漫画家・矢口高雄さん追悼 こだわり反映した「釣りキチ三平」は釣り人をワクワクさせた

去る11月20日、漫画家・矢口高雄さんがすい臓がんで81年の人生を全うした。そこで、矢口漫画の愛読者であり、取材インタビューをしたこともある釣りライターの世良康氏に、“釣り人目線”で見た矢口漫画の魅力をつづってもらった。

釣り人が納得する漫画を描いた矢口高雄さん(世良氏の著書「釣人かく語りき」より)【提供:世良康】
釣り人が納得する漫画を描いた矢口高雄さん(世良氏の著書「釣人かく語りき」より)【提供:世良康】

美しい自然描写の中に隠された秘密

 去る11月20日、漫画家・矢口高雄さんがすい臓がんで81年の人生を全うした。そこで、矢口漫画の愛読者であり、取材インタビューをしたこともある釣りライターの世良康氏に、“釣り人目線”で見た矢口漫画の魅力をつづってもらった。

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 矢口高雄さんといえば、漫画「釣りキチ三平」である。漫画雑誌全盛の頃の「少年マガジン」の看板作品として1973年から10年間連載され、単行本化されて現在まで、釣りファンだけではなく、世代を超えて広く読み継がれている。

 人気の秘密はどこにあるのか。その1つに“細密で美しい自然描写”が挙げられる。しかし、矢口さんは単なる漫画家ではない。子どもの頃から大の釣りキチで、その美しい風景の中には釣り人ならではの秘密の描写が散りばめられている。

 たとえば、渓流釣りへ行く道すがら、渓谷のダイナミックな光景が描かれていたりすると、多くは「心が洗われる」「日本の自然の原風景を見るようで懐かしい」といった通り一遍の感想を抱くだけだろう。

 しかし矢口漫画には、こうした風景の中に「釣り人目線」の描写が随所に隠されている。道端にヤマブキが咲いていれば、その花はイワナやヤマメ釣りの季節に咲く花であり、釣り人にとって魚の気配がプンプン匂ってくる。ヤマブキの黄色い花一輪を見ただけで、釣り人は魚が現れる期待でわくわくしてくるのである。

 ほかにも、小鳥の鳴き声が高く響いたり、ヤンマが水面を悠然と周回し始めると、眠っていた大自然が目を覚まし、生き物が食餌に勤しむ刻(とき)が近づいたことを知らせている。それらの描写は、魚が釣れる前触れなのである。

 釣れる瞬間だけではなく、その前触れまで描く――。これが他の多くの釣り漫画と、矢口漫画との決定的な差といっていいだろう。

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