67歳ロッシー小川の尽きない情熱、ジュリアを「絶対成功させないといけない」と語るワケ Sareee戦の行方にも言及
マリーゴールドの両国国技館大会が13日、開催される。5月20日に後楽園ホールで旗揚げを果たしたばかりの新団体が、早くも天王山を迎えるのだ。しかもそれに御年67歳になるロッシー小川代表が挑戦するのだから驚きを隠せない。注目は令和女子プロレス界にとって最大のキラーカード、ジュリア―Sareee戦がどうなるのか。というのも旗揚げ戦でジュリアがまさかの右手首を負傷してしまったため、週明けに最終判断が行われる方向だ。その点を含め、小川代表に話を聞いた。
どんなアクシデントが起きても、好転させていく
マリーゴールドの両国国技館大会が13日、開催される。5月20日に後楽園ホールで旗揚げを果たしたばかりの新団体が、早くも天王山を迎えるのだ。しかもそれに御年67歳になるロッシー小川代表が挑戦するのだから驚きを隠せない。注目は令和女子プロレス界にとって最大のキラーカード、ジュリア―Sareee戦がどうなるのか。というのも旗揚げ戦でジュリアがまさかの右手首を負傷してしまったため、週明けに最終判断が行われる方向だ。その点を含め、小川代表に話を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「興行的には想定以上ですね。最初に考えた時より(反響・売上は)上を行っていますよ。もちろんジュリアの怪我は想定外だけど、でもいなきゃいなきゃで、どうにかなるとは常に思っているし。誰か別の人が出てくればいいから、あんまり驚いたりはしないです。だから誰が欠場しようが驚かないですね」
旗揚げからひと月を過ぎた段階で新団体マリーゴールドのロッシー小川代表の言葉だ。さすがは業界歴47年の大ベテランには、さまざまな苦境を乗り越えてきた“凄み”がある。
「このケースはこうしようとか今までの経験があるから、対戦カードが変わることも全然驚かないですよ。もし間に合わなかったら間に合わなかったで考えるだけだから。それは常に考えていますよ、これができなかったらどうしようって。代替えをどうしようとか」
こう話した小川代表からすれば、もしもジュリア―Sareeeが実現できなくとも、とりたてて慌てる様子はない。
「そうですね。ジュリアにかかわらず。それはその時になってみないと分からないこともあるんだけど、怪我したんだったら想定はしとかないといけないのかなって」
とはいえ旗揚げ前は、当然、マリーゴールドはジュリアが引っ張っていかないといけない団体のはずだった。
「ジュリアみたいな意識の高い人間はそうそういないけど、他に誰か出てくればいいなってね。ただ、ジュリアみたいに周りの人を巻き込んで行こうっていう人間はあまりいないけどね。割と今の選手って、自分が良ければいいみたいなところがあるじゃないですか」
実際、ジュリアは今回、マリーゴールドに参加したことについて、「あの爺さんの話を聞いていると面白い」と話してくれたことがある。
「とにかく我々はどんなアクシデントが起きても、好転させていくのが仕事なので、そういう経験がいっぱいあるんですよ。その時々で判断ができる経験を持っているので、それが今の人にはないものがあるんじゃないですか? フロントでも……、いや、今は運営って言うんですけど。自分の考え方は古いといえば古いんですけど、例えばボクシングジムの会長は、選手のことを自分の子どものように思って育てるじゃないですか。昔の芸能プロダクションも、これからスターになる子を、自分の自宅に下宿させて育てたりとか。だから手塩にかけて育てるっていうのが昔からの育て方だったけど、今はそうじゃない。個人主義だから。だけど、ジュリアに限らず、そういう人の中にいたら、自分の話は面白いと思いますよ。やっぱり形式ばっている人の話は面白くないじゃないですか」
ジュリアは北斗晶に似たところがある
そうやって、いわば家族ぐるみの付き合いをしながら、同じ釜の飯を囲んできたからこそ、マリーゴールドにジュリアが参加したのだろう。
「今のサラリーマン的に仕事が終わったらすぐ帰りますとかね。例えば地方に行ってもコンビニで済ませます、じゃなくて、みんなで飲んで食べて語り合いましょう、みたいな。古いと言われれば古いかもしれないし、今の時代に生きている人には合わないかもしれない」
そんな話を小川代表から耳にした直後、驚きのSNSが公開された。
