を売り上げた音楽P、松尾潔さんが53歳で作家デビューの理由

「このまま50代になったら、やりたいことのない空っぽのおじさんになっちゃう」

 しかし、最後の5曲目だったEXILEの「Ti Amo」がレコード大賞・大賞を受賞。「レコ大授賞式が12月30日で、1月4日が僕の誕生日。で、あと5日間で41歳というところで、初めてのノミネートでいきなり賞をいただいた。これで引退とはいい話だなと1人、ヒロイックに酔いしれていたんです。ところが、授賞式の後の打ち上げパーティーで、EXILE HIROさんから熱くお礼を言われてしまった。ご存じの通り彼は山あり谷ありの人生で、僕以上の感慨があったはずです。『これからもよろしくお願いします。来年の今日もこの会場に居たいです』と言われて、引退の意向を切り出せなくなってしまった(笑)」。

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 引退の気持ちはしまったまま、40代に入って、これまで以上に活躍。三代目J Soul Brothersのデビュー、女性シンガーも積極的に手掛けるようになって、2011年、JUJU「この夜を止めてよ」で第53回日本レコード大賞「優秀作品賞」を受賞。「僕は『これが自分の人生だ』と強く決めてきたわけじゃない。成り行き、出会いにある程度身を任せるのも悪くないかなって楽天的に考えて生きてきました。何でも面白がっちゃう性格だからというのもあるんですけど。でも一方で、このまま50代になったら、やりたいことのない空っぽのおじさんになっちゃうぞという不安もありました」

 2013年に、松尾さんを小説執筆へと向かわせる、もうひとりの直木賞作家との出会いが待っていた……。

(後編に続く)

□松尾潔(まつお・きよし)1968年1月4日、福岡市出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。プロデューサー、ソングライターとして、SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加、平井堅、CHEMISTRY等を成功に導き、EXILE、JUJUなど数多くのアーティストに提供した楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。2008年、EXILE「Ti Amo」で第50回日本レコード大賞「大賞」を、11年、JUJU「この夜を止めてよ」で第53回日本レコード大賞「優秀作品賞」を受賞するなど受賞歴多数。

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