いとうあさこ、お笑いの原点は舞台『アルプスの少女ハイジ』…「ロッテンマイヤー先生の役を任されて」

いとうあさこが、劇団山田ジャパン公演『愛称⇆蔑称』(今月7日開幕、東京・六行会ホール)に出演する。いとうは劇団創立時からのメンバーでもあり、学生時代にはミュージカルを学んでいた。ピン芸人としてブレイクし、芸能界を歩んできた53歳が、人生における演劇との関わりを熱く語った。

インタビューに応じたいとうあさこ【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたいとうあさこ【写真:ENCOUNT編集部】

7日から劇団山田ジャパン公演『愛称⇆蔑称』に出演

 いとうあさこが、劇団山田ジャパン公演『愛称⇆蔑称』(今月7日開幕、東京・六行会ホール)に出演する。いとうは劇団創立時からのメンバーでもあり、学生時代にはミュージカルを学んでいた。ピン芸人としてブレイクし、芸能界を歩んできた53歳が、人生における演劇との関わりを熱く語った。(取材・文=大宮高史)

 今年で17年目を迎える山田ジャパン。いとうは同劇団の舞台には創立時から毎年欠かさず出演してきた。

「きっかけは結成前年です。当時の私は仕事がほとんどありませんでした。そんな時、芸人仲間だった大野泰広と飲んでいて、ふと『演劇が好きで、やっぱり舞台もやりたいな』と言ったら、ちょうど山田が劇団を立ち上げたくて、女優を探しているタイミングだと聞きました」

 今や売れっ子脚本家の山田能龍氏は、山田ジャパンの立ち上げ前は芸人や俳優、コメディー作家として活動していた。その芸人時代、一緒だったいとう。

「昔はよく一緒に遊んだり、年齢も近かったのでイベントで共演することが多くて、芸を戦わせていました。ただ、しばらく会っていなかったので、大野につないでもらい再会しました。山田と立ち上げメンバーが私のお笑いライブを見に来てくれたんです。そこで、『いとうあさこを入れていい』と全会一致で許可をいただきました(笑)。そのまま新宿の飲み屋さんに直行し、劇団メンバーとしての契りを交わしました。2007年の12月のことです。人の縁でした」

 いとうは20代で舞台専門学校の夜学で通い、ミュージカルコースを選んだ。

「実は特別ミュージカルをやりたかった訳ではなかったのですが、演劇科が演劇論など座学が多かったため、実技のみのミュージカルコースを選んだんです。学費もアルバイトで稼いでいましたし、夜学で時間がなかったので『とにかく実技を!』と思っていました」

 だが、受講するうちにミュージカルの魅力に目覚め、出演を望むようになった。

「影響されやすい性格なので、『ミュージカル最高。出たい』って思い始めました。まだお笑いなんて眼中にない頃で、芸人よりも先に舞台俳優志望だったんです」

 専門学校の在学中から卒業後まで、舞台のオーディションを受け続けるも惨敗続き。そんな中で思い出に残っているのが、劇団四季の書類選考を通過したことだった。

「もう、20歳を過ぎていたしスタイルにも自信がない。『小さい頃からレッスンしている人にかなうわけない』と思っていたところ、学校の中で私だけが書類を通過したので、大騒ぎになりました。というのも、『四季のオーディションでは浅利慶太先生が履歴書を投げて、拾ったものを通す』という都市伝説がありまして。運試し的な。なので、『お前が書類を通る訳ない。うわさは本当だったんだ』なんて言われました(笑)」

 オーディション現場のことは、今でもよく覚えているという。

「映画の『コーラスライン』そのものの光景でした。番号で呼ばれて、音楽に合わせてその場で振り付けを覚えて踊っていく。周りはダンス経験豊富なスレンダーな方ばかり。私は中肉中背(笑)。緊張しまくりの現場でした」

 結果はもちろん、不合格。その後、ファミリーミュージカルの選考に合格して『アルプスの少女ハイジ』の舞台に出演した。この時の経験がお笑いにつながった。

「ハイジに厳しく当たるロッテンマイヤー先生の役でしたが、なぜか演出家の方から『ロッテンマイヤーはいとうさんに任せます。アドリブで自由にハイジをいじめてください』と言われ、自由にやらせていただくことに。張り切って毎日ネタ帳を作って、ハイジのいじめ方にバリエーションを持たせてみました。すると、嫌われ役なのに、カーテンコールで客席の子どもたちが『ロッテンマイヤー!』『バァ~カ!』って罵倒しながらも大笑いしてくれて。.この舞台で自分が試したネタで笑ってもらう楽しさを知りました」

 1997年には、専門学校同期の友人とコンビ・ネギねこ調査隊を組んで芸人の第1歩を踏み出した。

「それでも、40歳ごろまで10年以上、売れない日々でした。なので、山田ジャパンで喜劇ができることもうれしかったです」

 山田ジャパンは「笑うことは、人が生き延びるための最後の知恵」と考える山田氏の感性を生かし、コメディーの中でも深いテーマを訴える芝居を作ってきた。

「毎年、山田ジャパンの舞台は最優先でスケジュールを抑えています。みんなで笑いを作っていくのも本当に楽しいですし、山田の人生哲学がこもった言葉を通じて人生観まで豊かになるように思います」

 今回演じる大山佳奈は、長野県の田舎の中学校のベテラン教頭。思い出のロッテンマイヤー役に似ているのではないだろうか…。この質問にいとうは「コメディーですし、もっと『楽しく平和に過ごそう』という性格の人です」と笑って返した。そして、言った。

「私が『やっぱり、喜劇が好きなんだ』と出演のたびに実感できる場所ですね」

 山田ジャパンでは、1人の喜劇俳優として輝ける。いとうはその喜び感じながら、今回も日々の舞台を務めていく。

□いとうあさこ 1970年6月10日、東京都生まれ。1997年にお笑いコンビ・ネギねこ調査隊を結成し、2003年まで活動。以降はピン芸人として活動。現在のレギュラー番組は日本テレビ系『ヒルナンデス!』『世界の果てまでイッテQ !』『上田と女が吠える夜』、フジテレビ系『トークィーンズ』。特技はタップダンス、フィギュアスケート、素もぐり。162センチ。血液型AB。

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