2日、小川代表がスターダムの岩谷麻優とツーショット写真を自身のXにポストしたのだ。そこには「別に他意はない。昔からの親子関係の延長上に過ぎないのだ」とあり、その後、岩谷も「久しぶりに岩谷麻優の親に会えたー。お互い、今いるお互いのリングでもっと頑張りましょう!! 今も頑張ってるけど、もっと頑張ろって思えた、そんな再会でした。長生きしてねー!」と投稿している。ここにも家族的な付き合いをしながら岩谷を育ててきたことがうかがえた。それは業界歴47年を経て、小川代表がたどり着いた、最適な選手の育て方だったに違いない。
「じゃないと血の通った人間を育てていくのは難しい。それがなくていいのは、それなりのお金を支給できる場合。そうじゃなければ、右向け右はできないじゃないですか」
前述通り、47年の業界歴を持つ小川代表は、過去に様々な選手を見てきた。では、たとえばジュリアは、過去の名選手では誰を思わせるのか。
「うーん……、タイプは違うけど、北斗に近いところはありますよね。北斗は割と周りに気を使うタイプだったから。気配りをするタイプ。表現方法は違いますけどね。ただ、当時の北斗は絶対的な位置にいたんですよ。今のジュリアはまだそこには行っていないので。だから他の団体からすれば、なんだあいつ、みたいなところだと思う。でも、ジュリアはここ数年で一番名前を上げたんですよ。それを他団体の先輩たちは認められないだろうと思う。認めなきゃいけないんだけどね。(女子プロレスには)そういう上下関係がいまだにある。よく、先輩・後輩、キャリアとか言うけど、キャリアっていうのは、上でどれだけやってきたかがキャリアなんですよ。下積みを10年やっていたことはキャリアにはならない。だったら上で3か月やったほうがキャリアなんですよ」
だからこそ、小川代表は「いくら先輩だっていっても偉くない」と話す。
北斗VS神取はイビツな試合だった
「いまだに女子プロレス界は年功序列的なところがある。でも、リングの上は違う。リングの上にまでそれを持ち込まれたらたまったもんじゃない。リングを降りたら最低限、後輩は先輩を敬っていかなきゃいけないっていうのは大事だと思うけど、ホント飛び級でいかないとダメなんですよ。だって野球でもなんでも飛び級じゃないですか。苦労して上がった人なんかいないですよ。そういう世界だと思いますけど、いつしかプロレスでもそれができなくなってきた部分がある」
また、ジュリアは“デンジャラス・クイーン”と呼ばれているが、これは北斗晶から受け継いだものでもある。
そして北斗と言えば、90年代の団体対抗戦の際にあった神取忍との激闘は忘れることができない。
「北斗VS神取はイビツな試合でしたね。その当時は、なんでこうなっちゃったのかなって。北斗はいつも泣いていたんですよ、神取との試合の後に。自分の思った通りにできないから。彼女はスイングするプロレスをやりたかったんだけど、神取とはスイングしないんですよ。一方通行のプロレスになっちゃう。だから神取は北斗の放つ打撃やキックをモロに食ってしまう。受け方がよくわかってなかったから。でも、そこに変なリアリティーがあった。その代わりスイングはしないんですよ」
そこにプロレスの難しさがある。しかも今となっては、おそらく放送コードを超えていて、地上波では流せない試合のひとつだろう。
「ただ、北斗VS神取は語られる試合ではありましたね。やっぱりいくらすごい試合でも、語れない試合ってある。それは観る人の好みっていうか、100%はないので。絶対にこれが正しい試合ってないけど。だけど北斗的には悩んでいましたよね、神取忍とやることに対して」
そんな小川代表がジュリアの飛び級を見守り、さらに飛び級してほしいと願っているのには理由がある。
「ジュリアは前の団体(アイスリボン)から(2019年にスターダムに)お騒がせな移籍をしてきた。でも、その時に思ったのは、これからジュリアみたいな人が増えていくんだろうなと思ったんですよ。っていうことはジュリアが成功しなければ、その道は開けないと。もし成功しないと、いろんなところから集まってくることが不可能になってしまう。だからジュリアは絶対に成功させなきゃいけない、っていうものがありましたよね」
果たして予定通りに令和女子プロレス最大のキラーカード、ジュリア―Sareeeは実現するのか。もしジュリアが間に合わないのだとしたら、小川代表はどんな手を打ってくるのか。その一点だけを確認しに行くだけでもマリーゴールドを観に行く価値があるように思う。
いずれにしろ、小川代表が新団体をこのタイミングで立ち上げたことは、業界にとってこれ以上ない大きな波紋を投げかけた。ならば、その波紋がどこまで大きくなるのか……。しばらくはマリーゴールドから眼が離せないようだ。