朝倉海、UFCデビュー戦で「いきなりランカー戦」の可能性も 榊原CEOが交渉する意味

RIZINの榊原信行CEOが渡米し、UFCのダナ・ホワイト代表との会談を行ったのは今年2月のことだった。内容は、RIZINフライ級王者の堀口恭司と同バンタム級王者の朝倉海のUFC参戦に関する交渉だといわれているが、実はそれと並行して、別の目的が存在すると見る向きがある。今回はこれを、20年以上の格闘技の取材歴があり、RIZIN関連の取材において多角的な分析をするプロレス&格闘技メルマガ「DropKick」のジャン斉藤氏に語ってもらった。

朝倉海【写真:山口比佐夫】
朝倉海【写真:山口比佐夫】

「悪いようにはしない」(榊原CEO)の真意

 RIZINの榊原信行CEOが渡米し、UFCのダナ・ホワイト代表との会談を行ったのは今年2月のことだった。内容は、RIZINフライ級王者の堀口恭司と同バンタム級王者の朝倉海のUFC参戦に関する交渉だといわれているが、実はそれと並行して、別の目的が存在すると見る向きがある。今回はこれを、20年以上の格闘技の取材歴があり、RIZIN関連の取材において多角的な分析をするプロレス&格闘技メルマガ「DropKick」のジャン斉藤氏に語ってもらった。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 RIZINの榊原CEOがUFC側との会談で、堀口恭司と朝倉海に関するUFCへの参戦交渉について話し合ったことはほぼ間違いないが、斉藤氏は「実は会談内容はそれだけではないのではないか」と推測する。

「ダナ・ホワイトがイチ選手の契約レベルで会談の場にはわざわざ出てこないんです。マスコミに対してリップサービスはかかせない榊原さんもこの件だけはなんにも漏らさない。全貌が見えないからモヤモヤするし、RIZIN批判につながってますよね。例えば『榊原CEOがUFC行きを邪魔しているんじゃないか』とか『朝倉海には時間がないから、早くUFCに行かせてあげればいいのに』とか」

 実際、榊原CEOは「悪いようにはしない」「邪魔をしているわけではない」とのスタンスでいるが、斉藤氏は「何かしら選手にメリットがある話し合いが行われているのではないか」と見ている。

「堀口恭司選手は33歳、海選手は現在30歳。UFCでひとつの負けが大きな後退になりかねない年齢なので、ファンが一刻も早いUFC行きを願う心理はよくわかります。いまのUFCはよほどの大物ではないかぎり、デビュー戦からメインカードで扱われることは難しい傾向がある。フライ級は層が薄いので、この2人の実績ならうまくいけば2~3戦でタイトルマッチの可能性はあると思います。海選手が階級を下げずにバンタム級のままで戦うなら、UFCのバンタム級はUFCのなかでも2番目に層が厚い階級。どこから試合を始めるかが重要になってきますね」

UFCのダナ・ホワイト代表はRIZIN以外の団体はボロクソ

 現在のバンタム級は70人程度の選手が競い合っている激戦区。最下層からスタートすれば、ランキング入りまでに2年近くかかってもおかしくない。タイトルマッチまでは長い道のりだ。

「2連敗スタートとはいえ、その後10連勝したメラブ・ドバリシビリが7年かかってようやくバンタム級王座に挑戦できそうな戦場ですからね。これはあくまでボクの推測ですが、海選手の実績的には最下層からのマッチメイクになると思うんです。そこで榊原さんはデビュー戦からいきなりランカー戦の話し合いをしているのかもしれない。交渉次第でスキップして上から行けるのであれば、それは海選手にとってもいいことじゃないですか。だから榊原さんが言う『良い形で送り出したい』というのはそういうことなのかもしれない。RIZINチャンピオンとして、スタジオマッチのUFC APEXではなくの大会、ナンバーシリーズの大会場でデビューしてもらいたい、とか。そこはRIZINでスターになった選手の今後を気にしているわけですけど、さすがにRIZINにも何かメリットがないとそこまでやらない。やっぱり榊原さんは海千山千のプロモーターですから、何か企みがあるはずなんですよね」

 興味深いのは榊原CEOが渡米後の会見上、「ダナにプロポーズしています」と語っていたことだろう。

「この春、UFCによる独占禁止法の集団訴訟裁判があって、最近(3月21日)の3億3500万ドル(約506億円)で和解が成立した。この影響によって、他団体と協調路線が敷かれる可能性は、今よりも出てくる場合がある。まあUFCは事実上の世界征服をはたしてしまってるから、わざわざ他団体と何かをする可能性は低いんですが……でも、そのタイミングで榊原さんがダナと交渉しているし、その事実をダナは会見の際に明言しているんですね。基本的にダナは他団体に関してはボロクソで、眼中に入っていない姿勢を見せる人なんですけど、今回のRIZINだけは交渉があったことを認めている。となると、選手の契約を超えた話を何かしらしていることは間違いないんじゃないかなと」

 ダナ代表と榊原CEOといえば、2007年3月には六本木ヒルズアリーナで、当時、PRIDEの代表だった榊原CEOが、当時、UFCの権利を持っていたロレンゾ・フェティータに売却し、UFC対PRIDEの全面対抗戦を実現するためのイベントを盛大に行ったが、結局それは実現しなかった。

「だからといって、榊原CEOがRIZIN売却みたいな話をしているとは思わないです。MMA市場を支配してしまったUFCはRIZINに限らず、他のメジャー団体の買収には興味がないですから」

日本人初のUFC王者誕生の日はいつか

 だとすると、榊原CEOはいったいどんなプロポーズをしているのか。

「UFCの懸念材料だった独占禁止法の集団訴訟裁判が落ち着いたことで、近いうちにその答えは明らかになるんだろうなとは見ています。ただ、プロポーズが成功するかどうかはともかく、堀口選手も海選手はUFCと契約できる流れになるとは思います。ただ、ここまで話といて怖いことをいうと、あくまでUFCが契約する気があれば、なんですよねぇ。いまのUFCはガリバー過ぎて、どんな判断をくだすかよく分からないんですよ。だってフライ級最強だったデメトリアス・ジョンソンや、ヘビー級最強だったフランシス・ガヌーが出ていっても、そのブランドやビジネスはまったく落ちてないんですからね」

 デメトリアス・ジョンソンはアジア最大の格闘技団体ONEに移籍、フランシス・ガヌーは中東オイルマネーを背景にしたPFLに移籍したが、世界最高峰のUFCの牙城は切り崩せていない。

「いちばん確実なのは査定企画を通過すればいいんですけど、ワンマッチ形式の『ダナ・ホワイト・コンテンダー・シリーズ』は軽量級は基本的に取り扱っていないし、3試合勝ち抜きトーナメントの『ROAD TO UFC』は優勝してもUFC出場まで1年半近くかかりますからね。それこそ時間がない、ですよ。いまのUFCは契約の方針が変わっていることや、日本市場の価値、立て直し中のフライ級をどう見ているのか……いろんな要素が絡み合ってくる話ですけど、榊原さんの交渉がいい後押しになってくれればいいんですね。それすなわち日本人初のUFCチャンピオン誕生につながります」

 ともあれ、ここまで来たら年内は難しくても、来年以降の早い段階で、日本人初のUFC王者の誕生は見てみたい。RIZINのアプローチはどんな展開をもたらすのか。

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