内藤哲也はなぜファンに支持されるのか 若手時代に何も知らない女性ファンを虜にしたエピソード

日本マット界、いや世界中のファンが注目する「真夏の祭典」新日本プロレスのG1クライマックスを制したのは「制御不能な男」内藤哲也だった。早速、団体に改善点を提示するなど、らしさを発揮しているが、その根底にはファンファーストの想いがある。

得意のポーズを決める内藤哲也【写真:柴田惣一】
得意のポーズを決める内藤哲也【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.158】

 日本マット界、いや世界中のファンが注目する「真夏の祭典」新日本プロレスのG1クライマックスを制したのは「制御不能な男」内藤哲也だった。早速、団体に改善点を提示するなど、らしさを発揮しているが、その根底にはファンファーストの想いがある。

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 頭角を現し始めた若き日のこと。あるパーティーで、プロレスを全く知らないという女性と出会った。新日本プロレスも、内藤が人気選手だということも知らない様子だが、プロレスに興味はあったらしい。「え、プロレスラーなんですか。すごい! 私、プロレスラーに会ったのは初めてです。腕とか太くてたくましいですね」という反応に「良かったら、試合を観に来て下さい」とニッコリ笑いかけた。

 ここまではありがちな応対だが、宴がお開きになる頃「今度試合、行きますね」という女性に「約束ですよ」と人懐っこい笑顔で念押し。「は、はい! 絶対行きます!」と顔を赤らめる女性。後から聞いたところ「キュンとしてドキドキした」という。もちろん観戦に行ったそうだ。

 内藤はベルトをぶん投げたり、G1の優勝旗を落としたりもするが、ファンのことは「お客様」や「ファンの皆様」という言い方をする。これは若手の頃からずっと変わらない。「ファンあっての興行」だということは常に頭に置いているそうだ。

 人の心は移ろうもの。ほんのちょっとのことでファンにもなるし、ガッカリしてしまうこともある。もちろん聖人君子ではないから、疲れている時や機嫌の悪い時もあるだろう。だがレスラーにとっては忘れてしまうような些細なことでも、ファンにとっては一期一会、一生の思い出になる。

 こんな話がある。GLEATのカズ・ハヤシは、少年時代、街で人気選手に遭遇。緊張しながらも「〇〇さんですか」と思い切って声をかけたところ「違うよ」と否定され、追い払うような仕草をされたという。この時のことは、夢をかなえレスラーになり、ベテランになった今でも、忘れないそうだ。「ファンだったから悲しかった。自分はそういう対応しないように心がけている」とキッパリ。

 昭和のオールドファンは「お目当ての選手にサインをもらおうとしたら、とても冷たい態度を取られショックだった。でも次に出て来た坂口征二さんが優しく対応してくれたので感激し、一発でファンになった」と振り返る。以後、変わらずに坂口さんを応援。ファンクラブを運営し、本まで出版している。「もし、お目当ての選手がサインしてくれていたら、その選手をずっと応援していたと思う」と遠い目をした。

 内藤の会場人気はすごい。入場した時から大いに盛り上がる。変幻自在な試合内容ももちろんだが、ファンを大事にする姿勢に共感が集まっている。内藤自身もファンだったからこそ、ファンの熱い心がよくわかるのだろう。

 若いころから自分自身のことだけではなく、ファンを大切にし、団体全体を俯瞰の視線で見ていた。「まずはもっと自分のことだけで良いのでは? まだ、キャリアも浅いし」というと「いや、僕だけでは成り立ちません。みんなで団体を良くしていかないと」と返された。あまりにしっかりした「チャンピオン視線」に、いささか驚いたことをよく覚えている。

 すごい選手になる。そう思った。その後の活躍には目を見張るばかり。想像の上を行く素晴らしい選手になった。

 そんな内藤ももうオーバーフォーティ。41歳でのG1優勝は、蝶野正洋、棚橋弘至に続いて3人目の快挙となる。体はボロボロだろう。だが情熱は一向に衰えない。現時点では、長州力が44歳で優勝したのがG1史上最高齢だ。その記録を塗り替えるかも知れない。

「トランキーロ! あっせんなよ!」。内藤の笑顔がますます輝いてきた。

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