俳優の芋生悠（いもう・はるか）は、今月15日公開の映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』（井上淳一監督）でヒロイン役を務めている。映画界のレジェンド・若松孝二監督がこしらえたミニシアター「シネマスコーレ」の劇場アルバイト役。複雑な感情を抱えて、もがく女性像を演じ切っている。「私の代表作のひとつになった」「今を生きる若者たちにも勇気を与えられる作品」と話す26歳の素顔に迫った。（取材・文＝渡邉寧久）

芋生は2015年から俳優活動を開始。今年で10年目に入った。着実にキャリアを重ね、映画、ドラマ、CMに多数出演している。歩みを振り返って、言った。

「順調でしたけど、悔しい思いもたくさんしています。でも、すごい人に恵まれているというか、全部が人との出会いででき上がっています。今回の共演者も若松プロの方々も、一生ものです。死ぬまで役者をやりますが、いつかまた会うだろうし、その時に『成長したね』って言われたいです。私の俳優人生は全部出会いと再会でできています」

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、名古屋市に実在するミニシアター、シネマスコーレを舞台にしている。創設者は、今は亡き若松監督。映画館経営に乗り出した監督とスタッフの奮闘記、映画に懸けた青春ドラマで、主人公の監督を井浦新が演じている。撮影は行われたのは2年前。ロケは2～3週間かけて名古屋市で行われたが、芋生は撮影直前、井浦から発せられた言葉が忘れられないという。

「『これは若い2人にかかっているから』って、若松監督に弟子入りする井上淳一（杉田雷鱗）と私で張り合うように伝えられました。『だったら、バチバチやるか』と思って腹をくくりました」

芋生が演じる金本法子は、映画監督への思いを抱えながらも、井上とは違って遠慮がち。そのため、劇場のアルバイトとして日々をやり過ごしている。時は1980年代。予備校講師が、教壇に並べた缶ビールを飲みながら講義をするシーンが当たり前のように描かれている。TBS系連続ドラマ『不適切にもほどがある！』でも示されている昭和終盤の光景だ。「女性だから」という抑圧も確かにあった。金本もそんな空気を感じると同時に、誰にも言えない国籍問題も抱えていた。

「台本を読んだ時に、金本像が『パッ』と浮かびました。あまり時代にとらわれずに、金本の抱えている悩みや葛藤を持っていればいいかなと思っていました」

役作りは自然に降りてきた。そして、もう一つ頭に浮かんだことがあった。

「役柄にもワクワクしましたが、キャストが井浦新さん、東出昌大さんと決まっていたので、『ご一緒して得られるものがありそうだな』と直感的に思いました。台本を読んでいるうちに、動いている役者さんが見えたんです」

直感は当たり、これまで芋生が味わったことがなかった新たなメソッドを獲得することができたという。

「役者同士で話し合うことをしてこなかったので、井浦さんに『ここ、こうしようと思うんだけど、やってみていい？』と言われたことが、すごく新鮮でした。東出さんも常に声をかけてくれました。『初めまして』でしたが、そんな気がせずに皆さんとコミュニケーションが取れました」

と同時に目を見張ったのは、現場スタッフが次々に井浦や東出のことを好きになっていく様子だった。

「人を魅了する力というか、現場で愛される力を学びました。お芝居の点も含めて、学ぶことが多い現場でした」

自分の中に新たな風が吹くのを実感した。そして、自身を解き放つこともできたという。ビルの屋上で撮ったラスト近くのシーンでのことだ。監督から「自由にお芝居してください』と指示された芋生は、体が自由に動かなかったことで東出に『気持ちはあるけど、体がついてこないんですけど、どうしたらいいんですか」と相談。東出は「台本が体に入っているのは当たり前だと思うから、いったん取っ払って自由に動いてみたら」という風に返してくれたという。

「リハーサルの時に、『バーッ』と動いたら全然違う景色が見えて、そこから新しい感情が出て来て、これまでとは全然違ったんです。リハーサルが終わってモニターを見たら東出さんが『全然、違っていていいじゃん』って。『体の動きから感情を受けた』という経験は映像では初めてでした。東出さんがおっしゃったから、怖がらずにできたと思います」

実は、当時から芋生は演じることに迷いがなくなり、「舞台をやれば『舞台って面白いな』、映画をやれば『映画がいいな』、ドラマをやると『ドラマもいい』」と欲張りなり、演じる未来を信じられる状況にもなっていた。そこに『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』の現場で感じたことが加わった。

「若松監督は『何でも挑戦した方がいい』と考える人だったので、私もそのイズムを受け取りました。若松イズムがちょっと体の中に入りました」

言葉通り、芋生は役者として「いい出会い」を繰り返している。まだ、26歳。今後もさまざまな現場で、多くを吸収することだろう。乾いたスポンジのように。

□芋生悠（いもう・はるか）　1997年12月18日、熊本県生まれ。2015年から俳優業を開始。以降、映画、テレビドラマ、舞台、CMなどに多数出演。20年、映画『ソワレ』で主演を飾り、注目される。近年の映画出演作は『こいびとのみつけかた』『夜明けのすべて』。今後の公開作には『次元を超える RANSCENDING DIMENSIONS』などがある。