「ついにヤラれました」 太陽光発電所で異常事態 実は“あるある被害”…銅線盗難、泣き寝入りの背景とは
「ついにヤラれました」──。千葉・いすみ市の太陽光発電所で、電気を送る銅線ケーブルが何者かに広範囲にわたって切断され、発電所全体が停止した。現地へ駆け付けた所有者を待っていたのは、何本ものケーブルが切り刻まれ、その多くが放置された無残な光景だった。被害を明かしたX投稿は大きな反響を呼んだ。こうした銅線盗難は各地の太陽光発電所で相次いでいるが、多くの被害者が泣き寝入りせざるを得ない実情があるという。なぜ卑劣な犯行が繰り返されるのか。関東で発電所6基を運営する個人投資家に話を聞いた。

太陽光発電所の銅線がバッサバッサ…現地で目にした無残な光景
「ついにヤラれました」──。千葉・いすみ市の太陽光発電所で、電気を送る銅線ケーブルが何者かに広範囲にわたって切断され、発電所全体が停止した。現地へ駆け付けた所有者を待っていたのは、何本ものケーブルが切り刻まれ、その多くが放置された無残な光景だった。被害を明かしたX投稿は大きな反響を呼んだ。こうした銅線盗難は各地の太陽光発電所で相次いでいるが、多くの被害者が泣き寝入りせざるを得ない実情があるという。なぜ卑劣な犯行が繰り返されるのか。関東で発電所6基を運営する個人投資家に話を聞いた。
「太陽光発電所あるあるの、銅線ケーブルの盗難。ずっと無事でいたのですが、ついにヤラれました」
自身のXにこう投稿したのは、個人投資家の九条さんだ。投資やFIRE(経済的自立と早期リタイア)に関する情報をブログなどで発信しながら、2020年から資産運用の一環として太陽光発電所を個人事業として運営。現在、関東に計6基を所有している。
被害に遭ったのは、千葉・いすみ市で20年12月から稼働していた発電所だ。
九条さんによると、異変を告げたのは、東京電力が買い取った電力量を知らせる「購入実績のお知らせ」だった。7月24日検針分の買取量は、わずか1216キロワット時。例年7月は1万キロワット時を超えており、普段の約1割まで激減していた。
「ケーブル盗難かブレーカーが落ちているか。いずれにせよ現地に行くしかありません」
遠隔監視装置や監視カメラを設置しているのは、運営する6基のうち1基だけ。今回の発電所には、どちらもなかった。
異常に気付いたのは8月13日。7月24日の検針から、すでに約20日が過ぎていた。電力量から逆算すると、発電が止まったのは6月末ごろ。犯行も同じ時期だったとみている。
8月15日、九条さんは現地へ向かった。
真っ先に確認したのは、パネルでつくった電気を送電網で使える形に変える「パワーコンディショナー」から、電柱側へ延びる太い銅線だった。この種の盗難では、特に太いケーブルが狙われやすいと聞いていたためだ。
しかし、そのケーブルは6本とも残っていた。入口のフェンスや錠前にも壊された形跡はない。単にブレーカーが落ちているだけではないか。わずかな期待を抱いた。
ところが、敷地内に入ると、その期待は打ち砕かれた。パネルの下には、途中で断ち切られた黒いケーブルが何本も垂れ下がっていた。
「見事にバッサバッサケーブルが切られております。見るも無惨に……」
切断されていたのは、太陽光パネルからパワーコンディショナーへ電気を送る銅線ケーブルだった。切られれば、パネルが電気をつくっても送電できない。
被害は「パネル1枚分」といった規模ではなかった。広い範囲でケーブルが切断され、発電所全体が止まっていた。
さらに不可解なのは、切断されたケーブルの多くが現場に残されていたことだ。実際に持ち去られたのは一部とみられ、より高く売れると考えられる太いケーブルも無事だった。ほかに壊されたり、盗まれたりした設備も確認されていない。
「犯人が作業の途中で何らかの事情で撤収した可能性もあると見ています」
敷地には、人の侵入を検知するとサイレンと赤色灯が作動するセンサーがある。約20メートル先には民家もあるという。しかし、防犯カメラがなかったため、いつ、誰が、どのように侵入したのか。現場で起きたことを確かめる手がかりは残っていない。

「泣き寝入りしかない」被害者側は事実上「終わり」
被害を確認した九条さんは、その場で110番通報した。
約30分後に警察官が到着。「被害届を出しますか。それとも警察相談で済ませますか」と確認され、被害届の提出を選んだ。現場の調査と手続きには、約1時間半を要したという。
防犯カメラも目撃情報もなく、犯人につながる手がかりは乏しい。それでも被害届を出したのには、理由がある。
「泣き寝入りして統計に残らなければ、『銅線盗難は今も起きている』という現実そのものがなかったことになってしまうからです」
犯人を特定できなければ、損害賠償を求めることもできない。
「やられた時点で、被害者側は事実上『終わり』です」
被害総額は、まだ確定していない。復旧業者に見積もりを依頼している段階で、再び発電できるようになるまでには約3か月かかる見込みだ。
