【週末は女子プロレス♯112】震災チャリティーでプロレスを知ったMIRAI 春夏連覇をめざすシンデレラストーリー

現在、スターダムで活躍するMIRAIは、小学5年生のときに東日本大震災を経験した。当時、彼女が暮らしていた岩手県宮古市、重茂半島の自宅や母校は幸い難を逃れたものの、家業をはじめ周囲は甚大な被害を受けている。

5★STAR GP優勝を目指すMIRAI【写真:スターダム提供】
5★STAR GP優勝を目指すMIRAI【写真:スターダム提供】

デビュー発表は初代タイガー出席のストロングスタイルプレスの会見で行われた

 現在、スターダムで活躍するMIRAIは、小学5年生のときに東日本大震災を経験した。当時、彼女が暮らしていた岩手県宮古市、重茂半島の自宅や母校は幸い難を逃れたものの、家業をはじめ周囲は甚大な被害を受けている。

「被害は直接は見なくてすんだんですけど、当日はずっとサイレンが鳴ってて、何がどうなっているのかまったく分からず、すごく心配でした。でも、高学年というのもあったので、自分がしっかりしなきゃみたいな気持ちでなんとか過ごしていましたね」

 重苦しい雰囲気が漂い続けていた日々の中で、ある日、柔道仲間の友人からプロレス観戦に誘われた。それまでプロレスを知る機会さえなかったのだが、友人は新日本プロレス、棚橋弘至のファンで兄とともにレスリングも習っていた。この年、チャリティー大会として宮古市では何度かプロレスの大会が行われ、その中で新日本のレスラーもやってきた。10・15宮古市魚菜市場駐車場大会だ。

「彼女を教えていたレスリングの先生が新日本とつながりがあったようで、試合後にはみんなで写真を撮らせてもらいました。そのときが初めてのプロレスだったんですけど、それまでの沈んでる雰囲気をガラリと変えてくれたし、レスラーの方たちが試合で盛り上げてイヤなことを忘れさせてくれたんです。そんなプロレスにすっかり魅了されてしまいましたね」

 その後、いくつもの団体が東北でチャリティー大会を開催。その多くにMIRAIも足を運んだ。そのたびにプロレスの魅力にはまっていくこととなり、親とともに東京まで観戦に出かけるまでになったという。

 翌年のゴールデンウィークには初代タイガーマスク、藤波辰爾、長州力らが参加するレジェンドが山口県巌流島で大会を開催、ここに東北の被災者が招待された。その中の1人に選ばれたのが、中学1年生のMIRAIだった。

「本州最西端の山口と最東端の重茂半島をつなごうみたいな感じで参加者の募集があったんです。ゴールデンウイークに下関でお祭りやプロレスを見られるということで、ほかの人は『山口を旅行できる!』みたいな感じだったんですけど、私は『プロレス見られる!』と思って応募しました(笑)」

 巌流島でのプロレス観戦後、参加者を交えた会食があった。ここで彼女は新日本の元営業部長で「過激な仕掛人」の異名をとる新間寿と知り合った。もちろん、アントニオ猪木の異種格闘技戦やIWGP構想の仕掛け人であることを彼女は知らない。それでも自身のプロレス好きをその席で熱く語った。イベント後にはあらためて手紙を送り、感謝の気持ちを表した。これを機に、新間、初代タイガーとの交流が始まったのである。

「タイガーマスクさんも参加されると聞いていたのに来られなくなっちゃったのかなと思いながらその場にいたんですけど、最後に写真を撮りましょうとなったときに、何人かがマスクを被りだして、この人たちがマスクマンのレスラーだったんだって(笑)。その中のひとりが(初代タイガーの)佐山さんだったんですよね」

 彼女のプロレスへの思いはさらに増していく。中3で初めて夜行バスに乗り、1人で東京にやってきた。新日本の両国大会を観戦するためだった。プロレス観戦を繰り返す傍ら、将来は何をしようかと考えるようになっていく。最初は医師になりたいとの夢を抱き、震災に関するドラマのオーディションを受け芸能に興味を持つと、中学、高校にかけて俳優養成所に通ったりもした。その過程で自分の好きなことを仕事にしたいとの思いが大きくなり、やがてはプロレスに関する仕事がしたいと考えた。柔道で大学進学との話もあった中で、彼女はプロレスラーになろうと決意、KAIENTAI DOJOの門をたたいたのである。

「勝負どころではやっぱり左ですね」とラリアットについて語るMIRAI【写真:新井宏】
「勝負どころではやっぱり左ですね」とラリアットについて語るMIRAI【写真:新井宏】

