出張先で妙な違和感、戻らない食欲 29歳で膵臓がん 家族を抱えて…「明るくポップ」に闘病記つづる理由

繁忙期の出張先で覚えた、妙な食欲不振が始まりだった。膵臓(すいぞう)がんステージ4。システムエンジニアの福積光一郎さんは2025年10月、29歳で余命1年という告知を受けた。4歳の長男を育てており、妻のお腹には第2子がいる。「家族のために」と抗がん剤治療に懸命に取り組んでいる。「明るく笑顔でいること」を大事にする闘病生活。SNSを通じて書き続けるのは、“ポップな闘病記”だ。「絶望的な状況でも前向きに闘っている姿を見せたい」と、がんと向き合っている。

膵臓がんと闘う福積光一郎さんにとって家族の存在が何よりの支えだ【写真:本人提供】
膵臓がんと闘う福積光一郎さんにとって家族の存在が何よりの支えだ【写真:本人提供】

「尿管結石の疑いがある」から精密検査で判明 家族3人で受けた告知

 繁忙期の出張先で覚えた、妙な食欲不振が始まりだった。膵臓(すいぞう)がんステージ4。システムエンジニアの福積光一郎さんは2025年10月、29歳で余命1年という告知を受けた。4歳の長男を育てており、妻のお腹には第2子がいる。「家族のために」と抗がん剤治療に懸命に取り組んでいる。「明るく笑顔でいること」を大事にする闘病生活。SNSを通じて書き続けるのは、“ポップな闘病記”だ。「絶望的な状況でも前向きに闘っている姿を見せたい」と、がんと向き合っている。(取材・文=吉原知也)

 全国出張で多忙な日々を送っていた福積さん。昨年6月、出張で北海道に来ていた。朝、目が覚めると胃のあたりにムカムカした違和感。食欲がまったくわかない。その日は食べられなかったが、「出張疲れかな」とさほど気にしなかった。

 ところが、そこから食欲が戻らなくなった。少し食べ物を口にすればすぐに満腹になる。どこかが痛いといった自覚症状は特になかった。体重だけが減っていった。「ストレスかなと思いつつ、食べ過ぎて太っていたので、これはいいダイエットになったわという感覚で、しばらく放っておきました」。

 その出張から帰ってほどなくして、うれしいサプライズが待っていた。妻が第2子の妊娠を告げてくれたのだ。声を上げて喜んだ。生まれてくる子どものためにもっと頑張ろうと、その後も出張のハードワークをこなしていった。倦怠(けんたい)感などの体調の異変は気になりつつも、まだどこかひとごとのように感じていた。

 9月末、事態は急変する。激しい腰痛で倒れたのだ。病院に行くと「尿管結石の疑いがある」。泌尿器科を受診すると、担当医の表情が深刻なものに変わった。大きい病院での検査を促され、腫瘍があることが判明した。10月になって最終的に家族3人で告知を受けた。空元気もあったが、妻とは「がんじゃないでしょ、大丈夫でしょ」と話していた。しかし、医師からの言葉は重かった。「膵臓のがんで、転移もあります。手術はできない状態です」。がんであることを突き付けられた。思わず聞いた。「それって、結構死んじゃうやつですか?」。医師の答えは短かった。「厳しいですね」。隣に座っていた妻は固まっていた。

 余命についても自ら医師に尋ねた。「膵臓がんが発覚した時点から、『大体1年ぐらいではないか。もっと長く生きられるかもしれないし、もっと早いかもしれない』と言われました。また、膵臓がんステージ4の5年生存率は1%前後と聞きました。この生存率に入るために死ぬ気で生きようと決心しました」。

 すぐにでも抗がん剤治療を始めるはずだったが、思わぬ事態が重なった。「虫垂炎を併発していて、まず外科手術になって、その後から抗がん剤治療が始まりました」。抗がん剤の副作用はつらいものがあるといい、「めちゃくちゃ飲んだ次の日の二日酔いみたいな感じです。気持ち悪い、しんどい。そのままベッドで寝ている形になってしまいます」。

 治療の目標。「抗がん剤がうまくいって、転移の状況が改善して、がん本体がもうちょっと小さくなれば、手術の可能性が出てくると聞いています。生存の道、目指すはそこです」と力を込める。今後は治療を強化するため札幌での通院も視野に入れているという。

「絶望的な状況でも前向きに」と闘病生活を送る【写真:本人提供】
「絶望的な状況でも前向きに」と闘病生活を送る【写真:本人提供】

妻と4歳の長男、生まれくる長女、愛犬のために

 働き盛りの20代、30代の闘病。金銭面の課題が出てくる。福積さんは現在休職中で、働いている妻も産休中だが、救いになったのが、がん保険だった。「偶然と言いますか、ちゃんとしっかり入っていたので、治療費など今のところ経済的には乗り切れています。若いから大丈夫と思わずに、保険は絶対入っておいたほうがいいと思っています」。

 福積さんはXやnoteを通じて、自身の半生や闘病の日々を発信している。noteでは「何気ない普通の日を過ごすために。私は苦しみ、痛み、恐怖と闘っていきます。さぁ!皆さんも負けちゃダメですよ」と、闘病中の人たちに向けて語りかけるように記している。闘病記をつづるnoteの全体的なトーンは「明るくポップに書いています」。インタビュー取材中、何度も笑い声で語る場面があった。なぜ笑顔でいられるのか。

「無理やり明るくしているわけではありません。こんな絶望的な状況でも前向きに闘っている姿を見せることで、同じようにつらい状況に陥っている人に、“一緒に闘っているよ”というメッセージが伝わればと思っています」

 SNS発信が自分自身の力にもなっているという。「僕の発信を読んでくれた方々が応援の言葉を寄せてくれます。それが僕にとって闘う力になっています」。

 6月に福積さんは30歳になる。妻と4歳の長男、生まれくる長女、そして愛犬のために、余命宣告に屈しない毎日を送っている。社会人1年目の時に出会った妻は努めて笑顔でサポートしてくれる。長男は、福積さんが抗がん剤の影響でつらそうに寝ていると、早朝から背中をさすってくれる。家族の支えに涙で感謝しながら、一日一日を大切に過ごしている。

「努力しても無理だと諦めるのではなく、希望を信じたいです。恐怖におびえて落ち込むより、希望の未来を信じるほうが、生きるエネルギーになるはずです。何よりがんと闘うことができます。明るく元気に、自分の未来を信じる。僕の生きる姿を伝えていきたいです」と力強く語った。

次のページへ (2/2) 【写真】膵臓がんステージ4の治療を続けながらの生活、実際の様子
1 2
あなたの“気になる”を教えてください