ケーブルなどの部材代や復旧工事費は、設備の損害を補償する保険でカバーされる見通しだ。ただし、現地へ駆け付けるための交通費など、保険の対象にならない出費もある。
それ以上に重いのが、発電できない期間の売電損失だ。
この発電所の売電収入は月20万円弱。復旧まで3か月かかれば、失われる収入は60万円前後に達する。休業補償の保険には入っていない。発電所が止まってもローンの支払いは続くため、「毎月赤字です」と明かしている。
一方、持ち去られた銅線を売って犯人が得る金額は、九条さんが聞いている相場では5万円前後にすぎないという。
「犯人が手にする金額に対して、被害者側には復旧費用と約60万円の売電損失が発生します。保険や警察を含めた社会全体のコストまで考えれば、犯人の『もうけ』とは桁違いの損害です。人の資産を壊して得るわずかな金のために、これだけの損害をまき散らすのはやめてほしい」
現場を目にして込み上げたのは、怒り以上に強い徒労感だった。
「正直に言えば、『ついに自分の番が来たか』という感覚です」
九条さんによると、周囲で太陽光発電所を運営する事業者は、ほぼ全員がケーブル盗難を経験しているという。自身の発電所もいつか狙われるのではないか。そう覚悟しながら運営を続けてきた。
「犯人が捕まる可能性も、銅線が戻ってくる可能性も、限りなくゼロに近い。泣き寝入り以外の選択肢が実質的にない、というのが、この犯罪の被害者の置かれた状況です」
金属盗は5年前の約3倍…新法施行後に起きた犯行
九条さんがXで「太陽光発電所あるある」と書いた背景には、各地で繰り返される被害がある。
茨城県警が公表している全国の認知件数によると、金属盗は統計を取り始めた20年の5478件から増加し、24年には2万701件に達した。25年は1万5712件と前年から減少したものの、20年の約3倍。依然として高い水準にある。
太陽光発電所は、人目につきにくい場所に設置されることが多いうえ、管理者が常駐していない。離れた場所に住む個人事業者が、複数の発電所を管理しているケースもある。
茨城県警は、人や車の通行が少ない場所にある発電所は狙われやすいとして、機械警備や防犯カメラ、人の侵入を検知するシステムなど、複数の防犯設備を導入するよう呼びかけている。
深刻化する被害を受け、25年6月には「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」、通称・金属盗対策法が成立し、公布された。
警察庁によると、25年9月1日からは、正当な理由なく一定のケーブルカッターやボルトクリッパーを隠して持ち歩く行為が禁止された。26年6月1日からは、主に銅でできた金属くずを買い取る業者に対し、営業の届け出や売却者の本人確認、取引記録の作成・保存などを求める制度も始まった。
規制の狙いは、犯行に使われる工具を取り締まるだけではない。盗んだ銅線を現金に換える「出口」をふさぐことにもある。
しかし、九条さんが犯行時期とみているのは、買い取り業者への規制が始まった後の26年6月末ごろだ。制度が動き出した直後とはいえ、今回の被害を防ぐことはできなかった。
「換金できなければ、盗む動機そのものがなくなります。盗む側を捕まえるのと同じくらい、盗品を換金できる『出口』、無許可の買い取り業者の取り締まりを徹底することが重要だと思います」
発電所側で取れる対策には、防犯カメラや遠隔監視装置の設置、フェンスの強化、機械警備の導入などがある。ただ、個人が運営する比較的小規模な発電所にとって、その費用負担は軽くない。広い敷地を死角なく監視することも難しい。
最近では、犯人が最初に監視カメラを壊すケースもあると聞いているという。発電事業者の間では、冗談とは思えない言葉まで交わされている。
「『監視カメラを監視する監視カメラが必要だ』という冗談のような話が、真顔で出ているほどです」
たとえ映像が残っても、必ず犯人の検挙につながるとは限らない。人けのない場所に置かれる設備だけに、個々の事業者による防犯には限界がある。
今回の復旧では、従来通り銅線で戻す方法に加え、転売価値の低いアルミケーブルへ置き換える案も検討している。
「盗んでも売れないものにする。それも現実的な自衛策の一つだと思っています」
九条さんは、盗難の影響は発電所の所有者だけにとどまらないと訴える。各地の太陽光発電設備は、日本の電力供給の一端を担っているからだ。
「その設備が『盗み放題』の状態に置かれれば、割を食うのは個々の事業者だけではありません。電気を使う社会全体です」
被害届を出しても、犯人が捕まる保証はない。それでも記録を残したのは、この被害を「なかったこと」にしないためだ。
「この問題が一過性のニュースで終わらず、社会全体で対策が進むきっかけになることを願っています」
九条さんが運営するブログ「投資でセミリタイアする九条日記」
https://www.kuzyofire.com/
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