「私を通じて『スターダムを見て!』と言えるようなベルトに」

 その後、東京女子に移籍し、2019年5月3日の後楽園大会にて舞海魅星(まいうみ・みらい)のリングネームでデビュー。デビュー戦はもちろん東京女子だが、デビュー発表は、新間、初代タイガー出席のストロングスタイルプレスの会見で行われた。

 東京女子では同世代で切磋(せっさ)琢磨、経験を積んだ彼女は、さらなる刺激を求め戦場をスターダムに移した。リングネームをMIRAIにあらためての初登場は、昨年1・3新宿。ジュリア率いるドンナ・デル・モンドの新メンバーとして現れ、すぐに朱里のワールド・オブ・スターダム王座に挑戦するなど抜てきを受けた。朱里のDDM離脱とともに、MIRAIは新ユニット、ゴッズアイに合流、壮麗亜美をタッグパートナーとし、今年4・23横浜アリーナではゴッデス・オブ・スターダム王座を4度目の挑戦で初奪取してみせた。

 タッグ戦線以上に、MIRAIはシングルで結果を残している。その発端が昨年4月のシンデレラ・トーナメント優勝。白川未奈、鹿島沙希、なつぽい、コグマを破り一気にシンデレラへの階段を駆け上がった。夏のシングルリーグ戦5★STAR GPでは優勝戦線にいたイメージこそ希薄だったものの、終わってみれば岩谷麻優、鈴季すずと並ぶブロック2位につけていた(ブロック1位のジュリアが優勝)。さらに今年のシンデレラ・トーナメントでは羽南、飯田沙耶、ジーナ、壮麗、桜井まいを破り、岩谷につづき史上2人目の2連覇を達成した。

 そして迎えた今年の5★STAR GP。MIRAIには昨年なしえなかった春夏制覇への再挑戦で、ワンダー・オブ・スターダム王者として2人目の5★STAR GP優勝が懸かっている。過去、ワールド王者が優勝した例はなく、ワンダー王者の優勝も第1回(12年)の愛川ゆず季のみ。さらには春夏制覇は17年のトニー・ストームだけで、MIRAIが勝てば日本人初の快挙となる。

 開幕戦の7・23大田区では渡辺桃に敗れ黒星発進となってしまったMIRAI。しかし、リーグ戦は始まったばかりで公式戦はあと8試合も残されている。シングル王座初戴冠のMIRAIがマークされるのは至極当然。開幕戦で対戦した桃は白いベルトの最多防衛記録を樹立した実績があるだけに、ここで敗れたのは今後あらためて身を引きしめる、「魂込めて」闘うためのいい教訓になったのではなかろうか。

「魂込めて」とは、MIRAIがスターダムで使用しているキャッチフレーズ、決めゼリフである。東京女子時代から「東北ストロング魂」をキャッチフレーズにしていた彼女は無意識のうちに「魂込めて」を使っていた。それはプロレスと接しているうちに自然に身についた言葉だったという。

 また、その言葉、すなわち魂を技に乗せたのが、左腕で打ち込むラリアットだ。MIRAIのレフトハンドラリアットは同世代の中でもひときわ威力が際立っている。とはいえ、一時は利き腕の左が使えなくなる可能性もあったという。

「基本は右なので、(K-DOJOの)練習生のときに直そうかという話になったときがあったんですよ。でも、リッキー・フジさんが『これも個性だから残した方がいいんじゃない?』と言ってくれて、右での練習もしつつ左でも打つようになりました。右でも打ちますけど、勝負どころではやっぱり左ですね」

 魂込めた左腕でどれだけ白星を積み重ねられるか。5★STAR GPで白いベルトの王者MIRAIの真価が問われると言っても過言ではないだろう。マークがきつくなるシリーズを乗り越え、どんな王者像を築き上げていくのか興味深い。たとえば、ベルトを引っぺがした中野たむは「情念」、最多防衛記録更新の上谷沙弥は「全力」をテーマに白いベルトのカラーをつくりあげてきた。ならば、MIRAIはどうなのか。

「歴代王者には『私を見て!』というような人が多かったと思うんですよ。ワンダー王座の白いベルトってスターダムの象徴じゃないですか。なので、私を通じて『スターダムを見て!』と言えるようなベルトにしたいと思いますね」

 つまり、MIRAIを見ればスターダムが見えてくる。そんな王者をめざすということか。これからの、MIRAIの未来に注目だ。

(文中敬称略)

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