プロレス初観戦から3か月後には練習生に…玖麗さやかがプロレスラーになった理由

プロレスを初めて観戦したのが2022年9月末、新人オーディションに応募したのが1週間後の10月頭、そして2か月後の12月には入門合格の通知が届く……こんなジェットコースターのような物語を歩んでいる新人レスラーがいる。玖麗(くらら)さやか(23)は、まったく未知の世界に自分の直感を信じて飛び込んだ。そして入門から1年弱、2023年12月25日にはプロレスラーとしてリングに立った。それまで油絵一辺倒でスポーツ経験もなかった彼女は、いかにしてプロレスラーになったのか。

期待の新人・玖麗さやかのデビュー戦は去年のクリスマスだった【写真提供:スターダム】
期待の新人・玖麗さやかのデビュー戦は去年のクリスマスだった【写真提供:スターダム】

2回目の生観戦の帰り道にオーディションに応募

 プロレスを初めて観戦したのが2022年9月末、新人オーディションに応募したのが1週間後の10月頭、そして2か月後の12月には入門合格の通知が届く……こんなジェットコースターのような物語を歩んでいる新人レスラーがいる。玖麗(くらら)さやか(23)は、まったく未知の世界に自分の直感を信じて飛び込んだ。そして入門から1年弱、2023年12月25日にはプロレスラーとしてリングに立った。それまで油絵一辺倒でスポーツ経験もなかった彼女は、いかにしてプロレスラーになったのか。(取材・文=橋場了吾)

 玖麗はデビューしてまだ3か月も経過していない。しかも、プロレスを初めて見てからも1年ちょっとしか経過していないのだ。

「5年前ですか、高校を卒業してすぐに上京してきました。もともとは東京の芸術系の大学を目指していて、浪人してしまったので予備校に入ろうと思って。油絵をずっと描いていて、今もiPadで絵を描くことはありますよ。予備校の学費を自分で払うためにアルバイトをしていた時期があるのですが、ほぼ居酒屋で毎日働いていました。そのときに、プロレスが好きなお客さんからチケットをもらったのがきっかけでスターダムを見に行ったんです」

 そのときにあったプロレスの知識は「アントニオ猪木さんが政治家になったことがある」くらい。ほぼゼロといっていい。

「プロレスや格闘技は、怖くて見ることができなかったんです。ただ生観戦する前にYouTubeでスターダムの動画を見たら、綺麗な人たちが可愛いコスチュームで戦っていることに興味を持ちました。初めて生で見たのはベルサール高田馬場(2022年9月24日)ですね。リングの衝撃音が大きくて、生身の人間にこんなことしていいのかと……かなり衝撃を受けたんですが、逆にすごく感動している自分もいて」

 この生観戦の後、またすぐにプロレスを見たくなった玖麗は1週間後の10月1日に行われた、武蔵野の森総合スポーツプラザ・メインアリーナ大会のチケットを購入する。

「会場も大きくて演出も凄くて……ちょっと不純な動機かもしれないですが、この会場の真ん中に立ったらめちゃくちゃ気持ちいいだろうなと(笑)。どの試合も感動して、特にメインのジュリアさんと(中野)たむさんの5★STAR GPの決勝戦を見て感動しすぎて「今、私がやることはこれかも……私もプロレスをやりたい!」と思い、帰り道に『スターダム 入門 仕方』と調べて出てきたシンデレラオーディション(当時開催されていたスターダムの新人オーディション)に応募しました」

 プロレスを生観戦した1週間後にはオーディションに応募していた玖麗は、書類審査を突破し、本審査に挑むことになる。

「(本審査では)筋トレや回転運動、自己PRをしました。スポーツは体育の授業以外は特にやっていなかったので、自己PRを頑張ろうと思って、フリップみたいなものを作っていったんです。そのフリップは道場の2階に置いておいたのですが、1階で自己PRの時間がすぐに来てしまって……結局フリップを出すことなく終わりました(笑)。でもせっかく作ったので、帰り際に自画像を描いたものは見てもらって……帰りに全部捨ててしまいましたが」

笑顔でインタビューに応える玖麗さやか【写真:橋場了吾】
笑顔でインタビューに応える玖麗さやか【写真:橋場了吾】

運動経験なし、プロレスの知識なし、でも自分を信じた練習生時代

 結果、12月に合格通知があり晴れてスターダムに入門することになった玖麗。

「(練習は)もうめちゃくちゃきつかったです。運動経験もない、プロレスの知識もない……周りの練習生と差がありました。同時期に入った弓月は柔道を経験していて、(八神)蘭奈ちゃんも空手をずっとやっていて、プロレスが大好きで入ってきた子がいる中で、ロックアップも知らないわけですよ。しかも筆しか持ったことがないので筋肉もない(笑)。周りとの差を縮めていくよりも、どれだけ置いていかれないようにするか。でも、油絵を描いていたほかに、これに人生を賭けようと思ったことがほとんどなくて。一生絵を描いて暮らそうかなと思っていたところに、プロレスを見つけたんです。自分から始めたことというのもあるんですが、負けず嫌いなので、ここできついからといって辞めてしまったら、自分に負けたような気がして。あとはなぜか根拠のない自信があって、自分がプロレスラーになれない未来が見えなかったんです。うまくいく想像しかしないようにしていたのかもしれないですけど」

 そして入門から1年弱、2023年12月25日の品川インターシティホール大会のvs上谷沙弥戦でデビューすることになる。

「試合中の記憶はほとんどないです。ただ、入場したときはここからは何が起こってもお客さんに見られているんだなと。花道で転んでも、デビュー戦で何もできなくて泣いちゃっても、全部お客さんの記憶になるんだと思うと震えが来ました。リングでコールされたときも、何も見ることもできず……ただ空間を見ているだけでした。最初は(緊張で)お客さんの声も全然聞こえなかったんですが、試合終盤で自分が苦しい状況になっているときの声援は聞こえてきて、今ここで自分がダメになったらせっかく応援してくれた人たちを裏切ってしまうと思いました」

 結果、顔面にキックを食らい、頭から叩き落されるスタークラッシャーで万事休す。

「試合が終わったあとは、苦しいし痛いし。でも自分がすごく生き生きしていると感じました。全力で感情も何もかも出しまくって、ボコボコにされたのに、気持ちいいというか爽快感がありましたね」

(8日掲載の後編へ続く)

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