おしっこの量で他人とバトル…幻のゲーム「トイレッツ」誕生秘話 空前のヒットも5年で廃番のワケ
おしっこをどこまで遠く飛ばせるか、雪の上にどんな絵を描けるか……。遠い昔、そんな遊びに興じた男性は多いだろう。男子トイレ。それは男が異性の目を気にすることなく、唯一童心に帰れる場所と言ってもいいかもしれない。かつてそんな男子トイレを舞台に、他人とおしっこの量で競い合うという狂気のゲームが存在した。2011年にリリースされ、絶大な人気を集めながらもわずか5年で販売終了、21年には完全にサービスを終了した幻のゲーム「トイレッツ」の開発秘話に迫った。

男子トイレの小便器に取り付け、おしっこの量やスピードを計測し、赤の他人とバトル
おしっこをどこまで遠く飛ばせるか、雪の上にどんな絵を描けるか……。遠い昔、そんな遊びに興じた男性は多いだろう。男子トイレ。それは男が異性の目を気にすることなく、唯一童心に帰れる場所と言ってもいいかもしれない。かつてそんな男子トイレを舞台に、他人とおしっこの量で競い合うという狂気のゲームが存在した。2011年にリリースされ、絶大な人気を集めながらもわずか5年で販売終了、21年には完全にサービスを終了した幻のゲーム「トイレッツ」の開発秘話に迫った。(取材・文=佐藤佑輔)
男子トイレの小便器に取り付け、おしっこの量やスピードを計測し、赤の他人とのバトルを体験できる。セガが開発した異色のゲーム機「トイレッツ」は、居酒屋やゲームセンターを中心に全国各地に設置され、累計1000台近くを販売するヒット商品となった。開発に5年を要したというこのプロダクトは、どのようにして生まれたのか。トイレッツ開発者で、現在はセガの技術統括室で新技術の応用開発を担う十文字新さんは、企画を立ち上げた20年前を振り返る。
「当時、アーケードゲームを作る部門にいて、ゲームセンターにどんなゲームがあれば面白いかを考えるなかで、ゲーセンならトイレも面白い方がいいんじゃないか? と思いついたのがきっかけです。『セガのゲーセンはトイレまで面白い』をコンセプトにしたプレゼンが社内で高く評価され、開発まではトントン拍子に進んだんですが、そこから予算をつけるのは大変でした」
当時、新規事業部でトイレッツのプロジェクトを推進した江口秀明さんが話を継ぐ。
「発想は面白くても、事業としてのハードルは高かった。アーケードゲームや家庭用ゲーム機の販路はあっても、トイレ専用ゲームというのは前代未聞。面白いものを作ってもどこに売ればいいのか、役員会議では『本当に売れるのか』と厳しく追及され、プロジェクト化にたどり着くまでに2年ほどかかりました。どうやって売るかというビジネス的なハードルと、おしっこの計測という技術的なハードルが立ちはだかったんです」
このうち、おしっこの計測には野球で用いられるスピードガンの技術を応用。ドップラーセンサーと呼ばれる動体センサーからマイクロ波を射出、物体に当たり反射したものを感知することで、おしっこのスピードや量を計測することに成功した。
「ただ、おしっこの射出位置や角度、軌道には個人差も大きい。中には(背が)極端に大きい人や小さい人もいます。開発部のメンバーも、1日に何度もおしっこはできないので、ペットボトルに穴を開けて押し出した水の勢いで何度も計測を繰り返しました。完全に透明だと反応しないので、水に色をつけたり、大手トイレメーカーのトイレに設置できるよう規格を合わせたり……試行錯誤の連続でした」(十文字さん)
一方、江口さんも販路開拓に向けて必死に知恵を絞りだしたという。
「居酒屋やアミューズメント施設など、置いてくれそうな業態に片っ端から売り込みをかけました。当時はデジタルサイネージ(ディスプレイやプロジェクターを用いて映像や文字を表示する電子看板)が世に出始めたころ。おしっこでパネルをめくって広告を表示させるゲーム、居酒屋の隠しメニューが見られるゲーム、10円を入れることでその店で一番強い番長に挑戦できるベストスコアランキングなど、ゲームとして買ってもらうためにさまざまな機能も追加しました」

空前の大ヒットも、発売から5年後の2016年に販売終了
開発と売り込み、両者の努力は結実し、トイレッツはゲームセンターのみならず、大手居酒屋チェーン「養老乃瀧」のグループ店舗や、パチンコ店、カラオケ、ネットカフェ、果てはカナダのGoogleオフィスなど、さまざまな場所に設置された。泌尿器科協会から問い合わせを受け、頻尿測定への活用として一部病院へ導入された事例もあったという。価格は1台14~16万円で、累計販売台数は約1000台。新規事業としては他に類を見ない大成功を収めた。居酒屋ではサラリーマンたちが対抗心を燃やし、ビールをがぶ飲みして夜な夜な決闘に参戦。わざわざ両替して10円玉を積み重ね、リベンジに挑む猛者もいたという。
リリースは2011年の11月。東日本大震災の傷跡が生々しく残るなか、「おしっこのゲームなど不謹慎ではないか」といった批判も予想された。だが、宮城・気仙沼の復興屋台村に1台を寄贈したところ、被災地からは「暗い気持ちが明るくなった」と感謝の声が多数寄せられたという。「ちなみに、我々が把握している中での最高スコアが被災地の方で、たしか2.5リットルでした」(江口さん)。おしっこの勢いに連動して女の子のスカートをめくれるゲームなど「今のコンプライアンス基準では絶対に無理」(十文字さん)と苦笑する機能もあったが、大きな抗議やクレームに発展することはなく、男子トイレという閉鎖空間の中で認知度を高めていった。
ゲーム業界で一世を風靡(ふうび)したトイレッツだが、アミューズメントの枠を超えた他業態への広がりは難しく、単純なシステムだけに新作の開発も困難を極めた。リアルタイム対戦や女性版トイレッツ、スマートフォンのカメラ機能を使ったソーシャルゲーム企画も持ち上がったが、いずれも実現することはなく、発売から5年後の16年に販売終了、21年には保守対応を含めたすべてのサービスを終了した。ただ、現在も一部で稼働中の筐体が残っており、カルト的な人気を博しているという。
「ビジネス的にスケールできなかった。関わった身としては5年で終了というと短くも感じるが、事業という観点では妥当だったと思う」と江口さん。今はAIなどを活用した新技術の開発を担う十文字さんは「なかなか難しいんですよ、たまたま見かけて遊んで笑顔になれる製品って。本当にすごい発明品だったと思います。遊びを通じてトイレを清潔にするとか、場をポップにするとか、課題を決するというコンセプトもあって、トイレッツはなくなっても、その考え方やコンセプトは、今もセガグループ全体に受け継がれていると思う」と自負する。
トイレという社会や責任から解き放された空間で、見知らぬ者同士が童心に返って笑い合う。震災に沈んだ街には笑いをもたらした。世の中を明るくするのに、壮大な志などは要らない。時に人は、ただ一筋の放物線に救われるのだ。
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