『女神転生』仲魔システム誕生の秘密 「なぜゴブリンと話せないのか」の疑問がきっかけに

RPGの金字塔『女神転生』シリーズ。敵を仲間にする、配合/合体させるという発想は、いまや多くのゲームの当たり前となっている。しかし、その原点とも言えるのが、『女神転生』の「仲魔」「悪魔合体」システムだ。当時としてはあまりに斬新だったこのアイデアは、いかにして生まれたのか。シリーズの生みの親であるゲームクリエイター・鈴木一也氏によると、TRPG(テーブルトークRPG)での素朴な疑問と、ファンタジー世界への深い洞察にあった。異端の発想がゲーム史を変えた、その誕生の秘密に迫る。

インタビューに応じた鈴木一也氏【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた鈴木一也氏【写真:ENCOUNT編集部】

「ゴブリンと話せない?」すべての始まりとなったTRPGへの疑問

 RPGの金字塔『女神転生』シリーズ。敵を仲間にする、配合/合体させるという発想は、いまや多くのゲームの当たり前となっている。しかし、その原点とも言えるのが、『女神転生』の「仲魔」「悪魔合体」システムだ。当時としてはあまりに斬新だったこのアイデアは、いかにして生まれたのか。シリーズの生みの親であるゲームクリエイター・鈴木一也氏によると、TRPG(テーブルトークRPG)での素朴な疑問と、ファンタジー世界への深い洞察にあった。異端の発想がゲーム史を変えた、その誕生の秘密に迫る。(取材・文=関口大起)

「TRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を遊んでいたとき、ずっと疑問だったんです。『なんでゴブリンと話せないんだ?』って」

『女神転生』の根幹をなす「会話」システムの着想について尋ねると、鈴木氏はそう言って笑った。すべての始まりは、コンピュータゲーム以前、紙とペン、サイコロで遊ぶTRPGの世界にあったという。

「だって、ゴブリンって知性があるじゃないですか。言葉をしゃべるし、社会も形成している。それなのに、ダンジョンで出会ったら問答無用で斬り殺すしかない。それがすごく嫌だったんです」

 ファンタジー作品に登場するゴブリンやオークといったモンスターは、しばしば徒党を組み、独自の言語や文化を持つ知的な存在として描かれる。しかし、多くのRPGにおいて、彼らはプレイヤーが経験値やゴールドを得るための「障害物」でしかない。そこには「敵は倒すもの」というゲームデザインの前提があった。鈴木氏は、それそのものに疑問を抱いたのだ。

「ゲームマスターに『ゴブリンと話したい』って言ったんです。そうしたらルールブックをバーッと読んで、『そんなことは書いてないからダメだ』って。だったら自分でルールを作ってしまえ! そんな思いが『女神転生』の会話システムの原点ですね」

 この「キャラクターと対話したい」という純粋な欲求こそが、後のゲーム史に大きな影響を与える革新的なシステムの萌芽だった。もしゲームマスターがその場で即興のルールを作って対話を許可していたら、今もなお愛される『女神転生』は生まれなかったかもしれない。ルールがないなら自分で作る。その反骨精神とクリエイティビティーは、ウォー・シミュレーションゲーム専門誌『SIMULATOR』を創刊し、自ら編集長を務めた経験にも通じている。鈴木氏は単なるプレイヤーに留まらず、常にゲームの世界そのものを構築する側、ルールを作る側であろうとしていたのだ。

「神様も悪魔も一緒くた」悪魔合体のコンセプト

 敵と会話し、仲間に引き入れる「仲魔」システム。そのアイデアを発展させ、『女神転生』を唯一無二の存在へと昇華させたのが「悪魔合体」システムだ。

「仲魔システムを思いついてディレクターに話したら、『いいね! でもまだそれだけじゃ弱いね』という反応でした。じゃあもう少し時間をくれと、3日後くらいかな、お風呂に浸かっているときに『あぁ合体だ』とひらめいたんです。まさに、入浴中に『エウレカ!』と叫んで飛び出したアルキメデスですね。小学生時代から愛読していた漫画『デビルマン』の影響があると思います。そのあとは、じゃあどうやって合体させようか、種族やレベルを使ってうまくシステムが組めるな……と」

 やりたい仕事に情熱を注ぎ、独自のアイデアも盛り込んだ。そうしてついにリリースされたファミリーコンピュータ用ソフト『デジタル・デビル物語 女神転生』。一気に人気に火がついた……と思ったが、意外にもそうではなかったようだ。

「当時のゲーム業界の勢いはすごくて、『女神転生』を発売したナムコさんなんかだと、少数精鋭のスタッフが3か月くらいで作ったゲームが100万本売れた時代です。そんな中、『女神転生』は制作も大人数で、しかも期間が1年以上かかって30万本くらい。言ってしまえばダメなゲームだったわけです」

 しかし、アトラスにとっては生命線とも呼べるタイトルだった。また、まったく新しい取り組みだったからこそ「まだ可能性がある」と判断され、2作目の企画がスタートする。鈴木氏は、容量の兼ね合いで削ったストーリー性、そのほか発想を注ぎ込むことに決めた。

「1作目は、原作に沿った設定でした。しかし、2作目ではオリジナルの設定とストーリーでやらせてもらったんです。ありがたいことに、原作の西谷史先生からも許可をいただけました」

 こういった鈴木氏のラディカルな発想が、以降の『女神転生』シリーズの方向性を決定づける。すべては、「ゴブリンと話せない?」という素朴な疑問から始まった。“当たり前”に納得しないこと、その発想はあらゆるクリエイティブに通ずることだろう。

関口大起(https://x.com/t_sekiguchi_

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