【RIZIN】引退危機だった五輪銀メダリスト太田忍「格闘家として死んだ」 大怪我で握力10キロ台…明かした再起の理由

選手生命の危機に陥ったオリンピアンが、再起への一歩を踏み出した。2020年に総合格闘技へ転向した、リオ五輪レスリング銀メダリストの太田忍(32=THE BLACKBELT JAPAN)。昨年、右手の握力が10キロ台にまで低下する大怪我に見舞われたが、今年5月に復帰し約2年ぶりの勝利を収めた。再びタイトル戦線浮上へ、復活を期す男の現在地に迫った。

復活を誓った太田忍【写真:ENCOUNT編集部】
復活を誓った太田忍【写真:ENCOUNT編集部】

首ヘルニアと膝の前十字靭帯損傷で長期離脱を強いられた

 選手生命の危機に陥ったオリンピアンが、再起への一歩を踏み出した。2020年に総合格闘技へ転向した、リオ五輪レスリング銀メダリストの太田忍(32=THE BLACKBELT JAPAN)。昨年、右手の握力が10キロ台にまで低下する大怪我に見舞われたが、今年5月に復帰し約2年ぶりの勝利を収めた。再びタイトル戦線浮上へ、復活を期す男の現在地に迫った。(取材・文=浜村祐仁)

「もう格闘技はできないと思った」。立ち消えかけたキャリアに再び光が差し込んだ。

 5月に神戸市で開催された「RIZIN.53」。太田は金太郎(33=ATT)を2RTKOで下し、崖っぷちの一戦を突破した。

「『強くなって戻ってきたね』って言ってもらえました。プレッシャーとかは本当になくて、(金太郎も)前戦で一本勝ちしてるし、向こうの方が上という感覚で。でも、負けたら立場が危うくなる試合だったから、試合内容にはこだわった。絶対フィニッシュしたかったです」

 所属ジムの仲間へ思いを込めていた。試合5日前、同門の平松翔がDEEPフライ級王座戦でカーフキックをカットされ開始10秒で負傷。試合後に救急搬送され、右足首の手術を余儀なくされた。直前には平良達郎もUFCタイトル戦で敗戦。チームには重い空気が漂っていた。

「平松に関しては直前まで一緒に仕上げていた。僕の一発目のインカーフは彼へのメッセージです。『大丈夫だぞ。俺は蹴るぞ』って。試合前から決めていました」

 2025年、キャリア最大の試練に見舞われた。5月に東京ドームで現王者ダニー・サバテロ(米国)に敗戦。「4万人の前で恥をかいた」と振り返った試合後、太田に異変が起きた。

「サバテロ戦後、フアン・アーチュレッタ(元RIZINバンタム級王者)のファイトキャンプに呼んでもらったんですよ。そこで誰かとドンってぶつかった時に首がめちゃくちゃ痺れて。『おかしいな』と思って、そこから力が全然入らなくなった」

 帰国後、RIZINから日本MMAのホープとの緊急オファーが届いた。しかし、体は限界だった。

5月に約2年ぶりの勝利をあげた【写真:(C)RIZIN FF】
5月に約2年ぶりの勝利をあげた【写真:(C)RIZIN FF】

21年の東京五輪は予選で敗退「まだ消化しきれていない」

 昨年7月に開催されたビッグイベント「超RIZIN.3」。当時19歳の新星・秋元強真は、対戦相手のカルシャガ・ダウトベック(カザフスタン)の直前での負傷によりカードが宙に浮いていた。

「ゴルフしていたら急に電話がかかってきて。『秋元とやんないか』と。当時は彼も駆け出しだったから負けないと思って『全然やります』と返事して。すぐにハーフで切り上げて、ジムで試合の強度で練習したら、『やっぱりなんか変だな』って。(握力を測ったら)左が50キロくらいあるのに、右が18、19とかになっていた」

 10歳児並みの握力に低下し、医師の診断は首のヘルニア。秋元との試合は立ち消え、11月のトレーニング復帰後には膝の前十字靭帯も損傷した。

「ヘルニアってこんなやばいんだって。そこから休んで11月に戻ってグラップリングをやったら今度は膝の前十字を損傷して。復帰して2週間とかでした」

 長期離脱を強いられ、今年2月まで練習すらできない日々。体重は81キロにまで増えていた。それでも太田の気持ちは折れなかった。

「仲間が試合をしていたし、ジムに行ったらみんながキラキラした目でやっていた。やっぱ『いいな』って思えた」

「僕には支えてくれている人がいる。格闘家としては一回死んだ、終わったと思って。それでも『まだいける』と言ってくれる人に応えたいと覚悟が決まりました」

 胸にあるのはレスリング時代の未練の思いだ。16年リオ五輪で銀メダルを獲得し、19年には世界選手権を制覇。しかし、満を持して迎えたその年の東京五輪予選で、まさかの初戦敗退を喫した。日本での五輪出場は夢と散り、これがキャリア最終戦となった。

「東京オリンピックで金メダルを取って最高に輝く予定だった。でも、僕は予選で負けて出ることすらできなかった。あの年をまだ消化しきれていないんです」

 叶わなかった夢をMMAの舞台で追い続けている。7月には、キルギス人ファイターのイリスベク・ティレノフと対戦が決定。フェザー級王者ラジャブアリ・シェイドゥラエフが送り込んだ未知の強豪との一戦も、太田に恐怖心はない。

「レスリング時代、ガンガンやっててあの辺(旧ソビエト連邦諸国)に対して全然怖さはない。むしろ日本人だとあれだけど、別に外国人だったらぶっ壊しに行っても全然干されないでしょ(笑)。振り切っていけるんで」

 総合格闘家として6年目。目標はまだ先にある。

「RIZINのチャンピオンになって、世界から来る強豪を迎え撃ちたい。しっかり戦ってUFCからオファーをもらってトップを目指したいですね」

 どん底を味わったことで新たな自分が見えてきた。その目は決して死んでいない。バンタム級の最後尾から、32歳の逆襲の物語が始まった。

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