BTS「Dynamite」と「Life Goes On」に見る色彩とモノクロームの二項対立

「Dynamite」と「Life Goes On」はまったく対称的な作品

 「Life Goes On」のMVを、8月21日に世界同時リリースされたBTS初の英語曲「Dynamite」のMVと比較すると違いは歴然だ。「Dynamite」は垂直軸に沿った上下、高低の運動に関わる映像が見る者のボルテージを上げる。例えばドーナツ店やレコード店にいるメンバーはラストで高地の緑地帯へ上昇移動し、台地を踏みながらエネルギッシュに歌い踊る。その背景では鮮やかな色彩の噴煙が怒涛のような激しさでさらに上空へと立ちのぼっていく。つまり低いところから高いところへの上昇によって「Dynamite」のストーリーが進行している(※2)。BTSメンバーの頭上を巨大飛行機が飛び去っていくシーンも、飛行機が地上を滑走して離陸し高度を上げていくという「上昇」を象徴しており、重力に打ち勝つ強大なエネルギーが感じられる。

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 それに対し、「Life Goes On」で描かれているのは水平軸に沿った運動だ。Vが運転する車は無機質な街並みをただただ水平に移動する。あるいはメンバーは部屋の中でくつろぎ、終わりの見えない日常を過ごす。逆説的だが、重力に逆らわないからこそ穏やかな日々がそこにはあり、庭に集まって癒しと回復の時を待つ。そのため躍動的なダンスは封印されている。

 ラストは無人のコンサート会場でメンバーが座って歌唱するモノクロームの映像で締めくくられる。このシーンについては特別な解釈が必要だろう。なぜラストシーンがモノクロームでなければならなかったのか。まず考えるべきことは、私たちの実生活の中でモノクロームの世界は経験できない、ということだ。従って色彩のないコンサート会場は虚構なのである。ファン(=ARMY)のいない公演を非現実的な世界、あり得ない世界として描くことで、大きな悲しみの感情を表現しているのではないだろうか。ARMYと一緒にいられる日常の回復への祈りがこのモノクローム映像に込められているのだ(※3)。BTSはつくづくファンとの共同構築物という思いを強くする。

 以上見てきたように、「Dynamite」と「Life Goes On」はまったく対称的な作品と言える。垂直運動と水平運動、躍動と落ち着き、動と静、色彩とモノクローム……。コロナ禍が深刻化する中で発表された「Dynamite」が英語曲であるのに対し、同じく「Life Goes On」はほとんどが韓国語であるところも、外(世界)と内(韓国)という対称をなしている。美しいほどの二項対立とその均衡をなす「Dynamite」と「Life Goes On」。あらかじめ計算してこの2曲を制作したとしたら驚嘆に値する。

 韓国には宇宙万物が陰と陽の相互作用によって生成して発展する、という陰陽思想が根付いている(※4)。BTSはビルボード「HOT100」でともに1位という歴史的な成績を残した「Dynamite」と「Life Goes On」でそれを実践したかのようだ。もちろん、これは筆者の一つの見立てであってすべてにおいて成立すると言っているわけではない。ただ、そのように想像すると、BTSの楽曲の世界観が一段と凄みを増して迫ってくるのではないだろうか。アーティストとしての並外れた力量を改めて示しているかのようだ。

鄭孝俊
全国紙、スポーツ紙記者を経て現在「ENCOUNT」記者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程在籍中。専門は異文化コミュニケーション論、メディア論。成蹊大学文学部ゲスト講師、ARC東京日本語学校大学院進学クラスゲスト講師などを歴任。

(※1)『庭の意味論 思想・場所 そして行為』M.フランシス・R.T.へスターJr.共編、佐々木葉二・吉田鐡也共訳(1996年、鹿島出版会)18頁
(※2)『文学とは何か―現代批評理論への招待(上)―』テリー・イーグルトン著、大橋洋一訳(2014年、岩波書店)第3章「構造主義と記号論」219-296頁
(※3)『デジタルで表現するモノクロームの世界』池本さやか「永遠に想像という領域に広がる無限の世界」(2008年、日本カメラ社)45-54頁
(※4)『駐日韓国文化院』公式ホームページ「韓国の基本情報」

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