もし喫煙者が消滅したら…「消費税は1%上がる」 経済評論家が「喫煙者の権利を保障すべき」と主張するワケ

もし誰もたばこを吸わなくなったら――。非喫煙者にとって喜ぶべきことなのだろうか? 上がり続けるたばこの価格、そして喫煙者減は決して他人事ではない。2000年代に入って以降、日本の喫煙者数は減少し続けているが、たばこ価格の上昇により、たばこ税の税収2兆円は20年以上変わらず維持し続けている。これだけの金額の税金は、いったい何に使われているのか? そして、もしたばこ税がなくなったらどうなるのか。経済評論家でエコノミストの門倉貴史氏に聞いた。

門倉貴史氏が「たばこ税」について評論家の目線で語る
門倉貴史氏が「たばこ税」について評論家の目線で語る

経済評論家・門倉貴史氏が解説する「たばこ税の裏側」

 もし誰もたばこを吸わなくなったら――。非喫煙者にとって喜ぶべきことなのだろうか? 上がり続けるたばこの価格、そして喫煙者減は決して他人事ではない。2000年代に入って以降、日本の喫煙者数は減少し続けているが、たばこ価格の上昇により、たばこ税の税収2兆円は20年以上変わらず維持し続けている。これだけの金額の税金は、いったい何に使われているのか? そして、もしたばこ税がなくなったらどうなるのか。経済評論家でエコノミストの門倉貴史氏に聞いた。

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――そもそも毎年2兆円ともされるたばこ税収は一体、何に使われているのでしょうか。

「たばこ税が何に使われているかは明らかにされていません。税には目的税と一般財源になる場合と2つのケースがあります。特定の用途に使われるのは目的税ですが、たばこ税は目的税ではないので、何に使われているのかは、私たちからは分からないんです。おそらくですが、地方自治体に入るものに関しては災害の際の支援金、道路や下水道の整備、教育施設の建設、老人ホームの運営などさまざまな用途で使われていると推測されます。市民生活の向上に使われていることは間違いないと思います」

――喫煙者からは、たばこ税を使って喫煙所の数を増やしてほしいという声も聞かれます。

「現状、そういったものに使われている可能性もありますが、おそらく、それ以外の一般市民の生活に役立てることに使われています。たばこ税の一部を目的税化し、喫煙所の整備などに一定の金額を充てるようにするのが理想ではあると思います。いずれにせよ、この2兆円はすごく大きな額で、市町村にとっても貴重な財源になっているのは間違いありません」

――20年以上、2兆円という税収は大きく変わっていません。喫煙者が大きく減っていますが、その分価格が上がっているからでしょうか。

「現在のたばこ1箱580円の中で、たばこ本体の価格は222円。約6割が税金です。たばこ税の1番の特徴は、喫煙者の数に関係なく常に2兆円が維持されています。増税すると一定数、たばこをやめようという人が出てくるので喫煙者は減ります。一方でたばこは依存度が高く、どれだけ価格が上がっても吸い続ける人も一定数いることは間違いありません。価格を上げるとどのくらい喫煙者が減るかを見ながら、税収が2兆円を維持できるように、うまく財務省が税率を設定しているのかなと個人的には思っています」

――そんな中でも、たばこに対する世間の風当たりは年々厳しくなり、喫煙者は肩身の狭い思いをしています。

「たばこの値段の上昇に加え、2020年から健康増進法が改正され、基本的には屋内で喫煙するのが禁止になりました。喫煙者を毛嫌いしている非喫煙者の中には、たばこを吸う人が極論を言えばゼロになってもいいという人がいるかもしれませんが、2兆円という税収もゼロになってしまいます。この財源がなくなってしまうと、他でカバーする必要が出てきます。

 たばこ税の2兆円は、例えば消費税なら1%分に相当するので、これがもしなくなるのなら消費税を1%引き上げるということになり、結局は非喫煙者の方にも税負担という形でマイナスの影響が出てきます。やはり喫煙者と非喫煙者がある程度歩み寄って、どこかに着地点のようなものを作る必要があります。例えば喫煙者が、害の少ない加熱式たばこを選択肢の1つとして考えるようになれば健康被害も少なくなりますし、政府も変わらずに安定的な税収を得られます。

 また喫煙に反対される方の主張としては、受動喫煙による健康被害で医療費がかさみ、税収があってもトータルで見れば国民の負担が増すため、たばこを吸うのはやめた方がいいというものがあります。それについても加熱式たばこには、周囲の人への健康被害が少なくなるという客観的なデータもあります。個人的には加熱式たばこを選択肢の1つにすることが、喫煙者と非喫煙者にとっての妥協点になると思っています」

オーストラリアのたばこはひと箱3000円

――これからさらに喫煙者が減ると、たばこの価格がさらに上昇する可能性はあるのでしょうか。

「上がっていくでしょう。当然、政府は2兆円の税収を常に維持しようと考えていると思うので、たばこの値段が1%上がると、どれぐらいの人が吸うのをやめるかを試算して、それを考慮しながらタイミングを見て値段を上げていくことになるでしょう。国際比較で見ると、オーストラリアでは今、日本円にするとひと箱3000円くらいなので、まだまだ日本のたばこの値段を上げても大丈夫だろうという読みはあると思います。

 一方で、国際データでは喫煙者は所得階層で見ると低収入の人が多いというデータもあり、たばこの値段をどんどん上げていってしまうと、生活費の負担がどんどん重くなり、格差を助長することにもなりかねません」

――門倉先生自身は非喫煙者だとお聞きしましたが、喫煙者に対して寛容です。

「もし2兆円の税収がなくなったらどうするんですか、という話になってきますし、健康増進法によって喫煙所もどんどん減らされている状況なので、そうするとたばこのポイ捨てなんかも増えてしまって、大きな問題になっている。それは本来目的としていることではありません。だからこそ歩み寄りが必要。個人の意識の変化も重要ですが、やはり政策当局もあまり一方を締め付けるような政策はどうなのかなとは思います」

――そもそも喫煙所が増えないのは、どうしてなのでしょうか。

「喫煙所を作ると、そこに煙が集中したり、町の景観に影響したりするのではないかといった反対の声も大きいので、自治体としても積極的に喫煙所を作るのは現状では難しいのかなと。ただ喫煙所を増やすことが、分煙を促進することにつながる。私は国が率先して、どんどん整備していくべきだと思います」

――やはり政府主導で進めていくことが必要ということですね。

「喫煙が違法でない以上は、喫煙者の権利もきちんと政府が保障する必要があります。非喫煙者の肩ばかりを持つような政策は望ましくないと思いますので、喫煙所の設置、分煙対策については政府の財政資金からやっていく必要があると思います」

□門倉貴史(かどくら・たかし)1971年10月30日、神奈川県生まれ。52歳。1995年慶応大経済学部卒業、同年銀行系シンクタンク入社。99年日本経済研究センター出向、2000年シンガポールの東南アジア研究所出向。02年から05年まで生保系シンクタンク経済調査部主任エコノミストを経て、現在はBRICs経済研究所代表。同研究所の活動とあわせて、フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』など各種メディアにも出演中。

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