「完全駆除は不可能」ゴキブリに悩む飲食業界に革命 銀座の百貨店で見た光景に「今でも忘れられない」
不快害虫の王様として名高いゴキブリ、そんな誰もが嫌がる害虫駆除を「誇りある、かっこいい仕事」とするため、業界のイメージ向上に励む経営者がいる。創業29年のゴキブリ駆除専門業者「クリーンライフ」の大野宗社長は、レーシングドライバーを目指し桃の露天商から事業を始め、ゴキブリ駆除で一旗上げて念願のレースの世界に返り咲いたという異色の経歴の持ち主だ。完全駆除は不可能といわれたゴキブリ駆除に革命を起こし、完全駆除成功率は驚異の99%以上。業界の異端児とも呼ばれる“ゴキブリ社長”に、創業の経緯と独自の経営哲学を聞いた。

プロのレーシングドライバーを目指し、「桃の露天商」から事業を開始
不快害虫の王様として名高いゴキブリ、そんな誰もが嫌がる害虫駆除を「誇りある、かっこいい仕事」とするため、業界のイメージ向上に励む経営者がいる。創業29年のゴキブリ駆除専門業者「クリーンライフ」の大野宗社長は、レーシングドライバーを目指し桃の露天商から事業を始め、ゴキブリ駆除で一旗上げて念願のレースの世界に返り咲いたという異色の経歴の持ち主だ。完全駆除は不可能といわれたゴキブリ駆除に革命を起こし、完全駆除成功率は驚異の99%以上。業界の異端児とも呼ばれる“ゴキブリ社長”に、創業の経緯と独自の経営哲学を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
大阪生まれの大野社長が「商売の面白さ」に目覚めたのは、プロのレーシングドライバーに憧れを抱き、鈴鹿サーキットに通い詰めいていた大学生のとき。レースに出場するには自前のマシンが必要だが、何の実績もない若者にスポンサーがつくワケもない。あるとき、仲良くなった年配レーサーから「俺はもうやめるから、そんなに興味があるなら俺のマシンを譲ってやるよ」と声をかけられ、何とか夏休み中に大金を集める方法がないかと模索していた。
「当時のバイト代は時給400円、それでは到底追いつかない。何かいい商売はないか調べていると、山梨の桃が毎日10トントラックで大阪に運ばれていると知った。すぐに軽トラを借りて仕入れに行き、地図を見ながらあちこちの駅前で桃売りを始めたんです。看板に『もも 8個 500円』と書き、端に小さく『より』と記しておく。あらかじめ寄せておいたおいしい桃を試食させて、お客さんがその気になったら『8個500円はこっちの小さいやつなんです、今食べたのはこっちの品種で7個900円』と。だいたい『うまいねえ』と言いながらも買ってくれる。1日の売上が20万円で、粗利にしても4~5万円。大卒の初任給が12万円という時代ですよ」
ときには「誰に断って商売しとるんじゃ」とヤクザに絡まれたこともあったというが、何とか夏休みいっぱいでマシン代を稼ぎきり、露天商からは身を引いた。レースに出場するにも金がかかるため、今度はジャズ喫茶でアルバイトの日々。そこで、後に人生をささげることになる“あの虫”との出会いを果たす。
「とにかくものすごくゴキブリが多くて。上から中華鍋の中に落ちて一瞬で揚げ物になったこともありました。肝心のレースの方は、(元F1レーサーの)片山右京さんがフォーミュラジュニア1600のときの同期で、あまりの実力差に打ちのめされて……。結局はサラリーマンとして就職したんですが、月給が桃3日分の粗利にも満たないことにがく然とする日々でした」
ある日、仕事帰りに立ち寄った本屋のビジネスコーナーで、一冊の本が目に留まった。「クリーム状の薬剤を使って飲食店からゴキブリをゼロにする方法がある」。脳裏にあのジャズ喫茶の厨房がよみがえる。興味を持った大野社長は、本に記載されていた東京の駆除業者のもとに何度も足を運んだ。あるとき、銀座の大型百貨店での駆除案件に同行。そこで目にした光景は、「今でも忘れられない」という。
