「お前何しにきてんだよ」青木真也自主興行で見た多様な“強さ” 初心者が「客」にさせられた夜

格闘家・青木真也による自主プロレス興行「エイオキクラッチ 01」が20日、東京・新宿FACEで開催された。青木が自ら会場を押さえ、交渉し、身銭を切って集めたのは自身が愛し「指針となる」と語るプロレスラーたち。“プロレス観戦初心者”の筆者が、MMAとは全く違うベクトルで放たれたプロレスの「強さ」を感じた一夜を振り返る。

最初から最後まで楽しそうだった青木真也(下)【写真:(C)株式会社青木ファミリー】
最初から最後まで楽しそうだった青木真也(下)【写真:(C)株式会社青木ファミリー】

「エイオキクラッチ 01」が20日に開催

 格闘家・青木真也による自主プロレス興行「エイオキクラッチ 01」が20日、東京・新宿FACEで開催された。青木が自ら会場を押さえ、交渉し、身銭を切って集めたのは自身が愛し「指針となる」と語るプロレスラーたち。“プロレス観戦初心者”の筆者が、MMAとは全く違うベクトルで放たれたプロレスの「強さ」を感じた一夜を振り返る。


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 筆者は定期的に青木の取材を行っているが、決してプロレスに詳しいわけではない。大会が行われた新宿FACEという場所に足を踏み入れたのも人生で2度目ほど。試合後のインタビュー方法なども現場の大先輩記者さんに聞いたほどで、右も左も分からないいわゆる“初心者”だ。

 では、なぜ取材をしたのか。それは「青木真也の個展」に興味があったからに尽きる。自腹を切ってまで“客”に見せたいものは何だろう。難しいことを言うことの多い青木が夢中になっている人はどんな人たちなのだろう。“格闘家”青木真也を追っている人間のひとりとして生で見る以外の選択肢はなかった。

 入ってみればそこは純度100%、どこか答え合わせをしているようだった。note、voicy、YouTubeといった媒体で青木に触れてきた人間ならば、例え選手の姿を知らなくても、この日の試合を見れば自ずと名前が出てくる。そんな感覚だ。

橋本千紘(左)の強さに惹きつけられた【写真:(C)株式会社青木ファミリー】
橋本千紘(左)の強さに惹きつけられた【写真:(C)株式会社青木ファミリー】

橋本千紘と山﨑裕花の1分間の攻防にくぎ付け「倒しにきたんじゃねーのかよ!」

 まず驚かされたのは空間を掌握してしまう選手たちだ。オープニングファイトの宮脇純太―高鹿佑也の2人が投げ技にスムーズな関節技を見せ、観客を一気に引き付けた。静かだが、そこにはいつ極まるか分からない攻防を見守る緊張感があった。

 特に観客を巻き込む力を感じたのはスーパー・ササダンゴ・マシンと黒潮TOKYOジャパンだった。スーパー・ササダンゴ・マシンは大会開始前に十八番であるパワーポイントを使って見どころを解説した。元松竹芸能所属のレスラーとあって、トークも仕上がっており、もはやプロレス漫談。ボケのようなスライドも入れ込み、笑いを誘い、会場全体を温めた。

 福山雅治の『HELLO』で入場した黒潮TOKYOジャパンは積極的に観客と触れ合い。肩を組んでリズムに乗ったり、熱いハグもしてしまう。会場をあっという間に自らのホームに変えていた。この交流があってか、試合中も黒潮があおるとすぐに観客もチャンティング。一緒に試合を作っているようだった。

「これが勝ち・負けではない強さだ」と思えたのは、エル・リンダマン、橋本千紘、T-Hawk。まず、リンダマンの背中に般若を背負っているような筋骨隆々な肉体は練習量の多さ、コンディションの良さを感じた。試合中には、阿部史典のバックに付き、クラッチを組むと、たくましい広背筋を使ってゆっくりと持ち上げる。そこからまたスローに見えるようなジャーマンスープレックスを繰り出す姿には美しさすら感じられた。

