尾上菊之助、我が子を犠牲にする初役に「堪える」 片岡愛之助も「精神的に疲れる」

歌舞伎俳優の尾上菊之助と片岡愛之助が13日、東京・中央区の歌舞伎座タワーで行われた歌舞伎座『三月大歌舞伎』、『四月大歌舞伎』の取材会に出席した。取材会では菊之助が、初役の役どころや10歳の長男・尾上丑之助について語った。

取材会に出席した尾上菊之助(右)と片岡愛之助【写真:ENCOUNT編集部】
取材会に出席した尾上菊之助(右)と片岡愛之助【写真:ENCOUNT編集部】

三月大歌舞伎『『菅原伝授手習鑑 寺小屋』 菊之助の息子・丑之助も登場

 歌舞伎俳優の尾上菊之助と片岡愛之助が13日、東京・中央区の歌舞伎座タワーで行われた歌舞伎座『三月大歌舞伎』、『四月大歌舞伎』の取材会に出席した。取材会では菊之助が、初役の役どころや10歳の長男・尾上丑之助について語った。

 菊之助と愛之助は、三月大歌舞伎の昼の部『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてらないかがみ)寺子屋』と夜の部『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』、四月大歌舞伎の昼の部『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』と夜の部『四季』で共演。メインキャストである2人が3月4月の昼夜連続で2か月同じ舞台に立つ。

 現在上演中の『菅原伝授手習鑑』は、平安時代の菅原道真の失脚事件を中心に、道真の周囲の人々の生き方を描く物語。『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』と並び、義太夫狂言の3大名作のひとつとされている。その中の四段目の切場(最後の場面)が『寺子屋』で、菅丞相の子・菅秀才(かんしゅうさい)を救うために、自らの子を犠牲にする松王丸を菊之助が初役で演じる。松王丸の子で、菅秀才の身代わりになる小太郎を丑之助が演じる。

『寺子屋』では、過去に菅丞相に仕え、現在は寺子屋で手習いを教えながら菅秀才をかくまっている武部源蔵(愛之助)が、敵対する藤原時平の家臣に、菅秀才の首を差し出さなければならなくなる。源蔵は寺子屋の子どもたちを身代わりにしようと考えるが、山育ちの子どもたちは菅秀才に似ても似つかず、困り果てる。しかし、その日に寺入りしてきた小太郎が器量もよく高貴な顔立ちで、源蔵は小太郎を身代わりにすることを決める。

 首の検分役としてやって来た松王丸は、首桶の中の小太郎の首を確かめると、「菅秀才の首」と見間違え、去っていった。しかし松王丸は、過去に仕えていた菅丞相と敵対する時平についたことを後悔し、菅秀才を助けるために実の息子の小太郎を寺入りさせたのだった。身代わりにされるとわかった上で息子を寺入りさせ、実子の首と知りながら検分を行っていた。

 初役で松王松を務める菊之助は、「三大名作の菅原で、名場面中の四段目の切りということで、私もこの作品に魅了されて育ってきました」と振り返り、「松王丸の心情ですよね。小太郎という自分の宝物を、忠義を尽くすために、自分の子どもを犠牲にしなければならない。夫婦の子どもに対する思い、また、小太郎から親への思い。親子の情愛というものが強く描かれています」と説明。「先人たちが築き上げてきた宝物。高い、エベレストのような山に向き合って、自分はその入り口に立てているのかわからないですが、憧れの気持ちを持って、日々挑ませていただいております」と語った。

 劇中では、寺子屋に通う百姓の子どもの親たちが、身代わりにされたのではないかと我が子を心配し、迎えに来る場面が。菊之助は「お百姓さんが子どもたちを迎えに来る場面を、これまでは何気なく見ていました。でも今月、初めて松王丸をやって、お百姓さんが自分の子どもたちを抱いて帰ったり、(子どもの)鼻水を拭いたりする場面が、堪えるんですよね……。松王丸にとっては、どれだけ小太郎とこういう時間を過ごしたかっただろうと」と思いをはせた。

 愛之助は、「初役とは思えない、素晴らしい松王丸です」と称賛し、「僕は、(小太郎の首を討つ)源三は二度目ですが、場がすごく重いんですよね。今月も、ものすごく精神的に疲れるんです。肉体的には疲れないけど、精神的には本当に、『(討ち首を)やり遂げた』って……しんどく辛い」と、物語の内容ならではの大変さも吐露。「でも、物語はものすごく暗く重いのですが、芝居のキャッチボールはすごく楽しくて、始まる前にワクワクします」と語った。

 小太郎を演じる丑之助について聞かれた菊之助は「小太郎は九つで、丑之助は10歳。年齢が近いということで、今回は小太郎で出させていただきました」と説明。「役の気持ちですよね。親からすれば、恩義のために犠牲になった子ども。子どもからすれば、犠牲になるということだけでなく、大好きなお父さんとお母さんのために腹を決めて、自分の命の捨て所を決めたんですよね。犠牲になるのではなく、“愛する人や家族を守るため”というのを、『そういうことなんだよ』と話しています」と語った。また愛之助も、「凛としていて、すごく声が好きですね。痺れます」と丑之助の魅力を語った。

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