「デパートの飲食フロアが閉店した瞬間、3店舗の店長が一斉に駆け寄ってきて『本当に1匹もいなくなりました! ありがとうございました!』と深々と頭を下げたんです。こんなに感謝される、人様の役に立つ仕事なんだと。脱サラを決意した瞬間でした」
13年勤めた会社を退職。当初は業界大手へのフランチャイズ加盟を検討したが、完全駆除を目標に掲げたところ、当時の担当部長から「いいか? ゴキブリなんてもんはな、少しくらい残しておかないと仕事がなくなるんや」と一蹴された。「それは違う」。あくまでも完全駆除にこだわり、自営業として独立。業界の常識を覆す「年2回作業・完全駆除保証」というビジネスモデルを打ち立てた。

“ゴキブリ駆除の業界革命” 完全駆除成功率99.52%という圧倒的な顧客満足度を実現
小規模店舗の場合、通常、駆除業者は年間5~6万円の契約料で月1回、年12~13回の駆除作業を行う。年間契約のため、1回の作業で完全駆除を目指す必要がなく、1回あたり5000円の費用ではそもそも長い作業時間をかけることもできない。一方、クリーンライフの作業回数は年間わずか2回。「年2回に絞り、1回3万円の費用をかければ、一晩かけてゴキブリのコロニーを根絶できる。逆に、完全駆除ができなければ何回でも通わないといけない。完全駆除を目指すことが利益を生み出すという逆転の発想なんです」と大野社長は言う。
“ゴキブリ駆除の業界革命”と言われるこの短期集中型モデルにより、同社は完全駆除成功率99.52%、契約更新率97.9%という圧倒的な顧客満足度を実現。業界内では後発の存在ながら、契約数は全国2300店舗に上り、国内に800店舗以上を展開する大手飲食チェーンやグループ店舗数300店以上という大手居酒屋チェーンなど、多数の大型契約を結んでいる。昨年からは業界初の試みとなる全額返金保証サービスを導入。完全駆除への絶対的な自信を強みに業界をけん引している。
社員数はわずか21人。これだけの規模で完全駆除を実現できる理由について、大野社長は「一番大事なのは強力な薬剤でも高度な駆除技術でもなく、社員一人ひとりのマインド」とその経営哲学を説く。
「完全駆除率99%というと、よく『どんな薬を使ってるんですか?』『どんな施工をしてるんですか?』と聞かれるんですが、大切なのは作業するスタッフのモチベーション。閉店後の深夜に、暗い店舗の厨房で1人黙々と作業することも多い仕事。誰も見ていないと思うと、必ず手を抜くのが人間です。かといって、能力給にすると『自分さえよければいい』という考えで会社は育たない」
同社では、あえて能力給や売り上げ至上主義を排し、ボーナス評価の5割を経営方針への理解や同僚との協力といった「仕事への姿勢」で査定。さらに営業マンと現場の作業員を分ける分業制を廃止、1人の社員が契約交渉から現場作業、顧客への報告までを一貫で担う「担当制」を採用した。
「分業制は効率がいいですが、それでは責任感は育たない。本部の部長さんの顔が浮かぶから、隅々まで丁寧にやろうという意識が生まれる。何よりも、自分の仕事に誇りと責任を持ち、人に自慢できるような会社じゃないと長くは続かない」
ゴキブリ駆除という職種のブランディングにも力を入れ、イメージアップのための書籍出版や漫画制作、YouTubeチャンネルの運営など、メディアにも積極的に露出。オフィスを構える本社ビルは日本の建物100選に選ばれた建築美が自慢だ。
自身も駆除で得た資金を元手に、念願のレーシングドライバーにカムバック。国際C級ライセンスを持ち、2024年にはシリーズチャンピオンとして100万円の賞金を獲得、昨年までレースの世界に身を置き、若かりし日の夢をかなえた。「ゴキブリ駆除は誇りある、かっこいい仕事なんだと伝えたい」。たった21人で、全国2300店舗の食の安全を守る。どこかの店舗で今日も人知れず、影のヒーローは闘っているのだ。
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