 リング上の橋本は、「レスリングエリート」という肩書きだけでは到底片付けられないほど、理屈抜きに“強かった”。入場のたたずまいから動きのキレ、パワー、そして受け身に至るまで、プロレス初心者が見てもその実力差は歴然だった。

 その強さと懐の深さが最も際立ったのが、山﨑裕花との攻防だ。山﨑が渾身(こんしん)のエルボーを連打しても、橋本には全く効かない。「お前何しにきてんだよ」「倒しにきたんじゃねーのかよ!」。厳しい言葉であおりながら容赦なく踏みつけ、相手の感情を引き出していく。そして、その言葉に奮起した山﨑が死に物狂いでドロップキックを放つと、橋本はそれを見事に被弾して豪快に倒れた。

 単に圧倒してだけではない。約1分間、相手の攻撃を真正面から受け続け、戦いの中で山﨑のポテンシャルすら作り上げてしまっていた。

思わず目を背けてしまうほど強烈な逆水平チョップを放つT-Hawk(右)【写真:(C)株式会社青木ファミリー】
思わず目を背けてしまうほど強烈な逆水平チョップを放つT-Hawk(右)【写真:(C)株式会社青木ファミリー】

青木真也が珍しく表で素を見せた「これが今の僕の居場所で」

 T-Hawkは「逆水平ひとつで試合を作る」。青木が試合前に言っていた言葉だ。

 最初にこれを聞いた時は、正直「そんなまさか」と思っていた。しかし、この日の試合を見て、圧倒された。バチン!という生々しい衝撃音が新宿FACEの空間を包み込む。受ければ呼吸ができなくなりそうなほど、すさまじい威力の逆水平チョップ。

 特にそれに苦しめられたのが格闘家・宇野薫だった。T-Hawkのチョップ一発で表情をゆがめ、沈められていく様に観客はくぎ付けになった。試合後の宇野の胸板は無惨な赤紫色に腫れ上がり、風が吹いただけでも激痛が走りそうな状態だった。だが、そんな宇野の表情には、不思議と清々しい笑顔だった。

 観客を巻き込む話術、相手を輝かせる受けの美学、そして一撃で会場を支配するチョップ。この日のために招集された青木が「大好きなプロレスラーたち」は、MMAとは全く違うベクトルで、強さを放っていた。

 メインイベントでは青木がケンドー・カシンに勝利。リングの中心に立った青木がマイクを握った。そこでの表情はMMAの会見で見せるような斜に構えた顔ではない。筆者がインタビュー中に見てきた素の姿だった。

「ケンドー・カシンになりたくて、ケンドー・カシンに救われて、ケンドー・カシンに、ずっと憧れて生きてきて良かったと思いました。僕はずっと居場所のない人生だったんですけど、カシンのおかげで生きてこれました。先輩、今日はありがとうございました。初めての自社興行で、やっぱり居場所が僕にも必要だと思っていて、これが今の僕の居場所で。みんな、居場所とか、本番とか、勝負とか、人生において必要だと思うんです。

 今日の皆さん本当、二つ返事で試合を受けてくださいました。オープニングマッチから全員、僕が大好きなプロレスラーで、僕の指針となるプロレスラーたちです。今回、関わってくれたみんな、本当にありがとう。また、第2回、やろうと思ってます。ただ、これ、すごい労力と、すごいお金がかかるわけです。俺、これね、去年の11月の持ち出しだから。青木真也、今年、もう一試合格闘技あります! 復活します。そして、また皆さん一緒に踊りましょう! ありがとうございました!」

 大会前のインタビューで、青木は「当日に出るレスラーたちを見て、お客さんになってほしい」と口にしていた。全試合を見届けた今なら、その言葉の真意がよく分かる。それぞれの強さと表現力を持ったレスラーたちが放つ熱量に、普段プロレスを見たことのない観客も、気がつけば我を忘れて声を上げていたはずだ。筆者もまた、この空間に心を動かされ、仕事を忘れ「お客さん」になりかけた一人である。


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